※アブノーマルな一松




「俺みたいな精神異常者寸前の社会的弱者に出されたものを素直に飲むなんてバカじゃないの?」

一松は全裸でたばこをふかしながらそう言った。ので、私は一松をグーで殴りたくなった。しないけど。振りかぶった腕についた無数の噛み跡やキスマーク、青あざを見てうんざりした。

「そのせいでこんな目にあったんだしさ」
「あんたがしたんでしょうが」
「そうだけど」

あまりにも白々しいので、ひっこめたはずだったグーを軽く一松に当てた。
ありとあらゆるところが痛い。痛いというか全身に強めの倦怠感があるというか…。

「てめえ」
「ぎゃっごめんなさい!」
「もう遅いから」

そう言って一松はグリグリと短くなった煙草を灰皿に押し付けた。そして楽しそうな顔でこっちに近づいて来たので、逃げられないとわかっていても逃げる。この過程は大事だ。なんというか、逃げないと人間としての尊厳的なものが損なわれる、気がする。
でも一松は私が言うのもなんだけどヤバい変態なので、私が逃げるのを喜んでいる。捕まえるのが楽しいのだろうか。平凡な私には一松の考えることはわからない。
狭い和室で、布団を挟んで対峙する。全裸で。今更一松の一物がブラブラしてる程度のことで頬を染めるほどウブじゃない。結果の分かりきった鬼ごっこに興じる。一松もせめて優しく捕まえてくれればいいのだけど、結果的に私は足首を掴まれて強かに床に倒れ込んだ。
痛いなんて言っている場合ではない。畳と一松の挟まれて、何も起こらないわけがないのだ。もう何回戦目かわからないけど、明日も仕事があるから勘弁してほしい。

「蔑んで」
「え」
「蔑んでくださいよ」

あ、変なスイッチ入ったな。
私は明日腰痛を推して仕事をする羽目になることを悟る。敬語が入った時の一松は特別ねちっこい。でも、一松に文句を言うチャンスだ。

「い、一松、流石に年頃の女性をガムテープでぐるぐる巻きにして悦ぶのは変態すぎる。私をガムテープで巻いてる時の顔、完全に性犯罪者だったよ。正直、一松のこと怖かったもん」
「うん」
「勢いよく引きはがすの、痛いってわかってやってるでしょ。私、痛いの別に気持ちよくないし。あと、そんなに抑えつけなくても私は逃げないから……あと、もう変な薬使わないでよ!あれ、やだ…なんか、こわい、し」
「うん」
「あと、えっと…」

なんで、言葉で攻撃してるのは私なのに、こんなに追い詰められなきゃいけないんだろう。一松の相槌という脅迫は私に有無を言わせない。最早暴言でもなんでもないただのお願いになってきてる気がするけど、それでも一松は恍惚の表情で私を見下す。
だめだ、何も思いつかない。

「へたくそ」
「、ぅ…」
「かァわいい」

だいいち一松に投げかける言葉全て、私にも跳ね返ってくるのだ。私だってこんなどうしようもなく救えない一松のことが好きで仕方ないんだから。
一松は私の目じりにたまった涙をべろりと舐めあげ、唾液の絡んだ舌を私に差し出した。

暗転。
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