御堂筋くんとお酒を飲む日が来るなんて思ってなかった。だいたい、高校卒業以来久しぶりに会った御堂筋くんが私を飲みに誘うなんて考えてもいなかった。まあ、誘いというにはあまりに稚拙なものだったけれど。
特筆するべきことは特に何もない。あえてひとつあげるとするならば、自転車を離れてみれば御堂筋くんは案外普通の人で、少しお酒に弱いということだ。
私はそれがなんだか不思議でおかしくて、いつもよりもお酒が進んだ。それはそれは愉快な酔い方をしていて、草食動物のように大人しい御堂筋くんにひたすらどうでもいい話をしていた。だから、どうしてこんな話になったのかは覚えていない。

「…ボクなあ、おらんのや、親」

それは私が知った、初めての御堂筋くんのプライベートに触れる情報だった。しかし私が受け止めるには大きすぎる。こんな大きな問題を、高校3年間一切部員に勘付かせることなく過ごしたなんて。御堂筋くんの孤高さが少しうかがえた。酔った頭では返せる言葉なんて見つけられそうにない。
それに、いったいどうして高校3年間隠し通した情報を今さら私に言ったのか?もう赤の他人と言ってもいいような関係になったからか、酔った勢いか、またまたそれとも。私がぐるぐる頭を働かせているのを尻目に、御堂筋くんはまるで何もなかったかのようにグラスの氷を揺らしている。

からん

居酒屋は喧騒にまみれているはずなのに、氷の揺れる音だけが私の頭に響いた。
そして、ふとさみしいのかな、という思いが浮かんだ。それは全く根拠のない直感だったけど、直感だからこそ確信もあった。
御堂筋くんはずっとさみしくて、でもそれを満たせる相手がいないから、今みたいに知らないふりしてごまかしてきたのかもしれない。
そう思うと母性本能に似た感情が私の心をきゅうと締め付けて、私は酔いの勢いにまかせてわしゃわしゃと御堂筋くんの頭を撫でた。

高校生だった頃の私には、こんなこと想像できないだろう。
不気味で圧倒的で絶対だった御堂筋くんの頭を撫でる私がいるなんて。
御堂筋くんの髪は濡らしたようにやわらかくて、撫でている私も心地よかった。
意外にも御堂筋くんは私の手を振り払おうとしない。ただじっと両手でグラスを包み込み、私の手を受け入れていた。うつむいていて表情はわからない。

あとで知ったことだけど、背の高い男の人は頭を撫でられることがあまりないらしく、お酒の席などで頭を撫でられると何かスイッチが入ってしまうらしい。

気がついたらホテルで下着だけで寝てたんだから驚いた。
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