from Mayhem :13



「よかった、一緒のアリーナに入れたみたいだね」
「そうだね…」



確かによかったが、手放しには喜べない。バグ所以か、何某かの原因があるのか…一度言峰にも相談するべきかもしれない。アリス達と遭遇するだけでなく、他にも不都合が起きないとも限らない。



「――してマキナよ、そなたはあの化物にどう立ち向かうつもりでいるのだ?」



アリーナに入り、セイバーも実体化を。早速あの、真紅の風変わりな剣を携えていた。入り口で立ち止まったまま、三人は作戦会議を始める。索敵兵装(レーダー)で調べる限り、どうやらアリス達はいないようだ。そして相変わらずジャバウォックの怪物はトリガー前に陣取っているらしい。マキナは早速、凛から得た情報も交えて説明を。



「そうですね…ジャバウォックに対抗するには“ヴォーパルの剣”が必要です。それは詩の文脈から“鋭く”或いは“致命的な”剣と推測されますが、でも、作者自身が“ヴォーパルの剣”について明確に定義を付けていません。」



あの後、マキナ自身でも一度調べてみたのだが、凛の教えてくれたことに一切間違いはなく、確かに彼女がマキナを陥れようとする筈もないのだが。改めて考えると、とんだお人好しのテロリストだことだ。



「“ありす”があのジャバウォックを…“何によって倒されるべきもの”と定義したかによって倒し方が違ってきます。あくまで…“ジャバウォックを倒しうるヴォーパルの剣”と定義付けているなら“ヴォーパルの剣”が必要だし…」
「“鋭く致命的な剣”と定義付けている場合、例え“ヴォーパルの剣”と名付けられていても、それが“鋭く致命的な剣”の形を成していなければ、倒すことはできない」
「…!」 



マキナの説明を途中から白野が引き継ぐ。少々意外に思ってマキナが目を瞬きながら白野を見ると白野は割とドヤ顔で腰に両手をやっていた。



「思い出したの。マキナが“ヴォーパルの剣”を持ってたこと」
「なぬ?そなた、そのような宝具まで持っておったのか?」
「いや、宝具っていうか…まあ宝具ですけど…岸波。私ソレ使ってた?」
「うん」
「…」



 未来(かこ)の私は冬木を焼け野原にするつもりなのか?とマキナは少し呆れた。まあ、規模と威力を調整すれば大した問題にはならないだろうが…。セイバーが一人、きょとんとした様子で白野とマキナを交互に見遣っており、いつまでも彼女を一人仲間外れにしておくワケにもいかないのでマキナは、マキナの持つ“ヴォーパルの剣”についての説明を始めた。



「数年前に…反動勢力(レジスタンス)の一部の連中が、同時多発的にバイオテロを起こしたことがあって。まあ…正直割と日常茶飯事にあるんだけど。で、その時使われたBC兵器の名が“ジャバウォック”それを焼却する為に開発されたプラズマ焼夷弾の名が…“ヴォーパルの剣”というワケです」



白野も存在は知っていてもその由来までは知らなかったのだろう。セイバーと一緒になってマキナの説明に頷きながら耳を傾けていた。



「なるほど…“ジャバウォック”を打ち倒した実績のある“ヴォーパルの剣”を持ってはいるが そなたの“ヴォーパルの剣”は、“鋭く致命的な剣”の形状をしていないと。もしもあの化物が“鋭く致命的な剣”によってのみしか倒せない場合は恐らく、そなたの“ヴォーパルの剣”では太刀打ちできない…ということだな?」
「その通りです」



通用しなかった場合どうするのか、問題はそこに尽きる。しかしそれを決定するのは白野である。マキナとセイバーは、共に白野を見た。とはいえ、そう即座には決断できかねるのか、は無言のままだ。



「とりあえず…近付き過ぎたり、此方から手を出さなければ平気なんだよね?」
「うん」
「もうちょっと近くまで進んで、遠巻きに観察してみてもいい?」



レーダーの反応だけでなく、実物を見れば新しい発見があるかもしれない。白野は顔を上げ頷いた。

道中の敵性プログラム(エネミー)を、時にセイバーが、時にマキナが蹴散らしながらビスコッティを啄みながら、半ばピクニック気分で進みゆく三人の少女。しかし…二の月想海第一層もそう広いアリーナではないので、程なくして目標を発見。アリーナ内の通路と隔壁は総じて透明度の高い素材で形成されている為、対峙しなくとも、近くの通路からその姿を全貌を見ることができた。



「…アレですか」
「アレです」
「アレだな」



ソレは確かに、マキナ達の倍以上の大きさの怪物。人の形をしてはいるものの、とても空虚で大雑把な存在である。アレ程無個性な…否、中途半端に個性の無い英霊が居て溜まるか、とマキナは思う。確かに強力そうではあるが、アレは英霊などではなく、どちらかといえばその性質は“敵性プログラム(エネミー)”に近いだろう。

コレは、魔術師によって召喚された“使い魔”の類ではなかろうか。とすれば…おのずと敵サーヴァントの正体も知れてくる。クラスは『キャスター』――



「――マキナ、やってみよう」
「…大丈夫?」
「モノは試しと言うだろう?」



相変わらず決断する時は漢らしいというか、ある意味行き当たりばったりというか。決心の固そうな白野の瞳をしばし見続けた後、マキナは彼女の意思も確認せねば、とセイバーを見遣った。剣を地面に突き立て、腕組んでいたセイバーは、瞑目したまま答えた。



「うむ!それが奏者の決定ならば余は従うまでのこと。そうよな…もしもそなたの“ヴォーパルの剣”が通用しなくともこの場にはそなたと余、二人の強力なサーヴァントがいるのだ」



 二人で協力して打ち倒せば良いことだ。と既にこの英霊はマキナのことを大層信用してくれているらしく、白野と同様、猜疑の素振りもなく堂々と言ってくれたので何故だかマキナは少し心が締め付けられるように感じてしまった。



「じゃーやってみますが…とりあえず、二人とも絶対に私より前に出ないでね。あと結構眩しいから気をつけて」



マキナは歩き出し、少しずつジャバウォックとの距離を縮めていく。しかし、マキナの“ヴォーパルの剣”の性質上、対象にそこまで接近する必要も無く、大体10m程の距離を置いてマキナは立ち止まった。



「『億死の工廠(ギガデス・アーセナル)』」



前方に複数の宝具を不可視に展開。まずはプラズマ振動を相殺するための装置。耐プラズマ素材で尚超高温に耐えられる複合装甲の複数展開。他にも各種相殺装置、冷却装置などを具現化。幾らか永久機関(偽)(エネルギー・インテーク)で取り込み直してもいい。少なくとも、光エネルギーは吸収して、白野達の視覚器に影響のない明るさまで絞るつもりである。全ての準備を滞りなく終えると、マキナは既に何の逡巡もなく、ジャバウォックの上空に最後の宝具を具現化した。



「“ヴォーパルの剣”、投下」











プラズマの嵐はマキナ達を除き、アリーナを隅々まで焼き尽くした。現在発生していた敵性プログラムは汲まなく消滅し、アリーナの隔壁は溶解し、それこそマキナ達は、電子の焦土の最中に居た。プラズマの輝きを除いても、アリーナが光の粒子に分解されつつも、同時に収束を目紛るしく繰り返す。そんな様子を三人は言葉も無く見詰めていた。“ヴォーパルの剣”の凄まじさ、“ジャバウォック”はどうなったのか…嵐が収まりを見せ、そしてアリーナの全体も修復を始めた頃――



「!!」



どれほどプラズマ焼夷弾が強力でも、アリーナを損壊する程馬鹿げた威力を持っていようとも。目標を焼却できなければ全くの無意味である。で、結局――



「…ダメだったか」



幾らかダメージは追ったようだが、怪物は健在だった。それまで沈黙を保っていた怪物は、今やマキナ達を排除すべく突進を始めていた。最前面に電磁複合装甲を追加で展開。化物の拳はエネルギーシールド面と接触し、雷のような放電と共に黒焦げにされる。しかし化物の猛攻は止まらない。バーサーカーと間違われたのも納得の暴走っぷりで、自身のダメージもお構いなしで電磁複合装甲を殴り続けている。正直この様子なら、装甲が破られることもないし、破られたとしてもまた展開し直せばいいだけだが、ずっと現状を続けるワケにも行かないだろう。それにどうやら、少しずつではあるが、相手のダメージも修復されているようなのだ。



「“鋭く致命的な剣”…」



マキナの『億死の工廠(ギガデス・アーセナル)』の中で、ヴォーパルの剣の他、“剣”に由来する名前を持ち、特に強力なのは二つ。『エクスキャリバー』と『アンサラー』。しかし、片や超高層レーザー兵器、片や超巨大移動要塞…とキロメートル級の長物である。決戦場ならばいざ知れず、この場での運用は無理があるし、何より轍を踏むことになるだろう。



「マキナよ、こうなってはそなたと余とで応戦するしかあるまい!」
「………」
「“鋭くて致命的な剣”なら…多分あるよ」



意外な言葉に、マキナとセイバーは同時に白野を振り替える。白野がどこか真剣そうにじっと見つめているのはマキナで、その後、その視線はマキナの胸元に移された。



「“八雲鍵(ヘルンズ・キー)”」
「……八雲鍵はハサミで剣じゃない…よね?」



マキナは困惑をしながらも、白野が見詰めていた其処…胸元から実際に鋏を取り出してみせた。何故胸元にいつも仕舞っているのかといえばそれは“とりあえず其処に入れておけ”という製作者の御指示だからである。心臓の付近においておくことによって、何かお守りのような効果を発揮するとかしないとか。まあ確かに丁度銃弾がこの鋏に当たって致命傷が免れる…とか、そういう類の幸運はあるかもしれない。



「これが…役に立つの…かな?ジャバウォックに」
「ソレなら或いは…あの怪物にだって――」



打ち倒すことができるのではないか。そう言おうとマキナを見た白野の言葉が、思わぬ形で遮られた。



「――退かせ、マキナ」



思わずその声に、言葉に。三者一様に虚を突かれ、目を見開いたまま振り向いた。黄金の光の粒子からの…一人の英霊の顕現。紅い瞳に見据えられながら、マキナはうわ言のように呟いた。



「えっ……なんで………ココに…」



動揺しながらも、言われた通りにマキナは宝具を全て解除した。振り向き目にした男の背後には既にゲートが開かれ…そしてそこから“鋭くも致命的”で尚、眩く輝かしい刀身が顔を出していたからだ。

防壁の解除と共に、矢の如く投擲された剣はジャバウォックの怪物の眉間を貫き、あまりに呆気なく化物は跡形も無く消失した。



「“ヴォーパルの剣”の…“原典”…!?」



絶句しているマキナの代わりに、ギルガメッシュの宝具の正体を知る白野が答えを口にする。

無感情に自分を見据える紅い瞳が怖かった。『白野達には逢わない』とは伝えていない。嘘は言っていない。しかし…そんな屁理屈が果たして通用するだろうか。呼吸すら止まってしまっていそうなマキナに、白野は状況を察した。マキナはギルガメッシュに無断で白野達に会いに来ていた。そしてギルガメッシュは、マキナの行動を訝しがっていた。
現状──修羅場。



「…!…!!」



しかし、怒りもなく、嫌味一つとしてなく、ギルガメッシュはただマキナの上腕部を掴むと踵を返し、歩き出す。あらぬ方向に…しかし抗いようの無い力で引っ張られ…マキナは蹌踉めきながらも付いていくしかない。

白野は、呼び止めようと口を開くものの、しかし声が出てこなかった。それこそ、一度白野を振り返ったマキナの表情は、昨日のソレよりも、余程色を失っていたというのに。
 


(…)
(2011/11/27)






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