Follow ataraxia "Eclipse"

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正常な呼吸など侭ならない程の異物感でマキナは目を覚ました。
今までよくもこの状態で寝入っていたものだ。



「っ……」



奥までどっぷり咥え込まされた侭の男性器は朝の生理現象によって情事の其れと同じに硬く膨張していた。その快と不快の入り混じる感覚からどうにか逃れようと…身を捩ろう、引き抜こうとするも身動き一つできなかった。一分の隙もない程に密着し、背後から抱き締められたまま。上から回された腕は微動だにせず、手の平はマキナの手を覆うように握っている。



「王様……おき、てる…?」



そんな短い問いを口にするのも難儀な程に息は乱れていた。それに対する言葉の替わりに、絡められていた指が動き、人差し指を何度かゆっくり撫でられる。マキナは、無理に自身を解放しようとするのを諦めた。一度深呼吸をして落ち着かせようと試みるも、胸が上下するだけで膣内の異物の存在をより露骨に感じてしまい、呼吸は小刻みに荒くなる一方だった。

意識の目覚めと共に、眠っていた全身の細胞が波及するように覚醒を始め、神経が、あらゆる感覚器が、過剰なまでに研ぎ澄まされていく。お陰で只接触しているだけで、少し擦れただけでも過敏に感じてしまう。

一晩中、朝までこのままの状態で…背後から抱きしめられて、ずっと手を握られて。これ以上ない程に繋がっているという事実は、快感よりも安堵を感じる。その幸せを改めて噛みしめれば、不快な感覚は次第に消えて行った。

昨晩嫌という程流し込まれたままの其処が、じわじわと熱く潤いを増す。それを待っていたかのように、沈黙を保っていた其れがゆっくりと動き始めた。



「んっ…」



引いてからもう一度同じ場所まで…最奥にゆっくりと収まると、マキナは無意識に止めていた息を、はぁ、と存外甘い声で吐きだした。またしても内壁を擦りながら中程まで緩やかに引き抜かれ…そうしてまた緩慢に、戻って行く。



「あ、あああぁ…」



先程と違い、口を開いた侭その繰り返しを甘受していれば、動きに合わせてだらしなく声が漏れる。それは露骨な程に厭らしく、相手を興醒めさせていないだろうかとマキナが必死に堪えながら、恐る恐る背後を振り返ろうとするも、叶わなかった。逆に全身を相手の体重によって圧され、押し倒されていく。



「いっ…ぁ…!」



晴れてうつ伏せにされるも、その過程で相手の重心が自分に掛かり、膣内が荒く掻き回されることとなったマキナは酷く身体を強張らせた。しかし死後硬直のように固くなった身体も、やがて本格的に始まった抽送運動に打ち解されていく。



「んっ…ふ…、…むぅ…ぅ…」



強く突き上げられれば顔はシーツに押し付けられることとなる。そうなれば、より酸欠状態になって聊か意識がぼんやりとしてしまう。何度も身体が激しく突き動かされるに連れ
自身の長い髪が背中から前方に流れていき、マキナの僅かに残された視界をブラインドのように遮っていく。くぐもった嬌声は逃げ場を失い、嫌でもマキナの耳に入ってくるし、サラサラと揺れる髪も鬱陶しい。

しかしそれでも、逆に顕わになった自身の項に掛かる息が熱くて…締めあげる度に俄かに漏れる相手の呻きが愛しくて仕方が無くて…マキナは相手のお気に召すままに、と自身も一生懸命に腰を動かし続ける。



「ひっ……ぁ…!そこ…や…」



項に唇が落とされ、下へと辿っていく。肩甲骨の合間の辺りに達した時に、マキナの上体が仰け反る。思わず振り向いて相手を睨もうとするも、腰を引かれ奥を強く突かれれば、麻痺したように力を失い、またシーツの上へと倒れ伏してしまう。



「目は覚めたか?」
「この、ま…まじゃ…ぁ、…!」



このままイッてしまえば、最終的に意図せず眠りに落ちてしまう可能性も。それでなくともマキナは二度寝の誘惑に弱いというのに。意識を手放すまいと、マキナは左手でシーツを強く握りしめる。

ほとんど同じような動作の繰り返しだというのに…どうしてか、相変わらず脳がドロドロに溶け出してしまいそうな程気持ち良い。しかし、何故か物足りなさを感じるのは、マキナの視界にギルガメッシュが映っていないからだ。こんなに傍に居て、こんなに繋がりがあるのに。

自分はやっぱり強欲なのかもしれない、と 殆ど機能していない思考で必死に考えた事といえば、そんなささやかな不満と自省だった。

やがて動きも激しさを増し、マキナも歯を食い縛りながらそれに耐える。ぎちぎちに、これ以上動く事も侭ならない程に肉壁が締め上げた時──



「う、ぁ………ああ…」



最奥に達して動きが止まり、また熱く満たされていく感覚──そして言葉もなくただ、自身の頭上に落とされ続ける唇。

身体の全ての力が抜け、重力に一切抗わず自身を預けた。案の定、目の前と意識が暗転していき、シーツを握ることも出来なくなっていた。



「…よい朝だな、マキナよ」



長い口付けだけでなく、何度か頭部を撫でられた後。上から覆い被さっていた身体が離れ、やっとのことで膣内から引き抜かれる。別にどこか遠くへ行く訳でも、未だその場を離れる気配もないというのに、何故か空虚感を感じ──それを頼りにマキナは辛うじて目を開いた。

寝返りを打って、やっと自分の大好きな男の顔を見る。何しろ、昨夜眠りに落ちた時から今まで何時間も見ていなかったのだ。それどころか…まるで何日も、何週間も見ることを待ち侘びていたかのように…マキナは食い入り焼き付けるようにギルガメッシュを見詰めた。



「…どうした、物欲しそうな顔をして──…」



ぐっと相手の後頭を引き寄せて、自身の首を持ち上げてマキナは自ら進んでギルガメッシュの口を塞ぐ。すぐさま差し入れた舌を迎え入れられ、絡む相手の舌も熱く艶かしく動く。舌だけでなく、相手の唇の柔らかさが自分と違うことを、触れた自身の唇からも感じながら、向きを変えながら何度も味わう。優しく眇められた真紅の瞳と自分の瞳の焦点を一本線に合わせて、マキナは嬉しそうに、満足そうに微笑んでみせた。

それに何を思ったか、ギルガメッシュの手がマキナの右膝を掴み押し開く。思わず唇を離して、呆けた顔でマキナは呟いた。



「え…まだやるの…」
「欲しいのであろう?“もっと”」
「…!」



昨晩の情事の最中…否、お決まりのようにいつも口にしている“お強請り”に。最早、今更とはいえマキナは羞恥に頬を赤らめる。そして…困ったような拗ねたような顔と声とで言った。



「…さすが、顔のまっすぐなおーさま…」
「謗りのつもりか?我にとっては賛辞ぞ、其れは」



性的に旺盛であることの歪曲表現。欲しがっているのは自分だけではないだろう、と
皮肉を込めたマキナのささやかな抗議を聞いて、ギルガメッシュは大きく口を歪めて不敵に嗤った。



「ならばやめておくか?」
「……やだ」



頬を膨らませたまま首を横に振ったマキナを咎めることはせず、ギルガメッシュはマキナの足を持ち替え、両膝の裏辺りを掴んで持ち上げるように尚押し開く。



「そういえば、お前は我の此の顔が好きなのであったな」
「…王様は私の顔、嫌いですか?」
「嫌っているように思えるか?」



一度マキナの瞼と睫に優しく口付けたその表情もまた酷く優しく、マキナは口を一文字に結びつつも、頬がまた熱くなるのを感じた。



「…ギルガメッシュが気持ちよさそうにしてる顔、いっぱい見たい」
「ならば我から目を逸らすなよ、マキナ」



暗く影を落としながら、見上げた瞳は相変わらず紅く鮮明に見える。マキナの身体をぐっと引かれ、ゆっくりと腰が沈められた。











「どうした、我ばかりがお前の顔を見ているではないか」
「んっ…だって…!」
「…善がるお前の顔を、な」



柔らかさを取り戻した乳首を、親指と人差し指とで刺激すれば、マキナの身体が跳ね上がり、硬直して頭も仰け反る。



「は、っぁ……意地…わる…!」



尚、その先端を執拗に押し付けながら捏ねると、マキナの身体は最早金縛りにでも遭ったような有様に。



「しない、で…」
「…力を抜け、」
「む、り…ぃっ……!」



暴れる身体を自分自身でも何とか抑えようとするのも逆効果で、膣圧が増すほど、身を抉られるような苦痛に見舞われるのもやはりマキナ自身。やっとのことで落ち着きを見せたのは、また最後まで収まり切った後だった。

此処までで既に多大な体力を使い果たして脱力したマキナは、息は荒いままに肩を上下させながら──ようやくギルガメッシュの顔を正視することが出来たのだった。

何も言わずにか、言えずにか。マキナは夢現の様子でギルガメッシュを見上げ続けていた。焦点も完全には合っていないようで、涙の痕、僅かに開かれた侭の口、力の入らない無防備な肢体──その姿は白痴のようでも、生々しい程に淫らでもある。

その様子をギルガメッシュも何も言わずに見下ろしていた。やがてマキナは両目を閉じて、小さく深呼吸を繰り返す。落ち着いたのか、暫くしてもう一度ゆっくり瞼を開いたマキナは今度はしっかりとギルガメッシュを目に映していた。そんなマキナが力なく両手を伸ばすので、その頭を掻き抱き易いようにギルガメッシュは上体を屈め…顔を目と鼻の先まで近付けてやる。それだけで満足したのか、マキナはまた嬉しそうに笑った。












自身の太腿にまでどっぷり伝っている白濁を指で掬い上げ、余さないように、と舐め取るマキナ。



「美味いか」



その問いに、指先を頬張ることをやめないながらも、マキナはこくりと頷いた。美味でない訳がない。精液は最も男性の魔力が色濃く溶けている体液なのだ。そうでなくとも──愛しい男のものだ。



「…でも、勿体無い」



マキナの時代、病気も怪我も、そして避妊すらナノマシンで全て成すことができる。その製作にはマキナ自身も深く関わっており、今や体内にナノマシンを持たない人間の方が少ない。臓器の働きすらコントロールし、宿主の体調を管理する。プログラム次第でほぼ何にでも対応できるこの“万能薬”は…皮肉にも人口増加に抑制が掛からない原因の一つとなっているのだが。

舐め終えればまた別の場所から掬い上げ、口の中へ。まるで食事に夢中な子供のように熱心に両手の指を交互に咥えるマキナをどうにも愛しく思いながら、ギルガメッシュはマキナの頭を撫でた。



「勿体無いものか。お前が我に望む数少ないモノだ。いつでも、幾らでも…全てくれてやる」
「え…なんかその言い方だと…」



思わぬ発言にマキナの動きがピタリと止まる。
 チガウ、そんな意味で言ってるんじゃない。あれはただのうわ言だから聞き流して欲しい──と。
今更ながらもまた羞恥に苛まれ、マキナは両手で顔を覆った。思えばいつも、そういう…ほぼ無意識に漏らした言葉が事態を深刻に、おかしくしている気がする。

あの時だってそうだ。
当然、嘘偽りではなく、望んでいないワケはない。しかし…意を決して口にした言葉でないモノをいつも真剣に受け止められるので、マキナも困惑してしまう。

要するに、覚悟が出来ていないのはマキナの方なのだ。

“子供”についても同様で、マキナ自身は今の今までそんなコトは考えたこともなかった。年齢も年齢だ。何しろマキナ自身がまだ子供なのだから、そのまた子供の話など、想像に難いのも当然だ。しかし先日、どういう意図でかギルガメッシュが口にした言葉に最早、全く意識しないワケにもいかなかった。

子供どころか、きっと自分は生涯一人きりで、最期は喜劇にも成り得ない程地味に呆気なく野垂れ死ぬものだと思っていたマキナには、今こうして誰かを好きになるということ自体が、気が遠くなる出来事だというのに。

自身の膝上で、心此処に在らずという表情をして…未だ、稚拙な猫のように指の合間を舐め続けるマキナ。その細い身体を手繰り寄せるように掻き抱いてから、ギルガメッシュはその耳に聢と囁く。



「我はいつまでも待つぞ」



マキナは何度か瞬いてから振り向いた。



「…?」
「我とお前とに…心から望まれる子でなければ意味が無いからな」



考えていたことは全て御見通しだったらしく。マキナは息を止めて、萎れるように項垂れた。泣きそうな表情をして目を閉じていたが、涙が流れることはなかった。もう一度顔を上げ、消極的ではあったがしっかりと答えた。相手は“それでいい”と言った。しかし、今の自分の正直な気持ちを伝えない訳にはいかないのだ。



「ごめんなさい、私は当分──王様と私のコトを考えるだけで、精一杯だと思います…」






幾度となく繰り返す夜と朝の、ある日のこと。






(..)
(2011/11/30)






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