私の講義のスケジュールをおおよそ把握し、暇な時や兄弟がうざい時、ときたま猫を連れて我が家に押しかけるニート、一松は何も言わなかった。

「今日はどうしたの」

何も言わなかった。いや、いつものことではあるんだけど。流石に無視されるのはいただけない。ちゃっかりテーブルの横に座っている一松はマスクを深くかけていて、何を考えてるのかさっぱりわからない。
でもこっち見てる。すごい見てる。
愛想笑いをしてみる。が、反応はまったくない。笑い損じゃないか。

はあ、もういいや。でっかい置物だと思うことにしよう。
私は一松が来るまで読んでいた小説を読むことにした。
しかし私が物語にのめり込もうとした瞬間、耳に声が入った。

「なまえ」

一松の方を見ると、指先でちょいちょいと私を呼んでいる。さっきまで無視してた癖に。

「なに」
「来て」

テーブルを挟んでベッド側にいる一松は、むっつりと黙ってまるで動く気配がない。本当に、猫みたいにふてぶてしい奴。
ずりずりと手をついて一松の方へ移動すると、彼は長い人差し指でマスクを顎までずらした。

「キス」
「え、」
「していい」

よくない、という答えは必要とされていないらしく、私の返事を待たずに一松の唇が私のそれに触れた。むちゅっと効果音が付きそうな、それはそれはカワイイフレンチキスだった。

「な、に、を」
「セックスしていい」
「いや、いやいや!よくない!」

私が慌てて拒否すると、あからさまにむすっとした表情になった。当然だろ。なんだいきなり。

「一生童貞って…生まれてきた価値なさすぎでしょ」
「いや、そんな理由ならお断りだから」
「なまえだから言ってんだけど」
「どういうこと?」
「…言わなきゃわかんない?」
「?一生童貞が嫌なんでしょ?」

不機嫌から、呆れに表情が切り替わった。些細な変化だけどわかる。

「あー…なまえバカなんだった」
「はあ?喧嘩売ってる?」
「売ってない」
「だったら」
「もう、黙って」

今度は深いキスだった。体の奥底がゾクゾクして、怖いような、甘いような、楽しみなような、不思議な感覚が沸き起こった。思わず一松の服を掴むと、彼は唇を一度ペロリと舐めあげ、心底楽しそうに笑った。

「嫌じゃないんじゃん」
「嫌じゃないけど」
「好きだよ、なまえ」


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