"ハートシックと潜水病その後"


きっちり服を着た御堂筋くんは、ベッドのふちに腰かけて「なんで君なんやろな」とぽつりと呟いた。なんとも言えない、とでも言いたげな瞳を細めて、下着だけでシーツにくるまる私を見下ろしている。

「ああ、ほんまに、なんで君なんか」
「ねえ、御堂筋くん。あの、ほんとに」

した?とは聞けなかった。記憶が蘇ってきたからだ。
妙に演技っぽさが鼻につく喋り方でしなだれる御堂筋くんを見るのも初めてだった。
「現実はそんなに甘ないよ」
その言い方が、すべて諦めたような投げやりなものだったから、昨日聞いた御堂筋くんの過去と重なった。
御堂筋くんはそんな私の薄っぺらい同情心を悟ったのか、黒い手袋をした手で私を包んでいたシーツをぺらりとめくった。

「ボクな、苦手なんよ。女の人」
そう言いながら、ベッドの中にもぐりこんでくる。私は受け入れる。昨晩のことをぼんやりと思い返した。

▼△▼

あのあと薦められるままに強いお酒を飲み続けた私は、御堂筋くんと共にふらつく足どりのままラブホテルへ入った。
ベッドの上に座り込んで今にも寝てしまいそうな私を横たわらせて、私を跨いで見下ろした。
「今から自分がどうなると思う」
それに返事はしなかった。するだけの気力がなかったとも言えるし、なんとなく私への問いかけではないような気もした。

私の心臓の音を直接聞きながら、彼は目を閉じる。柔らかい髪が触れてむずがゆい。
「キミ、なんで生きとるん」

「わかんないよ、でも今は、御堂筋くんの為に生きてる」
それまで思ってもなかったようなことを平気で言う。酔いの勢いか、突然の心境の変化か。
「アホちゃう」
「うん。でも、今だけ」
私にできうる限りやさしく、御堂筋くんの頭を撫でる。やっぱり彼は拒否しなかった。
精神的なセックスだ。

△▼△

「なんで、君なんやろな」
御堂筋くんはもう一度、深く息を吐くようにつぶやいた。
「理由は必要かな」
御堂筋くんは動かない。自分の心音が胸に響いている。
「たまたま私だったことが、不思議と嫌じゃないよ。それじゃダメかな」
「どういう心境の変化なん、それ」
つつ、と私の心臓に指をあてる。
私にもわからない。きっと、これは病だろう。

おさまりきれない夜がある
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