ゆるやかな花の腐敗
「ハァ、ミョウジ…ッ」

 つむじに熱い吐息がかかってくすぐったい。そしてそれ以上にいたたまれなくて仕方がなかった。一度私がくすぐったがって荒北さんから逃げ出してから、嗅がれる時は腰を捕まえられるようになった。艶っぽい声で荒北さんが私の名前を呼ぶたびに、私の心が削がれるようだ。これじゃあまるで、情事の前の恋人同士のようだと、それどころじゃない頭で考える。

「……っ」
「ン…」

 私の体が強張れば強張るほど、逃がさないようにと腕に力がこめられる。いつまでこの地獄は続くのだろうと、すっかり暗くなった窓の外を見て溜息を吐きたくなった。と、その時、ベストなタイミングで私のケータイが鳴った。それまで夢中になって私のにおいを嗅いでいた荒北さんがハッとして、そっと私を解放した。

「ゴメン」
「いえ……あの、」
「もう帰んなヨ」
「あ、はい。さようなら」
「バイバイ」

 我が家は徒歩通学には遠く、自転車通学には近い場所にある。いそいそと荒北さんしかいなくなった部室から出た。荒北さんはいつも人の3倍練習するから、毎朝一番最初に部室に来るし、出るのは一番最後だ。真っ暗な部室を一瞥する。あの中で今何が行われているかなんて、恥ずかしくって考えられない。
 荒北さんの瞳を思い出す。普段は見たものすべて切り裂いてしまいそうな攻撃的な視線は、私の前ではとろんと蕩けて甘ったるい。

 私はあの瞳が嫌いになってしまいそうだ。
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