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――という経緯を経て、今に至る。んだが…



 (小癪な…!大人しく我が軍門に下り、我の妻となるのだ!)
「ぴよぴ…!ぴよぴよよぴよぴよぴよ!!ぴよぴよェ!ぴよぴよェ!!」
 (巫山戯たことを!断じて断る!)
「がうがう!がうがうがーう!」



セイバーがライオンのぬいぐるみを、そしてマキナがこの前ギルガメッシュに買い与えられた…ひよこのぬいぐるみを持って…尚且つその手と翼(?)にそれぞれボールペンを持たせてブンブンと振るっている。ナニコレ…なんだこのお人形遊び改めチャンバラごっこは…



 (フン…お前がその気ならばコレだ!太陽剣グラム!)
「ぴよ…ぴょぴよぴぴよよ!ぴよよぴよ!」
 (なんのこれしき…!我がアヴァロンで防いでくれるわ!)
「がうがう…!がるるるる…がる、がる!」
 (お…おのれっ…!おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!)
「ぴ…ぴぎぃ…!ぴよェぴよェぴよェぴよェぴよェぴよェぴよェーッ!)」



…っていうかやめて!メタネタはやめて!俺に悪し、お前に悪しだ!



 (かくなる上はコレだ!エヌマ…エリーッシュ!)
「ぴよよよ…ぴよぴよ!ぴよぴ…ぴよーッシュ!」



…シュ!?
ってゆーか太陽剣グラムも乖離剣も変わってねー!どっちも同じZEB○Aのジェルインクボールペンだ!

そしてひよこ渾身の一撃に対し、何故かセイバー。ここで珍しくドヤ顔に。



 (フッ…甘いな英雄王、アヴァロン!!)
「グルル…がうがうがるるる、がうぁロン!!」



…ぁロン!?



 (なにっ!?)
「ぴょえっ!?」
 (――からの…エクスカリバー!!)
「――がうぅ…がううがうがー!!」
 (ぐわぁあああ!!)
「ぴぎいぃいいっ!!」



乖離剣の反動を見逃さず、ライオンの強烈な一撃が打ち込まれる。またしてもアヴァロンと変わらないこちらは青のボールペンで。遂にひよこノックアウト──と思いきや──



「まずはエクスカリバー!次もエクスカリバー!懺悔するがいい、これがトドメのエクス…カリバァーッ!!」
「わああああ──!やめてやめてもうやめてギルサマのHPはもうゼロだから──!!」



セイバー…お前に一体何が乗り移った。一瞬黒いオーラが見えた気がしたが…!?半泣きになりながら本気で獅子から身を呈してギルサマとやらを守ろうとするマキナ。それでも止まない猛攻に──



「!」



マキナはそのままの勢いでセイバーに押し倒されてしまったのだった。そして圧倒されっぱなしの俺と英雄王(小)。途端に純和風の部屋に百合の花が咲き乱れる──



「──ジェスター…」
「せ…セイバーさん…?」



マキナを押し倒したまま彼女を見下ろすセイバーは何故か驚く程に婀娜っぽく…そしてそんなセイバーを、頬を赤らめ、目を潤ませたまま見上げるマキナ。──…な、何が始まるんだコレ…



「十年前の貴女なら、こうして私にマウントを取られることもなかったでしょうに」
「そう、…でしたか…」
「…ええ、あの時の貴女は体術も剣術も大変優れていた。きっとこれから良い師に出会うのでしょうね」
「ほ、ほう…」
「まったく。私も一人の王として──貴女を英雄王に取られるのは少々惜しい…」
「──…え?」



…なんだか、俺の知らないセイバーの一面が曝け出されている。さっきからずっと、ではあるんだが…。ずっと性別を偽っていたセイバーの、男性的な部分というか――それこそ、セイバーが言っていた“一人の王”としての一面…なのか。未だマキナに馬乗りになったまま、セイバーは複雑な表情で笑いかけた。



「当然でしょう、王は誰しも素晴らしい宮廷道化師(ジェスター)を欲しがるものです。より秀でた宮廷道化師を召し抱えることは王のステータスでもあり、誇りでもあるのですから」



それこそギルガメッシュに見せるものよりもより一層初々しく、いたいけな少女のように恥じらいの表情を浮かべながらマキナは抵抗もできずにセイバーを見上げていた。



「そ…んな大層なモノじゃないと思いますけど…でも…もしも私がギルガメッシュじゃなくてセイバーさんを召喚していたら…きっと私は──貴女の道化になっていたでしょう……」



…なんてコトだ。そしたら、なんて凶悪な主従になるんだ…。餌付けは充分、永久機関(偽)で魔力供給も充分、しかもこれまたマスターが凶悪過ぎる英雄…となればもう向かうところ敵なし──

…でもそれ以前に。
セイバーのマスターとして正直マキナに嫉妬してしまうだろう。この一連の発言は。そして俺の少し下で同じようにこの光景を眺めている英雄王(小)も心中穏やかではないだろう。



「マキナ、私はもう一度十年前の貴女に会いたい」
「……!」
「貴女があの時、私に言いかけた言葉はなんだったのか…結局訊けぬまま聖杯戦争は終わってしまいました。今の貴女にこのようなことを言っても仕方が無いのですが──それは今でも、私の中で心残りの一つです」



宮廷道化師(ジェスター)の英霊は、騎士王に何を物申さんとしていたのか──それは今、誰にもわからない。何故なら今ここに居るのは生きた弓兵(アーチャー)の英霊。マキナは、少し悲しそうにセイバーを見つめる。



「…たかが道化の世迷い言でしょう、騎士王が心に残す程の言葉ではない筈です」
「そうでしょうか。私はあの時貴女の言葉を聞いていたら…自分の中で、何かが変わった気がしなくもない」



セイバーは目を閉じる。過去の聖杯戦争を想い起こしているのだろうか。



「――とはいえ、すみません。こんなことを聞かされてはマキナも困りますね」
「いえ、お気になさらず…」
「…ありがとう」



困ったように、また消え入るように謝ったマキナを、微笑と共に、セイバーはやっと解放する。…なんだか時間が経てば経つ程割り込みにくくなってしまった。そんな俺とは裏腹に、子供王は遂に襖を完全に開け放ったのだった。完全に二人だけの世界だったセイバーとマキナはここでやっと俺達の存在に気付き、慌てて居住まいを正した。…どちらも違わず自身の背後にぬいぐるみを隠して。



「騎士王ともあろうお人が、他人(ヒト)の主人(どうけ)に横恋慕ですか?いいでしょう、他国の王の所有物を略奪せんとするならば、それは即ち宣戦布告だ。――ボクと戦争をするおつもりですか?セイバーさん」



例え幼年体だとしても、その風格たるや有無を言わさず暴力的で、威圧感たっぷりに王気(オーラ)を迸らせる、英雄王。勿論、俺は兎も角も気圧されるセイバーではない。



「英雄王ともあろうお方が、婦女の会話を盗み聞くとは趣味が悪い」



あ──…だからこそ、ヤバい。本気の二人だからこそ、本気でヤバい。それはマキナもそう感じていたことだろう。猪突猛進の王を無理矢理にでも方向転換させるには、臣下による決死の横槍が必要なのだ。そしてマキナが即座に、俺よりも早く動いた。



「そーですよ、どんな変態でストーカーですか、訴えられたら負けますよ」
「…マキナもマキナです。貴女は相変わらず女誑しなんですから…本当にボクのこと色情狂なんて言えた義理じゃ無いです」
「私はそんなこと言った覚えないですけど…!」
「ホーント、そこは大きなボクの言う通り。マキナは強欲過ぎますよ。ボクという夫がありながら貴女という女性は」



…マキナは犠牲になったのだ。一応自業自得でもある気がするが、それでもセイバーとギルガメッシュの衝突は避けられたのだから、彼女は充分にその役目を果たした。



「――三十六計逃げるに如かず、セイバーさん。アレです、アレしに行きましょう!」
「逃げる…!?敵前逃亡など断じて…」
「戦略的撤退です、っていうか多分アレ時間かかりますから早く行きましょう」
「なっ…マキナ…」



本当に唐突に、いつも唐突に──うまいことも何も、強引に話を強制終了させ、マキナはセイバーを引っ張って、またしてもギルガメッシュの前から逃げたのだった。

──…コレを年中行事と言う。


 


(…)
(2011/09/17)






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