呻るような風の音が強く響く夜だった。
ただでさえ寝つきが悪く、目をきつく閉じ、布団を頭までかぶって無理やり寝付いたはずだったのに、何かのはずみで弾かれるように目が覚めた。
よくわからないけど、何か悪い夢を見ていた気がする…。
布団は自分の体温で程よく温まっているはずなのに、なぜか体温が下がっていく心地がした。
もう怖くて眠れないなんて年齢でもないのに。
漠然とした不安がみぞおちのあたりに燻っている。

時間を確認するためにスマホをつけると、目に痛いほどの光で、それ以外何も見えなくなった。
まだ日付を跨いでもいない。
ほんの少し自分の心に甘えが生じ、同じ苗字が六つ並んだあいうえお順の3つめをダイヤルした。


「もしもし、カラ松」
「もしもし?珍しいな、お前がこんな時間に電話なんて」
「…特に、理由はないんだけど…」

カラ松の低く落ち着いた声を聞くと、波のように胸にせりあがってくるような不安は少し引いた気がした。

「俺の魅惑の声が聞きたくなったか?」
「うん、そんなとこ」
「フッ…眠れないなら、いつでも子守歌を歌いにいってやるぜ?」
「…お願いしようかなあ」

よく眠れないってわかったね、と言うと、カラ松は答えに窮した様子だった。
わかった訳じゃない。そう言うカラ松の声は、電話越しでもいつもより優しい。

「だって、もしもお前が眠れなかったら、それをうまく言えなかったら、俺が気づいてやらなきゃならないだろ」

ああ、この人のことが好きだなあ。
心の底からそう思うと、さっきまでの底冷えするような不安は熱に融かされていき、ふくふくとした充足感に満たされた。

「それじゃあ、今から行くぜ」
「ほんとに来てくれるの?」
「姫の仰せとあらば、いつでも、どこにでも」

呻るような風の音が強く響く夜だった。
こんな夜もたまには悪くない。そう思える夜だった。
そう思わせてくれる彼を心待ちにしつつ、二人分のココアを入れる準備の為に布団を出た。
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