死にたい。

スマホを握りしめたまま私は震えた。高速で走る電波を捕まえて引きずり戻したいと願っても、残念ながらそれは叶わない。力の入れすぎで白んだ指からスマホを開放し、ゆっくりと現実を再確認した。間違いない。

好きな人に関する相談ごとのメールを、好きな人に誤送信した。

涙を出しそうになりながら、本来メールを送る筈だった友達にメールを送った。”私の青春終わった”
まさかささやかな恋がこんなあっけなく終わってしまうなんて。
意中の相手、手嶋は平凡とよく言われるが、決してモテないわけではない。私は彼がバレンタインに複数の本命チョコをもらっているのを知っているし、手作りクッキーでお返しをしたことも知っている。私といえば弱虫を患って部活のメンバーに送るチョコ…部長だから少し豪華で。なんて心底情けない代物をプレゼントし、彼が常備しているチェルシーをもらった。自分でもどうかと思うけど、そのチェルシーは未だに冷凍庫に眠っている。

そのチェルシーをはじめとする私の一方的な思い出が走馬灯のように次々思い起こされ、とうとう涙が瞳を滑っていった。途端、着信が鳴る。慄きながら画面を確認すると、友達からの電話だ。通話ボタンを押すやいなや、やや焦り気味の友達の声が聞こえる。
軽く状況説明をしながら、台所へ向かう。
「もうあきらめるよ」と言いながら、冷凍庫の扉を開ける。
友達のひっくり返った声を聞きながら、チェルシーを口に放り込む。

紅茶味で、甘くて苦い。

「あ、着信きた。たぶん手嶋だ」

口の中でチェルシーを転がしながら嘯いた。ちょっとひとりで泣きたい気分だ。友達との通話を切り、嘘を吐いたことを申し訳なく思う暇もなく、本当に手嶋から着信が来た。条件反射で通話開始してしまった。なんてことだ。しかし逃げられない。ドキドキしながらスピーカーを耳にあてた

「…もしもし」
「もしもし、」

たくさん言うべきことはあるはずなのに、口を噤んでしまう。

「…お前さあ、俺のこと好きなの?」

その声から感情を読み取ることはできない。今更取り繕うのも情けなさに拍車をかけるだけのような気がして「そうだよ」と答えた。

「友達に送る予定だったんだ。それ。ごめんね、急に」
「いや…べつにいいけど。おまえ、今ヒマ?」

そりゃあまあ、友達に恋愛相談のメールを送り付けるくらいには。そうは言えずモゴモゴ予定はないと告げると、近くの公園を指定された。慌てて着替えて家を出た。
公園の入り口には、既に手嶋の綺麗な色の自転車が停めてあり、思わずごくりと唾を飲んだ。そこから手嶋の姿も見える。

「…手嶋」
「お、早かったな」
「手嶋の方が先についてたじゃん」

なんとなくこちらから用を聞き出しづらくて押し黙る。

「…おれ、お前が好きだって知ってた?」
「し、しらなかった…」

気づかなかった全然。だって、バレンタインのお礼がチェルシーだったから。絶対に振られると思ってた。だから言わなかったのに。
そう言うと手嶋は困ったように笑った。

「だってかっこ悪いだろ、男が手作りなんて。」
「そんなことないよ、器用でかっこいいなって思うし…」
「でも、手作りにした理由は金欠だからだぜ?」
「えっ、そうなの…そういえば、あの時ホイール新しくしてたね」

アホらしくなってきて、思わず笑ってしまう。手嶋も一緒に笑ってくれた。笑いが収まるその前に、じゃり、と砂を踏む音がして手嶋が一歩こちらに近づいた。

「お前の気持ちしってから言うなんて、ずるいな俺も」

初めてのキスは、チェルシーの味がした。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -