私の講義のスケジュールをおおよそ把握し、暇な時や兄弟がかまってくれない時、ときたま兄弟と離れたいときなどに我が家に押しかけるニート、おそ松さんは開口一番こう言い放った。

「なまえで童貞卒業したい」

私はすぐさまこの男を部屋に入れたことを後悔した。なんだかんだそれなりの付き合いもあり、クズだが気のいい友人ということで部屋に入れた私がバカだった。それなりの付き合いがあっても気のいい友人であってもなによりこいつはクズだ。クズが一歩こちらに近づいたので私は一歩後ろに下がった。

「やだなーなんの冗談?ぜったい嫌だけど」

なるべくコミカルな雰囲気で、しかししっかりと断る。あわよくば冗談のままこの話を流して、なるべくすぐにお帰りいただきたい。そしてこいつは二度とこの家の敷居を跨ぐことはないだろう。
しかし私の思考など奇跡のバカには通用せず、バカはわっと駆け寄って私にしがみついて来た。

「えー!いいじゃんいいじゃん俺の童貞貰ってよ!」
「やだよ!」

頬を寄せてこようとするのを両手で阻止する。だがそのせいで隙ができ、胴体をがっちりホールドされてしまった。近い近い。顔だけは死守しようとあがいたが、所詮は二十を過ぎた男と女。あ、なんかこの言い方嫌だな。とにかく力の差は歴然で、すっぽり抱きしめられる形になる。しかも腕はおそ松さんの腕に巻き込まれてまったく動かせない。

「あーなまえやわらかーい!いいにおいする〜」
「ギャー!お触り禁止なんでお兄さん!やめて!まさぐらないで!」

彼の手が私の腹をなぞって、楽しんでいる。その手は少し上に行ったり少し下に行ったりと、まったく気が休まらない。むずむずするというかくすぐったいというか、変な感じがして、一気に思考が奪われたような感じがした。これはマズい。だめだ。流されるってやつだ!力の抜けかけた体を奮い立たせ、再び離れようともがく。
しかしそんな些細な抵抗はどこ吹く風とでも言わんばかりに、私の足をひっかけてバランスを崩させた。そうしていともたやすく押し倒されているポーズになってしまった。頭をぶつけないように後頭部に手を添えられたのも、なんかむかつく。

「ほらも〜逃げられないよ?」
「ヤダ―!おそ松さんのバカ!!」
「いい加減観念してお兄さんとヤろう?」
「ヤダヤダ絶対やだ!無理!」
「…なんで?」

それまでのふざけた雰囲気を一気に打ち砕く、とても落ち着いた声だった。びっくりして言葉が詰まる。なんで年上ニートのクズとヤりたくないか?そんなのわかりきってるだろう。そう言いたくても、見たこともない真面目な顔で私を見ている。そういう顔はもっと違う場面で見たかった。

「好きな人とじゃないとやだ」
「えっ…なまえ、俺のこと好きじゃないの?」

は?

「私はともかく、おそ松さんは私のこと別に好きじゃないでしょ?」
「え?」
「へ?」
「あれ?」

なんとなく気まずい沈黙が漂う。え?何、どういうこと?おそ松さんは私のこと好きじゃなくないの?好きじゃなくないって、あれ?これ以上考えたくない。

「俺はなまえのこと、す、すきだよ」
「ええーーーー!」

「で、なまえは?」
「っえ」
「なまえは俺のこと好き?」

ニターっと笑って見せるがちっとも可愛くない。むしろ憎い。しかし可愛くないものが可愛く見え、憎いものが憎からず思えてしまう病気に私は罹っているのだ。でなければハナから得体の知れないニートを家にあげたりしない。つまり、私の負け。

「好きだよ!バカ!」
「よっしゃー!これで童貞卒業だ!!」
「最低だー!やっぱこいつ最低だ!」


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