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「…マキナに色目を使う男、欲情する男皆首を刎ねてやります。マキナをいいように利用した男、マキナを脅した男、ぜーんぶ」
「ギルガメッシュ?」
「女の人だって例外じゃありません、君は意外と女誑しだから」
「ギル、どうしたの?何かツライことでもあった?そんなコト言わないで?」



残忍なことを言ってみせると…この幼いマキナにしては恐らく珍しく、少し狼狽して
自分を抱きしめるギルガメッシュの頭を…今度は自分から優しく撫で始めた。ギルガメッシュの嗜虐にまた少しずつ火が付き始める。



「ホラ、こういうコト言うとマキナは凄く優しくなるんです」



抱き締めていたマキナを少し強引に突き放してみせる。マキナの表情(カオ)を見れば、予想に違わず目を丸くさせていた。



「大きい君もそう。やっぱり君の本質は変わらない」
「…?」
「自分は大勢の人間を死なせるのに──自分の所為で、自分以外の誰かにヒトが殺されるのは嫌なんだ」



先程までの幸せそうな表情は何処へやら。赤い瞳を細めて無垢なマキナを見据える。



「凄く独善的で──欲張りですよね。人間を殺していいのは自分だけ?ボクを手放せないのに、他の人間も手放せませんか?」
「だって凛も廻もマイアミも優しいしイイ人だよ」
「彼女達とボク、どちらか一方しか助けられないならどっちを助けます?」
「どっちも」



躊躇なく答えたものの、その答えにギルガメッシュが満足する筈もなく、マキナも言い直した。



「…絶対どっちか選ばなきゃならないなら、ギル」
「……」
「じゃあギルはあたし以外の人間は手放せるの?」
「天秤にかけたらどちらが重いかなんて一目瞭然です。他の誰が助かっても、君が助からなければボクには無意味ですから」
「そんなの…あたしだってそーだよ」



互いに互いが好きだと言っているのに、その間に隔たるモノは何なのだろうか?そしてそんなモノは、本当に存在するのだろうか?その齟齬(ミゾ)を少しずつ、埋めていく。



「それでも、あたしはギルを誘惑する女の人を殺したいと思わないなー」



マキナはギルガメッシュの咎めるような瞳にも一切臆することなく向き合う。それは相手が子供で、自分も子供だからだ。



「ボクのこと、しっかり愛してない証拠です。マキナのボクへの愛は、ボクのマキナへの愛よりまだまだ小さいんだ」



相手が嫌がらないのだから、此方も本音を全てぶつけてしまおう。ギルガメッシュも憚りなく本音を吐き続ける。このキャッチボールすら、いつものマキナ相手では到底出来なかったことだ。



「そう?」
「マキナはまだまだボクのこと、愛し足りないんです」



そう言われたマキナは、先程までの幼稚な彼女らしくなく、少しばかり不敵な笑みを浮かべていた。釈明したいならすればいい、とギルガメッシュは無言でマキナを見つめ返す。そんなギルガメッシュの好意に甘えて…とばかりに、幼いマキナは彼女なりの持論の披露を始める。



「だって他の人関係ないじゃん、あたしには、あたしの世界にはギルだけがいればいいんだもん。他の人が生きてても死んでてもカンケーないよ」



少しだけ目を丸くし、彼女の次の言葉を待つ。



「ギルがそこまであたしのこと好きになってくれるなら、他の女の人がギルに言い寄ったって、ギルの眼中にはないでしょ?だったら他の女の人は生きてても死んでても関係ない。それとも関係ある?生きてたらギルはその女の人が気になって、浮気しちゃいそう?」



ギルガメッシュがそういう極論の話をするならば、と。先程までは寛容で多極的な話をしていたマキナも観点を変える。疑問に疑問をぶつけたマキナの言葉に思案していたギルガメッシュは、やがて答えた。



「…関係無いですね」



マキナのその問い方に、恐らくはつい先程までの自分の姿を見た…鏡写しのように見えたのかもしれない。しっかりと、真剣にマキナを見据えて続けた。



「気になりませんし、浮気もしません」
「でしょ?」



そしてそんなギルガメッシュに対して、マキナは優しく笑った。嬉しそうに笑った後には、ゆらゆらと起き上がりこぼしのように身体を揺らしてみせ、そうしてそのまま倒れこむようにギルガメッシュに寄りかかった。



「ギルは王様なんだからさ、他の人も他の幸せを掴めるチャンスくらいあげたほうがいいよ。殺しちゃったりしないでさ」
「…そうですね、君の言う通りです」
「ギルはあたしのこと好きでも、あたしのこと信用してないんだね」
「…」
「好きな人のこと信用できない?」
「…信用できませんよ、君は息をするように人を誑かすし」



遠慮なく自分に寄りかかり、幼稚に身体を押し付けるマキナに、また少し意地悪そうな視線を向ける。



「ちょっと成長した君は、ボクに対する独占欲が薄過ぎるし」
「んー…?」
「“ギルガメッシュは私だけのもの”位のジャイアニズムを発揮してもいいのに」
「でもさ…そゆの重くない?あたし重たい女になりたくない」
「安心して重くなってイイです。君の場合は」
「えー…ギルはヤンデレとか好きなの?」
「…まあ、相手が君ならツンデレでもヤンデレでもデレデレでもツンドラでも…いや、ツンドラはイヤです、やっぱりデレデレでいてください」



その言葉がまた嬉しかったのか、マキナはギルガメッシュの肩口にぐりぐりしながら、また猫のように甘えて笑った。誉めれば誉めるほどよく伸びると言っていたマキナだが、まだ羞恥を知らない彼女は、愛を囁かれれば囁かれるほどに笑顔になる。



「大きくなったら、もっと欲張りにならないとダメだよ?ボクに対して。他の人にはならなくていいから」
「んー、それは約束できかねる」



てっきり、素直な色よい返事が聞けると思っていたギルガメッシュは、その回答と共に姿勢を正したマキナの顔を、またしても少々の驚きと共に見つめたが…マキナは飛び切りの笑顔を浮かべたままだった。



「だって欲張らなくてもあたしすごく幸せだもん」
「――…」
「ギルガメッシュが、あたしのことすごく幸せにしてくれるから」



馬鹿げていたのは自分の方だった。愛し足りていなかったとは言わない。ただ、自分にできるのは、今…そしていつでも、いつまでも。彼女をこうして抱きしめてやることだ。今度こそ言葉もなく、ギルガメッシュはマキナを抱きしめる。



「ギルガメッシュ…」



どちらの愛が優れていて劣っているということはない。それが互いの想いの在り方なのだ。自分は其れを、良しとした筈だっただろう。



「だいすき」



嗚呼、只、今はそんなことはもうどうでもよくて。全てを擲って自分に自らを委ねてくる彼女。これこそが自分の護るべきもので、決して忘却してはならぬ指標である。



「ずっとあたしの側にいてくれる?」
「ええ」
「ずっとあたしを好きでいてくれる?」
「永遠に」
「ずっと元気でいてくれる?」
「…君がずっとボクの側にいてくれるなら、ボクはいつだって元気でいれます」
「じゃあ、ずっとギルガメッシュの側にいるね」



無邪気に幼く笑うのに、マキナはギルガメッシュをあやすように背中を優しく撫でている。きっと女とは、物心ついた時からこういう生き物なのだろう。



「ギルガメッシュも言ってたでしょ、あたしがギルにぞっこんだって、その通り、あたしはギルにメロメロだよ。だからあたしのこと もっと信用して、安心して」



否、寧ろ、人とはこういうものなのだ。支え合うとは正に。その感覚は、生前の自分も知っていた筈だ。しかし、その支えは唐突に失われてしまったから…未だ悪夢(トラウマ)のように、ギルガメッシュの不安を掻きたてる。

だが今度こそ、この支えは自分が手放しさえしなければ、いつまでも此処にある。在り続けてくれる。



「あたしがおよめにいくのはあなただけだから」



在り続けて欲しいから、木霊のように返した。



「ボクが花嫁に迎えるのは、もう、君しか在り得ません」



そして、これからも。いつも。
木霊のように返し続けよう。
 

 


(..)
(2011/11/19)





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