「それ、ええな」

そう言って指差したのは私の赤い爪だった。
鳴子は私の手を掴んでまじまじとマニキュアでコーティングされた爪を観察する。固くて乾燥している鳴子の手の感触。

「いかしとる」
「塗ってあげようか」

ぎょ、と目を剥いた鳴子ににたりと笑って、棚から取り出した赤い瓶を振って見せる。

「ワイは男やし」
「足の指ならいいじゃん。練習中に見えることもないでしょ」

その顔は納得いかなそうだけど、気にせずその足を捕まえる。本気か、という心の声が聞こえるようだった。

「ワイはお前の指キレーやなって意味で言っただけで、ワイがしたいなんてゆうてないやろ。だいいち男がマニキュアってどうなん、おかしいやろ。足ゆうでも、いくら見えんでも、てゆうか万が一見えたらどうすんねん」
「気が散る」

マニキュアの瓶を開けると、こぼれたり失敗したりするのが怖いのか鳴子は口を閉じた。その目はじっと私の手元を見ている。
ゆっくりと刷毛を出して、瓶のふちで量を整え、鳴子の武骨な爪にそっとのせる。集中して、それを爪全体に伸ばす。刷毛を爪から離すと、頭の上から息を吐く音が聞こえた。

「鳴子が緊張してどうすんの」
「いやするやろ。お前しょっちゅうこない神経使うことしとんの?」
「まーね」

大体、私が赤いマニキュアを買ったのは鳴子の影響だ。彼が赤いから。私もそれを身に着けて見たかった。なんて言ったら笑われるだろうか。

「はい、できた」
「おーきに…いや、別に頼んでへんし」

全ての指に無事マニキュアを塗り終わり、瓶を元の場所にしまう。乾くのを待つようにその場から動かない鳴子の足にふーっと息を吐く。

「アカン。なんやむらむらしてきよった」
「ええ…」
「なあこれいつ乾く?」

知らないよそんなの。
そう返すと激しいブーイングが返ってきた。私がどれだけ鳴子を好きかも知らない癖に。
実はもうとっくに乾いているはずだけど、それはもう少し黙っていよう。
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