follow ataraxia :05


「ぴよぴよぴよ!ぴよぴよ!!ぴよぴよぇ!」
「がうがう!がうーっ!!」



──……
………




「……なぁ、アレは一体何なんだ…?」
「さあ…ボクの理解の範疇をも甚だしく外れた光景ですね」



何故、俺とギルガメッシュが並んでセイバーの部屋の襖の隙間から中の異様な光景を覗いているのか。こんな状況になっているのか──コトの始まりはほんの少し前に遡る。


Follow ataraxiaFar away from Mayhem...




「お兄さん。何かお手伝いすることはありますか?」



朝食の時間となっても起きてこないマキナ。そして現れた…金ピカ──の子供。そう言うと紛らわしいが、金ピカの息子、ということではなく金ピカに輝く子供という意味だ。あしからず。

少し予想外の事態だが、何かが起きたということだけは疑いようもない。



「えーと………何があった?」
「えっ?」
「何でまた子供の姿になってるんだ?」



言われた金ピカ子供は、どうやら朝食の片づけを手伝ってくれようとしているらしい。俺が洗った食器を手に取り、布巾で水気を拭き取りながら満面の笑みを浮かべてくれたのだった。



「何ででしょうねー、多分…大人の事情じゃないでしょーか?」



 大人って汚いですよねーホント、と。お前他人事のように言ってるけど、自分のことだからな。それ。



「マキナはもうしばらく起きてこれないと思うので、代わりにボクがお手伝いしようと思って」



 しばらくマキナであれこれ遊んでみたんですけど全然起きる気配なくて…と悩ましげに溜息を吐く子供王。

…人で遊ぶな。しかも起きる気配がないのも、多分お前のせいだ。



「手伝いはいいから、マキナのところに行ってやれよ。
 多分…目を覚ましたら爆発するぞ…アレ」
「うーん…でもボクには止められませんよ、アレ。爆発のタイミングが引き伸ばされるだけで…」
「責任を持って止めてやれよ…あれだけ妻だ嫁だ言っておきながら意外と冷たいんだな。お前」



英雄王(小)に言っても仕方がないんだが…。しかし、そんな俺の言葉を聞いた英雄王(小)は心にも無いことを言われたとばかりの表情で俺を見るのだった。



「心外ですね、ボクなんかよりマキナの方がよっぽど冷たいです」



…なんだそれは。
そんな発言を聞くこっちが心外だ。そして多分に話を逸らされた気がするし…。



「冷たいってどの辺がだよ…思いやりもあるし優しいじゃないか」
「…彼女は、ヒトという種を数字の上でしか認識していません。支配どころかアレは管理(コントロール)…いや、管理ですらない。ただの算数というか――王(ボク)も真っ青な割り切り方をする、絶対零度の氷の女ですよ。マキナ」



あんなに他人に気を使って、俺のことも気遣って色々手伝いもしてくれるのに?

でも、確かに彼女が英霊になった理由でもある──…十億人の死。ただの優しい人間であれば、こんな事実はとても耐えられない筈だ。



「ただ、面と向かって触れ合う『人間』に対してはとても温かく接する。ヒトと人間で立場を変えるんです。酷い矛盾(ダブルスタンダード)ですけど、それが彼女の魅力でもあるんですよね…」



それが、英雄王(大小)の観察してきたマキナという人間なのだろう。本当のところはどうか解らないとはいえ、そして慢心しているとはいえ、この男が真の意味で人間を測り間違えるコトは無いのだ。



「まあ、自分の器を理解してるっていうことの表れでもあるんですけどね。彼女は、自分の手に負えるのは自分の手が届く範囲のモノだけだと理解している」
「マキナの器は小さいって言うのか?」



食器洗い(ルーチンワーク)の気慰みに、別に嫌味でもなんでもなく、常々他人の器を小さい小さいと宣う英雄王(でも小)がマキナをどう評価しているのか――少し気になっていたので純粋な気持ちで聞いてみると、子供王も自然に答えてくれたのだった。



「…うーん…それは難しい質問です。彼女自身も器が小さいって自称してますし…確かに小さいかもしれませんけど、その器は時々ブラックホール化するんです。異次元で底無しに。彼女は世界を変革させるような決断も、無責任に近い位軽い気持ちでしてしまうし、当然世界を背負う覚悟も所存(つもり)もない──言うなれば世界を引きずっている。なのにその重さをほとんど感じていない。ボクたち“王”からすればかなり馬鹿げた存在です。」



ボクたち“王”からすれば──英雄王のほかに、此処にはもう一人“王”がいる。子ギルガメッシュは、ガス台を拭いていたセイバーに向き直り、笑いかけた。



「セイバーさんだって彼女には何故か惹かれるところがあるでしょう?彼女はか弱い一市民であり、長いものには巻かれる日和見主義。でも何があろうと決して曲げられない芯を持っている。それは、さながら彼女の造り出す兵器のように、絶対的圧倒的暴力にも似ている。彼女は、自分がやる必要がなければやらないニートです。でも、誰もやらないなら…そして自分にできるなら、やる。そしてそれを成し遂げるだけの莫大な原動力を持っ──」



おかしなところで切れる英雄王(小)の言葉に異変を察し、俺もセイバーも、何事かと少年王を見──そして何かを見つけて一時停止している少年王の視線の先を──…



「──幼年体だからって許しはしませんよ、あることないこと吹聴して」



――そこに、卑俗ながらも揺ぎ無い絶対的暴力が居た。否、全然そんな大逸れたものではなく、単なる寝起きでテンションの低い、目の据わったマキナが。居た。



「?? “ないこと”は吹聴してませんよ?」
「ヒトを冷たい目で見てるとか…人間には暖かいとか…そんな難しいコト私考えてませんから」



――マキナは、意外と前から覗き見していたらしい。全く気付かなかった。気配遮断スキルでも持っているのか?



「あ…もしかして起きた時にボクがいなくて寂しかったですか?それで怒ったりしてます?」
「お好きな時に出て行ってくれて結構です」



きっぱりとお断りするマキナ。だが…聞こえていなフリをしているのか無視して続ける英雄王(小)。



「マキナはボクのこと好きで好きでたまらないヒトだからなあ…でも、結構長いこと傍に居たんですよ?ただ…居候のクセに朝も寝通しで手伝いもしないなんてマキナの胃が痛くなっちゃうと思って、代わりにお兄さんを手伝いに来たんですよ、ボク」



 本当に、良い夫ですよね。と。また屈託なく笑みを浮かべた英雄王(小)を見て、マキナは、寧ろそれにこそ胃を痛めた様子で苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたのだった。



「貴方と婚姻関係を結んだ覚えは御座いませんが」
「ええ、盛大な式を挙げましょうねー、言峰がいれば言峰に祝福させてもよかったんですけど、神前式の方がいいですか?ああ…それともボクの生前当時のウルクの式を再現しましょうか?」
「いえ、どれも結構です」
「まさか書類上で夫婦になればそれで満足だと?そんな味気の無いこと言わないでください。二人の人生における記念すべきイベントじゃないですか」
「結構です、結構です!何もかも結構です!」



マキナは、頭を抱えてブンブンと顔を横に振る。爆発を抑えるどころかこの英雄王(小)は寧ろ爆発を煽ってるとしか思えない。今や少年王の屈託の無い笑顔は、俺にすら、黒いフィルターがかかって見えるのだ。



「もう…この期に及んで往生際が悪いなあ…マキナがボクにゾッコンだってことは周知の事実なんですから、今更恥ずかしがってどうするんですか」
「だっ…別にそんなことないしそんなの…」



遂に、目尻に涙を滲ませてたじろぐマキナ。英雄王(小)相手だと、完全に英雄王(小)の方がマキナより上手らしい。そんな彼女を救ったのは意外な人物で――



「その辺りで止してはどうです、英雄王」



ガス台の掃除を終えたセイバーは両手を腰に宛て威風堂々と仁王立ち姿勢で英雄王(小)を諌める。



「婦女に、人前でみだりに恥をかかせるものではありません」
「…貴女が神か…!」
「!!……マキナ!ちょっ…落ち着いて…!」



目映い救世主を得、勢いで…それこそ一昨日の夜と同じように、飛びついて熱い抱擁をお見舞いするマキナと相変わらず頬を赤らめるセイバーを見て…小さな英雄は俄かに迷惑そうな表情を浮かべていたが――マキナに抱きつかれたままのセイバーは、それを気にも留めず、まっすぐに英雄王(小)を見据え、続けた。



「マキナが貴方にとって大事な女性であるというのなら尚更です。未来の妻を敬うこともできず、何が偉大な王ですか!…かくいう私も妻であるギネヴィアを幸せにすることはできませんでしたが…それでも私は彼女を出来得る限り大事にし敬うよう努めました」
「良き為政者であることと、良き夫であることは対偶になりませんけどね」
「王は民の模範であるべきです。故に可及そう努めるべきでしょう」



なんとまさかの騎士王対英雄王(小)と…王同士の王論対決勃発か。



「ボクは王であることとは別に、一人の男としてマキナの良き夫でありたいと思っていますよ。でもね、セイバーさん。マキナをフツーの女性と同じ扱いをしてはダメです。そんな風にマキナを甘やかしたらダメなんです」



セイバーの影に隠れて、或いは仇敵でも見るような視線を送るマキナを彼女より余程大人びた笑顔でニッコリ見詰める少年王。



「――まあ、いいや。話が多分に逸れてしまいましたが、セイバーさん、私は貴女に用があったんです」



分が悪いと判断したのか、飽きたのか――バッサリ話を打ち切って何事もなかったかのように話題を変えたマキナ。

…まあ、賢明な判断だろう。でも、マキナがセイバーに用事とは…なんだか予想がつかない。それはセイバーも同じようで、きょとんとマキナを見つめていた。



「私に…ですか?」
「ホラ、アレですよアレ」
「――…!」



…なんだ、アレって。そして何故セイバーも心当たりがある?この二人、いつの間に親交を深めていたというのか。



「アレ…ですか…!?」
「ええ、アレです。あと、セイバーさんの大事にしてるっていうぬいぐるみを見せていただきたいんですけど」
「それは構いませんが…」
「じゃあさっそく!行きましょう、セイバーさんの部屋に!」
「あっ…ちょっ……マキナ…!!」



セイバーを半ば蛇のように羽交い絞めしながら、ずるずると引きずっていくマキナ。
純粋な腕力では敵わず、セイバーは抵抗虚しくドナドナをBGMに拉致されいったのだった――


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