※5話の流れの話?続きものです。




松野カラ松という人間について、私はわかっているようでわかっていない。
他人どころか自分すら、人間をすべて理解することなどできないのだから、それはそれでいい。だけど私は自分よりいくらも大きいこの男が、とても儚く見える時がある。それが、

それが、なんだろう。


「こんなところで珍しいな」

そう声をかけてきたのは、私がたったの今まで思索に耽っていた相手だったので少し驚いた。カラ松はおでんの屋台の暖簾をくぐり、私の隣に座った。だけど店主であるチビ太はいない。急用があるとかで、すぐ戻ってくるからと留守を預かっている次第だ。かと言って、私も客用の椅子に座り、サービスしてもらったお酒をちびちび舐めているだけだ。そのことを説明すると、カラ松は勝手に皿を出し、さえばしで具を取り出した。

「勝手にそういうことしちゃう〜?」
「まあ相手はチビ太だしな」
「私の監督不行届きって言われちゃうじゃん」
「じゃ、内緒だな。お前も共犯だ」

そういうとカラ松はもう一つ皿を出し、はんぺんとがんもをそこに盛り付けた「練り物好きだったよな」「うんまあ」この寒空で腕まくりをした腕が目の前をゆらゆらと動く。鍛えられているのか、その腕は私の倍くらいはありそうだ。まくった腕の袖から、ちらりと包帯が見えた。私は一瞬呼吸を忘れたが、ニッコリ笑ったカラ松に私の好きな具ばかり乗せられた皿を差し出され、聞くタイミングを失った。

「今日は皆は一緒じゃないの?」
「…ああ、その、たまには静寂を味わいながら一人で飲むのも悪くないと思ってな」
「そっか、でも、今日は私につきあってもらおっかな」

そうへらりと笑うと、カラ松も破顔した。
カラ松の感情の起伏はわかりやすい。きっと、何か嫌なことがあって兄弟から離れたくなったのだろう。
今度は私がコップを取り出し、飲んでいた酒を注いでカラ松に渡した。「乾杯しよ」カツンと鳴ったコップからこぼれる酒がアスファルトを濡らした。今日はカラ松を潰す。

「ただいまぁって、カラ松来てんじゃねーかよ」
「おかえりチビ太。あ、おでん貰ったよ」
「別に構わねーが…カラ松潰れてんぞ」
「うん。なんか嫌なことがあったみたいだよ」
「はあー」

結局カラ松は、私に頑として何があったのか口を割らなかった。

「チビ太はなんか知ってる?」
「んあ、まあ…」
「いいよ、聞かないよ」

そういうとチビ太は安堵の息を漏らした。何があったのか知らないけど、カラ松は誰かを悪く言うことは決してなかった。私は私に勧められるままに酒を煽り、どんどん顔を赤くしていくカラ松を見ながら、自分の心に巣食うもやに一つの答えを出した。
誰のことも責めない、自分も嫌わない、かと言って聖人君主でもない、カラ松の存在。ふわふわしすぎていて、掴めない。腕を掴んでもするっと透けてしまいそうで怖い。捕まえておきたい。
カラ松は隣で確かに寝ているのに、とても遠くにいる気もする。

そう、私は、怖い。
カラ松がいなくなることが。カラ松に傍にいてほしい。
それが私が出した答えだった。大体、こんな大男捕まえて儚いとか何言ってんだという話だ。多分私が考えてるほどカラ松はふわふわしてない。六つ子で一番ニート生活に罪悪感を感じてないのはこいつだし、自分を決して崩さないマイペースさを持っている。私が心配する必要なんて、きっとこれっぽちもないのだ。
でもどうしても、理解したくてやたらに触れようとしてしまう。なぜそんなことをするのか?答えはひとつ。

「私カラ松のことが好きなのかもなあ」
「……は?」
「タクシー呼ぶね。一緒に帰る」

わたしも大概酔っぱらっているようだ。カラ松のコップに残った酒をぐっと煽る。
タクシーを待っている間、チビ太は私にこう言った。

「お前にはもっといい男がいるだろうが、カラ松にはお前しかいねーかもな」
「そうかな、カラ松はいい男だよ」
「そう言えるのが、お前くらいってことだよバーロー」

要約すると、酔狂なやつだぜ。ということだ。
私は笑顔でチビ太に手を振って、まともに歩けないカラ松をタクシーに押し込んだ。
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