強くあれよ


鳴子が思っていたよりも、ふたりはゆっくり帰ってきた。行くときよりも二人の距離が近いのは彼からしてみれば明らかだ。思ったよりもすぐ打ち解けたようで、鳴子は少し安心した。

「ヤサシーなぁスカシぃ」

鳴子があからさまにからかう意図を持って今泉に近づいたせいで、今泉はふいと視線を外して着替え始めた。買い物袋をほとんど自分が持っておいて、なんてつれない男だ。
でも良かった。ちらりとみょうじに視線を向ける。みょうじはニコニコと寒咲と共に、たったさっき買ってきた物を整理している。やっぱり女の子は笑っていた方が良い。

「まー、良かったわ。マネージャーと仲良うできんと、部活にも支障あるやろ」
「…そうだな。でももう問題ない」

相変わらずそっけない。でもいつにも増してそっぽを向いているのは、多少の照れ。いや、人間関係をうまく構築できない自分への苛立ち。そんなものだろう。
でもだからといって今泉に何か努力する気がないことを鳴子はよくわかっていた。自転車以外のことは払いのけてきた今泉だ。今泉の人間関係は自転車を中心にまわっている。だから今、自転車からすこし外れたみょうじとうまく慣れあうことができなかったんだろう。
でも、最初の一歩目を踏み込んだ今、今泉はもうみょうじとの距離を間違えたりしないだろう。そういう男だ。少し前にみょうじに言ったように、人間嫌いでもコミュ障でもない。日常を過ごすうちに距離は縮まっていくだろう。
だったら、その一歩目を促すのが自分の役目なのだ。ガラじゃないが、身の回りが楽しく回っていないのは許せない。鳴子はため息を吐いた。

「ホンマ手のかかるぼっちゃんやでスカシは」
「頼んだ覚えはない。外周いくぞ」
「へいへい」

自転車以外の楽しみがあってもいいだろう。そう、たとえば彼女とか。
…というのはただの自分のおせっかいなので言わないでおいた。
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