"荒北に相合い傘を強要される"


ん、とさし出された傘を受け取ろうとしたら、ぱっと離され自分で差し出した癖に荒北は「こりゃ俺ンだ」と言い放った。
意味が分からない。
「せっかく、ちょっと優しいなって思ったのに」
「ちょっとォ?だいぶ優しーだろ。傘に入れてやるってんだからヨ」
「え、入れてくれるの?いいよ別に」

しかし、残念ながら今の私の発言に説得力はない。傘を忘れてきてしまった自分には、荒北の提案が魅力的であることも事実だ。

「ヤかよ」
「ヤじゃないけど」
「じゃ、イイだろ。決まりな、俺ァさっさと帰りてーの。疲れてんだよわかるだろ」
妙にまくしたててくる荒北に、私はうんともすんとも言えないままに傘の中に招かれる。
外の空気はとても冷たくて、思わず身を竦めた。
「さっみィ、息白くなんじゃネェの」
「流石に、まだでしょ」

言いつつも両手を口に当てて息を吐く。今日はそれくらい寒かった。
「今日もおつかれ」
「ン、おめーもな」
「荒北は部活に勉強に大変でしょ、応援してるから。」

私は推薦だから楽っちゃ楽だし。と続けても、荒北からの返事はない。不思議に思って荒北の方を見ても、その表情は伺い知れない。

「…荒北?」
「オメーと付き合ったら、毎日こんな感じなんだろうナァ」

いきなり大きな動作で上を向いて、やたらと大きい声で演技がかった棒読みで、まるで何か勢いでるように、誤魔化すように変なことを言う。
「な、何、いきなり」

「ヤかよ」
さっきと同じ質問だ。きっとこいつは私がなんて返すかなんて全部お見通しでこの質問をしているんだろう。

「ヤ、じゃないけど」
「…じゃ、イイだろ」
そっと肩が触れる。憎くも素直に胸が高鳴り、指が震えてカバンを落としそうになった。私はまっすぐ道の先を見ているけど、荒北がこちらを見ているのは、見なくても痛いほどわかる。顔が赤いのも、バレてる。

「……この間となりのクラスの可愛い女の子、部活で忙しいから〜なんて言ってフッた癖に」
「マネージャーが好きだからゴメンナサイなんて、素直に言うかヨ」
「あ、荒北」
荒北の視線は、少し苦手だ。こちらの全てを暴かんとばかりに、ずけずけと人の心に踏み込むように、容赦なく射抜くから。私は嘘が吐けなくなる。言い逃れも、ごまかしもきかない。

「…ヤじゃねーんだろ」
同時に、視界が曲線を描くように大きくブレた。荒北の青い傘も大きく揺れる。
鼻先に雨粒が当たった。

おまえを攫うまでが我が人生
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