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「まあ…バール(のようなもの)も悪くありませんが、所詮対人宝具止まり…。対城宝具にもなり得るパイルバンカーには敵うはずもないんです」



よくわからない持論を展開しながら、工具の入った紙袋を引っ提げて次の店へと向かうマキナ。紙袋の端からバールのようなものの頭が少し飛び出している…。緩衝材に包まれてはいるが、正体を知っていると無性に恐ろしい。

っていうかパイルバンカーってお前…。そんな対城宝具を金ピカにお見舞いしたのか?でも確かにアレなら城門破りの丸太の感覚で使えそうだ。そしてパイルバンカーが宝具って……一体どんな英雄なんだ?コイツは

二人が次に向かったのは生活用品売り場だった。住人も増え、そろそろ古くなったバスタオルを取り替えようとも思っていたので、タオル類を数枚ずつ買ってくるように書いておいた。そしてフライパン、木ベラ…と滞りなく買い揃えたマキナはカートを引き、一度トイレの方に…誰もいないような死角に入っていった。…かと思えば、なんとマキナは空のカートを引いてUターンしてきたのだった。工具の紙袋もなくなっている。
一体どこに消えた…!?

などと聞けるワケもなく、俺とセイバーは二人の動向を離れた場所からただ見守ることしかできない。マキナはカートを戻し、次の目的の店に向かおうと歩いていた時だった。ふと、金ピカが立ち止まる。



「…ふむ、此処だな」



そして見据えるのは…ヴェルデの中にあるファンシーショップ。ギルガメッシュが立ち止まったことに気付き、またUターンしてくるマキナ。



「どうしました、王様。って…」



ギルガメッシュが間違いなくファンシーショップを見つめているのを見て何をどう思ったのか、マキナは怪訝そうな顔をしたのだった。



「一体このお店と王様にどういう関連性が?因果関係があるんですか?」
「なに、ひとつお前に“ぬいぐるみ”でも買い与えてやろうと思ってな」



その言葉に、マキナはやはりまたあからさまに怪訝そうな顔をする。



「…何故にぬいぐるみですか?」
「女子は花や小動物、人形を愛でるものであろう」
「…まあ確かに、総じてかわいいもの好きではありますね。でも私はてっきり、王様がぬいぐるみが欲しいのかと思いましたよ」
「我がそのようなものを欲しがる筈がなかろう」
「えー、だって最近の男の人もぬいぐるみとか好きですよ?すれ違った人も結構キーホルダーとかでつけてましたし」



…ぬいぐるみ蒐集にいそしむ英雄王とか嫌すぎるだろ…



「我の愛玩物はお前だけで充分だ」
「…それはどうも、光栄至極に御座います」



…アレ?てっきり顔を赤くしてまた脛蹴りでもかますと思いきや、意外と冷静に返したな、アイツ。呆れた風ではあるけど。



「でも、お気持ちだけで充分です。買うものまだまだありますし…」



何故か少しだけ寂しそうに目を閉じて微笑み、くるりと踵を返してまた次の店へ向かおうとするマキナ。そしてそうさせまいと、英雄王がその二の腕を掴む。



「ならん、最早決めたことだ。無駄口を叩かずに大人しく選ぶがいい」
「やっ、ちょっ…わかりました…!ご好意に甘えますから…離してください…!!」



二の腕を掴んでマキナを振り向かせた後、いまやその腰を抱いて無理にファンシーショップに向かわせようとする金ピカに、マキナは赤面して足取りも覚束ない調子でよろめいている。

そんな二人が店の中に入ったことを確認した後、俺達も店内へと潜入する。











店内をあれこれ、キョロキョロと夢中で見回すマキナは、やはりどこからどう見ても、可憐極まる少女でしかない。当然ギルガメッシュはマキナと同様に店内を眺めるわけではなく、その視線はマキナのみに向けられていて、その視線は、ともすれば父親のように温かく思えた。父性本能をかき立てられるのか?いや、かき立てられるだろう。俺だって、同じようにセイバーにかき立てられたのだから。

興味がないのならば、適当に選んでしまえばいい。だが、マキナはどうしよう、どれにしよう…と。ぬいぐるみを取っては戻し、別の棚に移動し…と随分と慎重に、気合を入れて選別している。



「どうした、なんなら店ごと買い占めてやってもいいのだぞ?」



馬鹿、オマエは余計なこと言わずに黙って見つめていなさい。



「そんなにいりません…王様が愛玩物は一つでいいっていうのに、器の小さい私に、この店中のぬいぐるみを等しく愛でれるワケがありません」



…成る程。
普段から口が達者だと思っていたが、尤もな発言。金ピカもその発言に対して何も答えなかった。

それからしばらくして、マキナは一段と目を輝かせた。これぞ、というぬいぐるみを見つけたのだろう。手を伸ばし、手にとり、見つめ合うこと数秒──マキナが選んだぬいぐるみとは…



「これがいいです」
「クッ…ハハハハハッ!! 成程雛鳥とはお前らし…」
「ギルガメッシュによく似てるから」
「な…にぃっ…!!」



新しい。金ピカ慢心王と“ひよこ”がよく似ているとは…新しすぎる。言われた当のギルガメッシュも、雷に撃たれたような顔をしている。



「だってホラ、この金色ふわふわの毛並みに、赤い目。ギルガメッシュそっくり」



そう言って、マキナはその黄色いひよこのぬいぐるみを花も恥らうような満面の笑みを浮かべ、幸せそうに抱きしめた。その姿を目の当たりにしてしまった英雄王は、自分がヒヨコと同一視されてしまったことにも文句が言えないようで…物申そうと開いた口を歯噛みしながら噤んでしまった。



ひよこのぬいぐるみを買ってもらったマキナはその後もとても幸せそうで、増えていく買出しの品はどんどんと姿を消していくものの、それだけは大事そうに彼女の鞄の中に陣取らせていた。

その後、マキナが自身の下着を揃える為らしく、ランジェリーショップに行ったと思えば
よくわからないが金ピカがまた脛蹴りを喰らわされたり、無印良品で部屋着を簡単に見繕ったり。セレクトショップで高そうな衣類をマキナと金ピカ共に買っていたり…俺に頼まれた米やみりん、料理酒をコンプリート。途中、酒屋で高級酒を恐らく買い占めていた金ピカ。一体どこにそんな金があったのか…店から出てきたマキナも少々呆れ気味だった。そしてまた一斉に消える荷物――。




てっきり、どこかで一度喫茶店などで一服すると思っていたのだが…二人、というよりマキナはまっすぐに帰るつもりらしかった。ひよこ以外は来る前と何も変わらない装備で、歩道橋を渡る。

新都に続く川沿いの公園近くまで来ると、マキナは立ち止まり、川と橋を眺めていた。特に自分は見たくもないだろうに、金ピカは律儀に立ち止まってそれに付き合っていた。



「…いつの時代ものどかですねえ…日本は」



欄干に乗り出すマキナのワンピースの裾が、ひらひらと風を孕む。



「流石、『門の向こうの王』が守護する国」
「王とな…?お前の言っていた天皇とやらか?」
「この場合は陛下じゃなくて…閏賀の人たちです。王様も、元の時間軸に戻ったら必ず会うことになりますよ。何しろ私を日本で全面的にバックアップしてくれている人たちですから」



王という言葉に反応する金ピカ。というか、『門の向こうの王』に『閏賀』って何だ…?
生粋の日本人である俺だって聞いたことないぞ。



「この国の王ではないのか?」
「さあ…私もまだよく知らないんですけど、神や妖怪や鬼の世界の王様だとか。私に『八雲鍵(ヘルンズ・キー)』を造ってくれたのも閏賀の人です」



 なのでタダモノじゃないことは確かです。とにっこり笑って言うのだが……神や妖怪や鬼の世界の王って…閻魔大王とか天照大神とかぬらりひょんとか…?そんなの存在するワケがないだろう、と俺は思うのだが…



「十万億土の王ということか?成程、確かにアレは人間の手で造れるモノではないからな」
「うーん、十万億土というよりは地獄寄りな気もしますけどね」



アレとはその『八雲鍵(ヘルンズ・キー)』って奴か?名前からはさっぱり想像がつかないがどういう鍵なんだろう。とにかく、慢心王の方は、マキナの説明に、その『門の向こうの王』についての信憑性を幾らか感じたようだった。



「まあ、世界中を長閑じゃなくしてるの、私なんですけど」



苦笑いしながら欄干の不安定な足場に乗ったまま向きを変え、翼のように両手をまっすぐ広げるマキナ。

十億人近くを殺したって話と繋がるのだろうか。とても不安定な足場で危ういバランスを取りながらも、マキナは風を感じ入るように目を閉じていた。



「構わん、お前がそう在ることをこの我が許しているのだ。負い目を感じることなど決してあってはならん」



その言葉と共にマキナの体が倒れる。



「!」



マキナがバランスを誤ったのではなく、前方に引っ張られたのだ。正しくはその腰を両腕が支えつつ前に引き、そのままの高さで持ち上げられたマキナの足が宙で揺れる。しな垂れたマキナの額と、上を向いた額とがゆっくりぶつかる。その光景はさながらファッション雑誌の見開きの広告のようだった。ただし背景に少々風情が足りないので、白黒写真で撮れば大層味のある写真となったに違いない。

現に、遠巻きだがちらほらと携帯電話のカメラを向ける若者が…。…そして相変わらず周囲にカメラマンとテレビクルーがいないかを探す中年女性とか。



ギルガメッシュの両肩に置かれた手。一度目を開けて呆、とされるがままにされていたマキナはまた目を閉じて、静かに笑顔を浮かべた。



「はい、勿論です。運用者様(マイ・マスター)」



……
なんだろう、何時間も尾行していてなんだが、何も俺が心配するようなことはなかったような。と、いうか。寧ろ俺達と一緒にいるより、二人きりの方が俄然安定している。セイバーを無理に付き合わせるほどのことでもなかったな。



「…セイバー、アイスでも食べて帰ろうか」
「良いのですか…?」



この近くにおいしいジェラート屋がある。徒労になってしまったとはいえ、セイバーは立派に役目を果たしてくれたわけだし、その労を労わねば。

ヒウンバニラ、ストロベリー、生チョコレート、チョコミント、モカ、シークヮーサー、パインココナッツ、チーズケーキ、クッキー、ミルク、ダージリン、巨峰、宇治抹茶、烏龍茶(?)、唐辛子(??)、オレンジシャーベット、パッションマンゴー、丹波栗、ヘーゼルナッツ、ティラミス、パンナコッタ、メロン、洋梨、焼き芋…まだまだあるフレーバー。これだけ選り取りみどりでは、セイバーも選ぶに選べない。全部買ってあげられる程の金銭の余裕があればいいんだが…いや、あったとしても。また相手がセイバーだとしてもこんなに冷たい物を大量に食べさせるのも考えものだ。大接戦を制し、三騎士(フレーバー)に選ばれるのはどの猛者か──



「レモンとダージリンと丹波栗ください」



セイバーがまだまだ決まらなさそうだと判断したのか、どうやら後ろのお客さんの注文を先に取るようにしたようだ…って



「奇遇ですね士郎、デートですか?」
「奇遇なものか、此奴らはずっと我等を盗み見ていたのだからな」
「二人はそんな人じゃなくないですか?私達が何か仕出かした時のフォローのために待機してくれていたんですよ、きっと」
「……」



先に注文した客とは…もう言わずもがなのマキナで、その後ろで偉そうに腕組みしているのは金ピカで、そうしてセイバーはそんなことよりも未だジェラート選びに夢中で

俺は溜息を吐きながら、事の次第を白状するのだった。








(…)
(2011/09/20)






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