ほほえむ


「いいにおーい」
「これをこれから食べるんですか?」
「そうだよ。魚は食べるの少し難しいかもね」

ふたりは私のすることなすこと、全部興味津々で覗き込んできた。だからご飯のよそい方やお椀の並べ方なんかを教えつつ、手伝ってもらって、初めての食卓は整った。瞳をキラキラさせた2人に急かされて、両手を合わせる。

「いただきます。」
「いただきます?」
「いただきます」

ふたりはじっと私を見ていた。なんだかやりづらい感じもするけれど、お手本役なんだなと納得して、まずお味噌汁を啜った。うん。私が作った普通の味噌汁だ。二人も真似して味噌汁のお椀を持つのが微笑ましい。湯気の出ている味噌汁を啜って、二人はほうと息を吐いた。

「なんていうか…えっと」
「なんて言えば良いんだろう?」
「美味しい?」
「は、はい!そうです。美味しいです」
「うん。すっごく美味しい。美味しいよ主」

そんなに褒めちぎられると照れてしまう。
2人は私が箸を伸ばすのを真似して、上手に箸を操っていた。刀剣たちの身に着けている知識の基準はまったくわからない。夢中で箸を進めて、あっという間に完食した。洗い物やお風呂掃除も手伝ってもらって、初めてのお風呂もつつがなく終了した。いや、だけど五虎退に「主様は一緒に入らないんですか?」って聞かれた時は困った。加州はピンときた様子で五虎退と入ってくれたけど。

そんな風に何もかも初めての2人にいろいろと教えていたら、あっという間に夜も深まってしまった。五虎退にはとりあえず、部屋は加州の反対側の私の隣をあてがった。二人の部屋に布団を敷いて、おやすみを言った。あっと言う間の1日だった。これからこれが日常になるんだなあ、なんて感慨深く考えていたら、襖を動かす音がする。障子の向こうに小さい影が見えたので「五虎退?」と尋ねると「ひゃ、は、そうです、主様…」と頼りなさげな声がする。どうしたのだろうか。とりあえず慌てて襖を開けると、心なしか瞳がさっきよりも潤んだ五虎退が居た。

「あ、あの、主様…」
「ん?どうしたの?」

できるだけ優しく言う。それでも五虎退は申し訳なさそうに両手をぎゅっと握ってもじもじしている。

「あの、その…」
「うん、なんでも教えて?」
「ぅえっと…こわい、んです。部屋が、暗くて…」

涙目上目づかいで私を見つめる五虎退は、なんというか反則だった。「じゃあ今日だけ一緒に寝ようか」と言わずにはいられなかった。ぱあ、と嬉しそうな表情を浮かべる五虎退の布団を私の部屋に運んでいたら、隣の部屋から加州が顔を半分だけのぞかせている。

「せっかくだから、加州も一緒に寝る?」
「…まあ、せっかくだしね」

少しツンとした態度に思わず微笑む。刀剣がこんなにいい子たちだとは思ってなかった。
私を真ん中にして、三つ布団を並べると部屋はずいぶん狭くなってしまったけど、特別な感じがしてとても良い。
五虎退がかわいらしい寝息を立て始め、私も寝てしまいそう…という時に、加州が小声で言った。

「ごはんが美味しいのも、お風呂がきもちいいのも、初めてだった。それで、多分…今は、なんだろ。うまく言えないけど、多分、まんぞく…かな。ありがとう、主。最初に俺を選んでくれて」
「ううん。こちらこそ、私のところに来てくれてありがとう。加州。これからもよろしくね」
「うん。俺、たくさん可愛くするから、ちゃんと可愛がってね」

月明りで、加州のいたずらっぽい笑みが見えた。
そして、初めての夜は更けていった。
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