檸檬の指先


それから今泉さんは、本当に合間を縫って、初歩的なことから丁寧に私に指導してくれた。それは部活開始前の時間だったり、休憩中だったりで、途中で切られてしまうことも多かった。だけど実際に自転車に乗ってレースをしている今泉さんから聞く自転車の話はどれも魅力的で、自転車を降りている時に笑うことが滅多にない(と私は思っている)今泉さんが、表情にはあまり出さないものの楽しそうに自転車の話を聞かせてくれる時間が、私は好きだった。

そんな日々が続き、最初は相槌を打ちながら聞いているだけだった私も、少し踏み込んだ質問やちょっとした冗談も言えるようになってきた。鳴子さんや手嶋さんが私と今泉さんを微笑ましいものを見るような目で見てくるのは少し恥ずかしいけど、今日も楽しい。

「…で、そん時のレースがすげーんだ」
「へえ…見てみたいなあ」

それはほんの些細な一言だったし、「なら見るか?DVD」という一言もまったく些細なものだった。クラスの友達と漫画を貸し借りするのと、同じトーン。

「お願いします」
「ん。明日持ってくる」

なのに何故だろう。すこし緊張した。
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