「これ、弟のトド松。お前が見たのコイツじゃねえ?」
「あ、そうかも」
「え?なになに、…何の話?」

松野家の長男おそ松がその末弟トド松に会わせた女性に、トド松は見覚えがあった。
だが、長男と彼女が知り合いであった記憶はない。話が見えないながらも、トド松は不穏な気配を感じた。

「あなた…トド松くん?この間ファッションビルで会ったかな?」
「ああ、もしかして僕の落とし物拾ってくれた子?兄さんの知り合いだったんだ」
「うん、そう。それにしてもそっくり。」
「この間はありがとね。あと、トド松でいいよ」

トド松はすぐにこれがけん制だとわかった。兄の横にいる女性は、自分がかねてからひそかに狙っていた子だったからだ。考えることは皆同じか、と内心舌打ちを打つ。そして持前の観察眼で、彼女のバッグについたライブグッズを見つける。

「わ〜きみ、これ好きなの?僕もなんだ〜いいよね、これ。今度一緒に」
「まて、トド松」

おそ松は彼女をぐいと引き寄せ、肩を抱いた。彼女は一瞬背中が寒くなるような敵意を感じたが、見上げる顔は普通の笑顔だったのですぐにそのことを忘れた。
長男と末弟はにこにこと平和な顔でにらみ合っている。
はたから見れば明らかに不穏だったが、斜め下からの目線では気づかれぬよう、巧妙に隠されている。

「これ、俺のだから。お前のじゃない」
「え〜?なにそれ」
「わたしおそ松のものじゃないんですけど」
「ほら、この子も言ってるじゃん」

彼女はぱしんと私の肩を抱くおそ松の手を叩き落とした。まったく、年頃の女に使う冗談じゃないからね。そう苦笑する。おそ松もトド松もおどけて、「おそ松兄さんそんなんだから彼女できないんだよ」「え?関係なくない?」とそれに倣った。


「ほんとにそっくりだね、仲もいいみたいだし」そう言って彼女は帰った。兄とのけん制合戦の末ようやく手に入れた彼女の連絡先を指で撫でながら、棘を吐くために息を吸う。

「兄さんは僕が弟だから、なんでも把握できてると思ってるよね。それ違うよ」
「そんなこと思ってねえよ」
「僕たちは六つ子だから、兄さんが考えてることもわかっちゃうんだよね」
「知ってるって」
「あと、好みも一緒だし」

彼女がいなくなった空間は空気に棘がついていそうな程。とうとうにらみ合いに発展しそうという時に、どちらともなく腹が鳴った。
しばらく互いの顔を見ていたが、明らかに戦意を削がれた。同時に家に向かって歩き出す。

「あーもうおなかすいたあ」
「今日みんなでチビ太んとこ行こうぜ」
「ツケで?」
「ツケで」
「じゃあ僕皆にラインするね〜」

ほんと僕たちって、そっくりで仲良しだなあ。トド松はそう思った。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -