from Zero :05


『……ギルガメッシュは本気です。さらに『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を解き放つ気でいます』






宮廷道化師(ジェスター)の懐から取り出されたのは、“ただの”一挺の鋏だった。七寸程の長さの…銀色ないし白金色に“見える”鋏だった。何色と形容し難い理由は幾つかある。まず、交差されたその二つの刃が、どちらも色が違うように見えること…少なくともデザインは全く異なっていた。片刃は東洋風で、もう片刃が西洋風に見える。総じて緻密に装飾を施されており、所々に“透明過ぎる”宝石が散りばめられていた。そして、白く淡く輝いているようにも見えれば、鈍く薄暗い影が掛かっているようにも見える。陽や照明の光を普通の金属とは違う反射の仕方を――
或いは反射すらしていない、そこだけが、その存在だけが幽世(かくりよ)のような。不思議な存在感のある鋏だった。



「ハサミ…?アイツ、あんなモノで一体何を…」



先程まで華麗な大立ち回りを披露していたジェスターが…若しかしたら満を持して取り出したモノが、ただの鋏だったことに、ウェイバーは、肩透かしを…というよりは逆に面食らってしまう。だが、横に居るライダーは──否、マキナを見ていた全てのサーヴァントはその鋏の異様さを感じ取っていた。

マキナは、刃を下に向けた状態で鋏を前に差し出す。持ち手を、人差し指と中指にかけ、軽く弾いた。



「始祖“閏賀三(ゼロ)”に奉る。当代当主“閏賀無徒”の名のもと、“間久部マキナ”の名において解放せん」



鐘の音が響いた。
響いたように思えた。実際に頭の中では今も余韻が残る。青銅の鐘を打つような静謐な重音が駆け抜けていくと共に、鋏を起点に水面を波紋していくようなイメージを沸き立たせられた。その鍵と同様に、世界は色を失い、まるで水墨画の中に引き込まれたかのような黒白の静寂。麻痺のような無我の恍惚感の後――彼らの眼に映るのは、マキナの身の丈ほどに巨大化した鋏。しかしそれは過程でしかなく、二枚の刃はみるみるうちに変形し、またしても、今度は甲高い鐘の音が一度鳴ったかと思えば…二枚の刃を繋ぎとめる蝶番が砕かれたように消え失せる。

そしてそこに在ったのは、交差する二振りの刀剣だった。



「八雲鍵(ヘルンズ・キー)――“晩鐘(ノクト・カンパーナ)” “朝露(ルジャダ)”」



其々“晩鐘”、“朝露”と呼ばれた二挺の刀剣を同時に握り締め、ジェスターが摺りあわせるようにして引き抜くと、再三と鐘は鳴った。この…およそ神聖さとはかけ離れた近未来の醜い英霊には不似合い過ぎる程、その『鋏』──否『剣』──真には『鍵』は神秘的だった。

余韻がいつまでも、或いは幻聴のように響き続ける中、マキナはゆっくりとその二振りの刀剣を構えた。剣先をアーチャーに向けて――



「道化風情が我に刃を向けるか…!!」
「語るに及ばん、ゆめゆめ死なんように気を配れよ──英雄王!!」









『導師(マスター)よ、ご決断を』




from Zero,to the MAYHEM...







8人目のサーヴァント――存在自体が本来許されないというのに、今判明しているだけでも非常に厄介なサーヴァントである。乖離剣に対して有効かは定かではないが、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を防ぐ手立てを持ち、正体不明の強力な二挺の刀剣を持ち、彼女の他の宝具は目に見えない。真名は“間久部マキナ”と言ったか。魔術協会に属している魔術師の中にその姓の者はいなかったが…その名から日本人の血が流れているのはまず間違いないだろう。

例え未来の英霊であろうと、英霊には『座』から時空を越えた知識を与えられる。しかしアサシンにも彼女に関する知識は一切無く、ギルガメッシュには訊くまでもないだろう。
『座』からの知識を抜きにしても、何故かジェスターには…彼女には、ギルガメッシュの正体は元より個人的に心当たりのありそうな節がある。しかしギルガメッシュが彼女を知っている様子は微塵もない。これは何を意味する?


[next]






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -