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滞りなく…夕食は寧ろスムーズに、特に無駄話もなく済んだ。女性陣にしてみれば、カロリー計算の怖い程の肉汁と油がたっぷりのハンバーグ――天使と悪魔…どちらのソースも、グリル野菜や肉の切れ端と一緒に白米の上にかけて食べきってしまいたい程の旨味のハーモニー。毎日はキツイかもしれないが、このコッテリ感は…確実にまた食べたくなる。

カロリー高めの食事だったからか、食後の運動とばかりに今日の女性陣は特によく働いてくれた。お陰で俺は楽をすることができ…皆、いつもより早めに手際良く入浴を。入浴後の髪を乾かしながら─または読書をしながら─寝転がりながら─なんとなく、居間のテレビの前に集まるいつもの面々。
と──…



「…凄いわね、コレ」



居間のテーブルの上には、金ピカが昼間買い占めていた…高級酒がズラリ。



「フン、今日の我は気分が良い故な、無礼講だ。貴様等雑種にも我と同じ酒を口にすることを許してやろう」



 そして大いに痴態を晒すがいい、と最後に付け加えた言葉は既に誰も聞いていなかった。酒に群がる雑種達──主に遠坂。…藤ねえがいなくてよかった、本当に。

マキナは酒にはあまり興味を示さず、見るとも無くテレビを見ている。その膝を枕にして寝転がるのは、イリヤだ。そういえば金ピカは、女子がマキナに触れても別に怒らないんだよな。例えば俺が同じように膝枕でもしてもらおうものなら…まず間違いなく乖離剣がお目見えすることになるだろう。



「マキナは飲まないの?イタリアの飲酒年齢は16歳からでしょ?」
「えーと…正直そこまでお酒好きじゃないから」
「そんなつれないこと言ってないで──アナタも飲みなさい!」
「がぼっ!」



宴はまだ始まったばかり。まだ飲み始めたばかりで酔いも回っていないだろうに何故か遠坂は瞬時にマキナの背後を取ったかと思いきや…その口にV.S.O.P.を流し込んでしまった…!遠坂のあの目…あれは何かを企んでいる目だ。



「うわ…ちょっ……遠坂、さん…私お酒は…!」
「夜はまだまだ長いんだから、ガソリン入れてテンション上げなさい」
「いや…ほんと…ちょっとマズイ…」



狼狽しつつ、速攻でクラッと来ているマキナ。…弱い人に無理に酒を飲ましたらいかんぞ、遠坂。しかし、膝上に居た猫(イリヤ)も、既に面白い玩具を見つけたような顔をしていた。この女、陥落(おち)た…!英雄王唯一の愛玩物は、今二人の猫の玩具へ──









「へぇ…月で聖杯戦争が行われたなんて…」
「ええ、月はその表層以外がすべて巨大なフォトニック純結晶で構成されています。少なくとも46億年前には観測を始めており、魔術的概念により実現された擬似量子コンピュータ…この神の自動書記装置は…地球上のあらゆる生物、生態、歴史、そして魂すら記録する。その観測の一環として人々の様々な願いを考慮した未来をも演算し記録の一部にしている。この、七つの階層を持つ“七天の聖杯(セブンズヘブン・アートグラフ)”は願いを叶えたという“状態”を、『世界』と同期することによって反映(じつげん)することができる。願望機の側面からいえば、まさに万能の聖杯なんです」



少し染まった頬以外は、まだ見た目にあまり変わるところのないマキナ。しかし…口と脳味噌は既にゆるっゆるの弛緩状態なのだった。“未来改変が起きるのが怖い”と俺に説明を憚っていた未来の聖杯戦争のことを…まるでゲームの攻略本の用語説明のようにペラペラと詳細に語りだしてしまったのだ。しかし、それにしても…驚きの事実の連続だ。

まさか月で聖杯戦争が行われていて──その聖杯を奪い合うには新時代の特殊能力である“魂の霊子化”が必須であり、同時に超高度なコンピュータネットワーク技術の習得が不可欠であり…マキナや、未来の遠坂凛もその能力者で聖杯戦争に参加していたと。いや、しかし確かに。携帯電話の一つ満足に扱えない遠坂が、その未来の聖杯戦争に参加できる筈が無い。やはり間違いなく未来の遠坂は、現代の遠坂とは別人だ。



「しかも…マスターとサーヴァントが128組いたって本当?」
「ええ、本当です。呼ばれるサーヴァントも西洋東洋入り乱れてましたし」
「へぇ──、スゴーイ!」



いまや、遠坂とイリヤだけでなく…セイバーや桜、ライダーもマキナの近くに集まっている。ショットグラスを両手で持ち、ちょこんとお母さん座りのマキナ。ちびちびとしか飲まないのだが、なくなる横からすぐ次の一杯が注がれる。



「聖杯戦争の舞台となったのは何故か日本の学校でね?そこには聖杯戦争の参加者だけでなく…SERAPHが冬木の第五次聖杯戦争の関係者もNPCとして構成していたんです。そこで桜さんは結構重要な役目を持ってたんですよ?ただ髪が…そうですね…ライダーさんくらい長かったです」
「ええっ…私がですか…!?」
「うーん、当時から美人だなーって思ってたんですけどー、やっぱりホンモノは輪をかけて美人ですねー」
「美人だなんてそんな…」
「他に印象的なNPCは、言峰綺礼神父とかー生徒会長の柳桐一成君にー、あとは…新聞部の3人娘とか──」



俺も、遠坂も…思わず噴いてしまったのだった。



「言峰が…また聖杯戦争に…!?しかも神父で!?」
「しかも一成が生徒会長…!」



恐るべし、未来の聖杯戦争…



「間久部さん、アナタ言峰に何もされなかった…!?」
「えー、いや確かにすごい胡散臭そうな人だったけど…別にフツーに監督者やってたカナー、ってゆーかマキナでいーですよぉ」
「なあ…俺は?俺はいなかったのか?」
「うーん…士郎はいなかったですねー」
「私はいませんでしたか…!?」
「いや、セイバーさんとライダーさんはサーヴァントだからNPCはナイんですけど、でもスミマセン、私と当たった相手でお二人を使役してるひとはいませんでした…」



そうか…ギルガメッシュをマキナが呼んだのと同様にセイバーやライダーを俺達ではない誰かが呼んでてもおかしくないのか…何だか変な感じだ。



「その聖杯戦争で、マキナはアーチャーだったのですよね?」
「えっ…それ、どういうこと…?!」
「ええ、アーチャーでした。」
「マキナのサーヴァントはギルガメッシュでしょ?なのにアナタがアーチャーって…?アナタ、英雄だったの?」
「英雄でした、ムーンセルは私を英雄と認めました。10億人の死に関り、世界中に知名度があることから、恐らく」
「…どうしたらそんなことになるのよ」



そこまでは俺も聞いていたが、確かに何故10億人も殺す事態になったのか…それは俺も聞きたかったことだ。



「私が、同時代の人類の百年くらい先を行く頭脳を持ってるらしーからです。私の開発する兵器は、他の兵器の追随を許さない。故に世界中に蔓延し、破壊力も絶大、多くの人を殺しています。“一人殺せば殺人者、百万人殺せば英雄、全滅させれば神”の格言どおりに、3歳から現在までの間に累計10億人近くを死に至らしめ――…私は英雄となったワケでございました」



そしてお口ユルユルのマキナは、とんでもない事実を簡単に暴露してくれてしまったのだった――!



「そして私の宝具『億死の工廠(ギガデス・アーセナル)』は私が設計した…若しくは関与した武器兵器を無制限に実体化可能というもの。もう一つあるんですが…こっちは恥ずかしいので内緒です」



ウフフー、と口元に人差し指を宛ててニコニコ笑うマキナからは、後ろめたさのようなものは感じられない。しかし…3歳児が自らの意思で…或いは意思のみで兵器開発などできまい。彼女は、大人たち…権力者や時代の犠牲となっているのではないだろうか…。そんな哀愁すらも、あまり感じさせないのだが…



「その宝具で…荷物が消えたのか…?」
「そーです、視覚的には光学迷彩で消して、持ち運びはホバリングです」
「うわ…まるでドラえもんね…マキナは」
「ウフフフフ〜」



ドラえもんの声真似をするな。しかし…金ピカ単体でも宝具の原点に始まり、空とぶ船とか若返りの薬とか反魂の香とか持っててドラえもん状態なのに、何をどうしたいんだ…この主従は。何が目的だ。しかも『永久機関(偽)(エネルギー・インテーク)』があるから多分無限に作り出せるんだろうし…。



「まあ…アナタが英雄として認められた経緯はともかく…要するにアナタは、自分一人でマスターとサーヴァントの一人二役をやろうとして聖杯戦争に参加したってこと?」
「その通り、さすがアタマイイー」
「それじゃあどうしてギルガメッシュが呼ばれたの?」
「さあ…よくわからないけど多分手違いとかじゃないですかねー」



アハアハアハ、とあまり表情を変えずに笑い出すマキナ。…段々テンションがおかしくなってるな。



「あーホント、あの時はなんでこんな偉そうで聖杯戦争二日目になっても姿現さないわ ちょっと煽っただけでキレるわ、中々本契約してくれないから私死にかけたわで、もーどーしよって、しかもアーチャーでクラス被ってるしでもうコノヤローって…なんで私以外のサーヴァントが…しかもこんなヤツが選ばれたのって思って」



さっきからテーブルで一人ぽつねんと酒を呑んでいた金ピカが今、眉根を傾げてマキナを見ている…。



「ふぅん、でも…今は満更でもなさそうじゃない?」
「ええ、もちろんです!」



また、満面の笑みを浮かべるマキナ。かと思いきや、そのままマキナは唐突に立ち上がった。何事かと注目する一同。そしてマキナは一点めがけて唐突に走り出す──



「今はもう、大好きです…王様!!」



そして勢い良く、金ピカに抱きついた。イリヤの人間ミサイルにも似た調子で。そして威力の差はあれど、俺と違い、しっかり受け止める金ピカ。昨日今日とマキナのあの拒絶ぷりを目の当たりにしていた俺達、激震――しかも抱きついたままで金ピカを離さず…寧ろ首を抱く腕がぎゅうぎゅうと締まっていっている。



「世界で一番、大好きです」



酒は――恐ろしい――
笑い上戸とか泣き上戸とかイロイロあるけど、コレは、抱きつき魔とかそういう類の…暴露魔というか…ある意味(心の)露出狂というべきか。金ピカは一瞬驚いたような顔をしたが、今や満足そうである。



「それ位今更言われずとも、とうに知っておるわ」
「……」



偉(満足)そうに言われた言葉にもまるで怒るそぶりを見せず、マキナ沈黙。

寝て…しまったか?

金ピカも同じように思ったに違いない。自身の肩口で項垂れるマキナを見下ろした。そして、しばらくの沈黙の後だった。



「王様…私に飽きたら、他の女の人のところに行く前に…私を殺してくださいね」



突拍子のない発言に、場の沈黙続行。



「それが私の管理者の務めです。私に興味をなくして、他の女の人のところに行く王様を見るなんて…胸が張り裂けます。だから…しっかりと、跡形も残さず私を殺してください」



 それが、人の情けってもんです。と。ここまで穏やかに喋るマキナの表情は誰にも見えない。



「私には…王様と一緒に過ごしたこの時間が…何よりも幸せで…何よりも尊いです。例えそれが一瞬であろうと、永遠と続こうとも、それは疑いようもなく、どちらも等しく幸福です」



心の露出狂→センチメンタルへ移行…?間久部マキナの語りは止まらない。そして、彼女はゆっくりと上体を起こしてギルガメッシュの顔を間近で覗き込む。その表情は、神の啓示でも受けたかのような…全てを受け入れたような安らかな笑みを湛えていた。恐らく彼女は、神など信じていないだろうに。



「だから、私に飽きたら無理しないで下さい…私は既に、充分過ぎる程の愛と幸せを、あなたから頂きました」



そしてまた、一層の笑顔を。



「雑種めは…しあわせです」



自身の胸に両手の平を宛て、目を閉じるその姿は祈りそのもの─…しかし…ギルガメッシュの表情は少し冷淡だった。というよりは恐らく、怒っている。



「一瞬と永遠では雲泥の差だ、永遠に続かねば全ては無意味に等しかろう」
「でも…この一瞬を切り取ってみても、私が幸せなことに違いは無いんです…」
「お前を永劫管理する(まもる)と言った我の言葉を疑うか?」
「えー、王様浮気性っぽいし…でもきっと王様ってそういうモノだし、それに…現にセイバーさんが好きだったでしょう」



ぱたり、と目を閉じ前方に倒れるマキナ。ギルガメッシュの肩口に頭(こうべ)を預けるマキナの表情は未だ穏やかな笑顔が浮かんでいる。



「…王の言葉は絶対だ、二言はない」
「ふふ…自分でハードルあげちゃってどーするんですか…」



 知りませんよ、私… という言葉を最後に、うとうとしていたマキナは遂に眠りの世界へと陥落(おち)てしまった。その寝顔は相変わらず幸せそうなのだが、今の言葉を考えれば何やら寂しい。

とりあえず…
突如始まった恋愛劇場に、場の面々は…イリヤでさえ軽口を叩くのが憚られるようで、一同の視線はギルガメッシュに集まる。



「虚けめ…他ならぬ我を疑った罰として、今宵は少々痛い目を見てもらうぞ」



そう不吉に宣言し、マキナを抱かかえ…尚且つグラスも持たずにワインとウイスキーの瓶を二本引っ提げ居間を後にするギルガメッシュ。抱きかかえられたマキナは恐らくひよこの楽園の夢でも見ているのだろう…が。

今夜は放っておこう。正気にかえった後、もしも彼女にこの夜の記憶があれば、多分衛宮家を更地にする勢いで暴走するのではなかろうか…



「…純愛、かしら」
「さしずめ恋愛恐怖症の小娘と、イイ年して恋愛という概念を知らなかった男の歪(イビツ)な愛…ってところじゃない?」
「マキナさんって心が広いんですね…私なんてもしも先輩が…もしも…私を捨てて他の女の人のところに行ったりしたら…そんな…」
「「「……」」」



純愛劇場が去り玩具を失ったへべれけ猫たちは…そんなサクラの不吉な言葉を契機に、一斉に俺に注目。…次のターゲットは俺だというのか…!?

バールのようなもの?ジャプニカ暗殺帳…?ナニソレ
アーアーキコエナーイ

かゆ





  ま
 



(not dead end..)
(2011/09/23)






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