follow ataraxia "Eclipse" :02


「おっ…マキナじゃん」



とある夕下がり。深山町の商店街を一人ぶらぶら歩いていたマキナは…見知らぬ声に、何故か親しげに声を掛けられた。名前まで呼ばれて。



「……?」



振り向き、やって来たものを見て…マキナは目を疑った。一瞬言葉を失ってその後眉根を傾げるほど異質なものだった。頭のてっぺんから足の先までくまなく刺青を施された、黒い少年――のようなもの。赤い布を頭と腰に巻いたその姿はどこぞの民族衣装を思わせる。そして、アルトリアとネロに感じるソレと同じように――どことなく既視感を感じさせる姿形。誰かに似ている…



「あっれェ、オレのこと覚えてないの?」
「…すみません……」



 っていうか誰?と。
どうしてこんな不審者が堂々と平和な商店街を闊歩しているのだろうか。不審者が多すぎて慣れてしまったのだろうか。恐るべし商店街の人――とも思ったが、どうやら、道行く人の様子を見る限り…“見えていない”のかもしれない。幽霊かといえば、そうではなく…よくよく見れば、何となく外郭があやふやなようにも見え、一般人には知覚ができない…特殊な存在なのだろうか。目を眇めて自分を見詰めて来るマキナに、影のような少年はわざとらしく溜息を吐いた。



「連れないなー。オレが聖杯戦争の時にアンタにしたあんなこと…こんなこと──全部忘れちまったっていうの?」
「ああ…」



その言葉に、マキナは何度も頷いて何となく理解した。



「貴方も第四次聖杯戦争の関係者ですか…」
「まあ、関係者ってゆーか…」



 なんだかなー、と。何故か頭を掻く仕草をしながら、度し難いほどの憎しみと殺意で象られている筈の少年は、存外友好的な様子で答えた。



「アンタ、“オレに断りもなく”突然乱入してきただろ?」



そう言われても、マキナは頭を傾げるしかないのだが。とりあえず悪びれる素振りを見せて、何のことかもわからないままにマキナは謝罪した。



「すみません……許可が必要だったとは知りませんでした」
「いや、そういうのアンタに求めてないから…」



何がなんだか話が噛み合わないままに、互いに調子が狂ってしまう。まあ、とりあえず歩きながら話そうゼ。と、その誘いにマキナも頷いた。











「復讐者(アヴェンジャー)の英霊…“この世全ての悪(アンリ・マユ)”」



ゾロアスター教の絶対悪を司る悪神。ムーンセルの聖杯戦争に参加する際に、一通りの知識をUSTMiCで教え込まれたマキナは、当然その“英霊”の存在は知っていた。この少年(みたいなもの)がそうだというのだろうか?少し信じ難い部分があった。そして――…



「そういえば私、一度貴方を召喚したのかと勘違いしたことがあります…」
「オレをアンタが?」



頷くマキナ。聖杯戦争二日目…呼びかけても姿を現さないサーヴァントに…マキナは、『虚無』の英霊でも呼び出してしまったのではないかと思いもした。実際まだそう昔の話でもないのだが…思えば最早懐かしい。



「ってゆかホントにアンリ・マユなんですか?虚無の英霊だって聞いたんですけど…」
「あー…それはね、まーオレにも事情があんだよ、事情が」
「ほう…事情ね。事情がね」
「仰る通り、元のオレは虚無の英霊ですよ」



誰かに似ている気がするのも、その事情によるものなのだろうか。



「今思えば…虚無の英霊なんて雑念だらけの私が呼び出すのありえなかったかも」
「当然ありえるだろ。お互い反英雄だ。惹かれ合わない方がおかしい」
「……」



何を思ってか、黙りこくるマキナ。嬉しそうにするでも、嫌そうにするでもなく。意図は読めない。そもそも他人の気持ちを汲むなど、そんな億劫なことはしたくもないので、アヴェンジャーは、マキナがそもそも何をするために此処に居るかを考えた。が、思考を巡らすのもまた然り億劫。単刀直入に本人に聞いたのだった。



「ところでアンタ、何してんの?」
「肉まんを探しにやって参りました」
「肉まんならアンタの胸に二つついてるじゃん」



 ココ、ココ、と自分の胸に両手を宛てる仕草をして見せながら、他愛も無いセクシャルハラスメント。場を和ませよう(?)と殊勝な心がけで発した言葉だったのだが…マキナはまたなんとも言えない表情で沈黙していた。



「……」
「ナニ?そのカオ」



そう言われて、マキナは頬を膨らませて渋々答えたのだった。



「コレが肉まんとか…肉まんに失礼です」
「…は?」



思わぬ回答にアヴェンジャーは思わず肩を落とす。



「肉まんの方が有意義なシロモノです。こんな中途半端なのよりよっぽど!」
「いやいや…」



成程、何かコンプレックス的な…地雷的なものを踏んでしまったらしい。まあどちらにしろ、予想外な反応だったとはいえ、女性に安易に胸の話題を持ち出すのはNGだということだろう。それだけは確かだ。しかし…先ほどのバツの悪そうな表情に、何となく親しみを感じてしまった。事実、自分でも気付かない内にアヴェンジャーは笑っている。



「…アンタ…ウチのマスターに似てるわ…なんとなく」



自分に大した価値を見出せていないところなど、特に。



「私に似てるなんて…可哀想なこと言わないであげてください」
「なんで?イイ女じゃん、アンタ」
「こんなに矛盾してて適当で悪徳で厄い女のどこがですか」
「おいおい…何でも卑下すりゃいいってもんじゃないだろ」



悪魔のお節介魂に火が点きそうになったところで――しかしマキナは、はいはいと話題を打ち切って急に方向転換を。数メートルほど離れた店先に設置してある肉まん蒸器を見つけたらしい。何故肉まんを買い求めにきたかといえばそれは…とある金髪美少女騎士に対して色々と頭の上がらないことをしでかしたが故であり、海鮮フカヒレまんから黒糖豚角煮まんから…全部揃えて献上する予定だ。



「全部ください。ここにあるの」
「……」



その成金染みた悪徳な買占めに、アヴェンジャーは敢えて突っ込まなかった。


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