アイ・アム・イーター
「ミョウジチャン、ちょっとこっち来てヨ」

 ひとつ先輩の荒北さんの嗅覚の鋭さは、マネージャーをしていれば自然と理解できる。荒北さん曰く、私はとても甘美なにおいをしているらしい。頭にクエスチョンマークを山ほど浮かべながら荒北さんの話を聞いた。早い話私を思う存分嗅ぎたいらしい。ナマエのニオイは猫にとってのマタタビのようなもの。彼はそう言って、獣の瞳で私を射抜いた。私は箱根学園に入学して自転車競技部のマネージャーとして部室の敷居を跨いだあの日から、荒北さんに目をつけられていたらしい。

「あの、嗅ぐというのは」
「別に、下世話なことがしてえっつーんじゃねぇヨ」

 そんなことわかっている。改めてそんなことを言われたら、あたかも私が下世話な展開を期待して尋ねたようではないか。荒北さんに抗議の意思を示した。

「嗅ぐというのは、私の体臭を?」
「そ。」

 簡単に言ってくれるが、私はこれでも年頃の女だ。同年代の男性に自分の体臭を嗅がれていい気分には決してならない。なれない。できれば丁重にお断りしたい。しかし荒北さんは熱っぽい瞳で穴が開くほど私を凝視している。断りづらい。

「実を言うと、今もミョウジチャンのにおいがプンプンきてて、すっげツライんだよネ」
「えっ…この距離でですか」
「ウン。2,3日に一回嗅がせてくれれば、後は俺が自分で処理すっから。オネガイ」

 自分で処理、なんだかナマナマしい。しかも今回だけじゃないのか。それならますますお断りしたいけど、目の前の荒北さんは確かに辛そうだった。吐息には熱が籠っていそうだし、耳は僅かに赤い。風邪で熱がでているかのようだ。病人のようになってしまった先輩に対して無慈悲に断れるほど私の血は冷たくない。

「誰にも言わないなら…」
「ホント!?」

輝きに満ち満ちた荒北さんの顔が、普段の彼とかけはなれていたことで、私は少し察するべきだった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -