大学生になって離れたところに行ってしまった荒北さんが久しぶりに地元に帰ってくると連絡を寄越したのは、前日の夜だった。
もっと早く言ってよ!とライン連打攻撃をお見舞いしてもどこ吹く風。とにかく明日帰るから、放課後駅で。とのことだ。彼らしく必要な要件だけ伝えてラインはさっさと打ち切られる。それでも眠れるわけがなかった。荒北さんが直前に帰郷を伝えたのは、もしかしたら正解かもしれない。何日も前からろくに眠れないのはしんどいから。
「良い子にしてたかよ」
夏ぶりの荒北さんは、もこもこに着こんでいた。そういえば寒がりだったなあなんて思い出す。私に気づいてこちらを向いても、体をぎゅっと縮こめたまま。
「荒北さん太った?」
「おめーは相変わらずだなァオイ」
怒ったような笑ったような表情の荒北サンは、その大きな手で私の頭をガシガシとかきまわした。やめてと言ってもやめてくれないし、むかつくけど、同時に懐かしさも感じた。
「着ぶくれすごいよ」
「こっちさみィんだよ」
こうして軽口を交わしあうのも、夏ぶりかあ。そう思うとなんでも許せてしまいそうな気がする。もみくちゃにされた髪を直していると、ふと荒北さんからの視線を感じた。
「お前のその、冬のいつものカーディガン」
「え?」
「の色」
「これ?が何?」
「お前っぽい」
私があっけにとられ返事を考えられないでいるうちに、荒北さんは行くぞと歩き出してしまった。でも、すぐに追いつける速度で歩いていたので、走る必要はなかった。すぐに隣に並んで歩き出す。
荒北さんは似合う、とは絶対言わない。