私の講義のスケジュールをおおよそ把握し、愚痴を言いたい時や兄弟が問題を起こして私に謝りに来る時、ときたまツッコミ疲れたときなどに我が家に押しかけるニート、チョロ松さんは開口一番こう言い放った。

「なまえちゃんとの子どもが欲しいんだ!」

は?
お茶を入れるために立ち上がりかけた微妙な体制のまま、私は固まった。いまこいつなんて言った?こども?童貞をこじらせすぎてとうとうおかしくなったのか?
確かに、私はチョロ松さんのことがある程度好きだ。友愛か恋愛かで言うと、少し恋愛に傾き始めたところ。それはチョロ松さんも同じらしく、私たちの距離は少し、だけど確かに近づいていた。彼は誠実だし、付き合うことになるとしてもゆっくりと数を重ねてそう至るものだと思い込んでいた。
だが童貞というものは恐ろしい。ちょっと仲良くなっただけで暴走してしまうものなのか。いきなりこどもって。正直、ゲンナリ。
私の微妙な思いを察したのか、チョロ松さんは胸の前で両手を振りながら、弁明を始めた。私も座り直して話を聞く。

「いや、わかってるんだいきなりだって!でものっぴらきならない理由があって…実は、うちの両親が離婚しそうなんだ。それで誰が母さんについていくか面接…話し合いをしたんだけど、その時母さんに結婚して孫の顔を見せるって約束しちゃって……いきなり過ぎるし、理由も最低なのはわかってる!でも僕、なまえちゃんと付き合いたいんだ。なまえちゃんが好きだから。この気持ちは本物だよ」
「チョロ松さん…」

不覚にもときめいた。こんなセリフ言えない人だと思ってた。思わず熱くなりそうな頬を押さえる。チョロ松さんはそんな私の仕草を見て期待したようだ。だが

「ぜんっぜんダメ」
「そ、そんな…」
「女の子に告白するなら、もっとムードとか、シチュエーションとか、あるじゃないですか!」
「えっそっち?!」

私が好きなのは、奥手なクソ童貞のチョロ松さんなのだ。もっとこう、恥ずかしそうな顔を見せて欲しい。

「もう一回告白してください。場所とシチュエーションを変えて。そしたら、」
「そしたら…?」
「考えてあげます」

今日の私は少し意地悪かもしれない。


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