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十月九日朝食後――

昨晩、ギルガメッシュに脛蹴りを決めてセイバーと入浴したマキナ。あの後セイバーはしばらく顔が赤かった。一体風呂で何をしていたというのか…気になるな…。そしてその後も、セイバーはマキナに押し切られて自分の部屋でマキナと共に寝るハメに…。いや、当然布団を一式運んで寝ているので、添い寝ではない…筈。

…アレほど押しに弱いセイバーを見るのも初めてだ。彼女には何か英霊を誑しこむ固有スキルでも備わっているのだろうか。とにかく、マキナの宝具らしい防壁に加え、セイバーのアヴァロンもあるので、金ピカがその百合の園に近づく事は終ぞできなかったようだ。



「雑種」
「…なんだよ?」



そして今、セイバーとマキナは2人で洗濯物を干しに行った。…行ってしまったというべきか。桜は部活、一人朝食の片づけをするのだが――気まずい。貸し与えた自室に戻ればいいのにと思うのだが…ギルガメッシュは縁側に居たまま。このまま縁側を定位置にする気だろうか。猫かお前は。

当然働こうなどという殊勝な心がけは在る訳もなく、マキナも手元に居なければ、むすっと不機嫌そうに腕組みをしていたのだが…

どうやらこの王にしては珍しいことに、何か思い悩んでいるらしい。



「貴様にこのようなことを問うのは不本意だが致し方あるまい。雑種のことは雑種である貴様の方が幾分感得に分があるからな」
「…前置きはいいよ。要するに何を聞きたいんだ?」



実は、要約してもらわなくても既にギルガメッシュが何が言いたいかは解っている。だが、今の様子は見ていてとても面白いので敢えて言って貰おう。



「何故彼奴(あやつ)はああも頑なに我を拒む?一体我のどこに不満があるというのだ…!」



……
ああ、やっぱり紛うことなく
今までの(爆弾)発言の数々は素だったのか…。本当に『王は人の心がわからない』んだな…苦笑するものの…いや、色んな意味で苦笑してる場合ではない。この慢心王に、どう説明するのが最善かを真剣に考える必要がある。



「そうだなあ…ギルガメッシュ。お前、普段からマキナが喜ぶようなことしてやってるか?」



あ、今の質問は不味かったかもしれない。昨日の朝の再現になりかねん…
まあ、幸い俺しかいないから別にいいけど。目を丸くした英雄王は、正しく思いも寄らないことを俺に言われたらしい。すぐに眉根を傾げる。



「この我の側に永久に在り続けることを許していることこそが、何よりの喜びであろう?」



ガクッ。
とそんな効果音が出そうな勢いで肩を落とす。思わず皿を落としかけた…。

…悲しいかな、この世界を自分のものにせしめた王様が。自分が思っている程の価値を、総じて世界に遍く雑種達は感じていないということなんだよな。おお、なんと嘆かわしい。まるで裸の王様のようだ。なんて同情は置いておいて――



「あのなぁ…それじゃダメなんだよ、そういうんじゃ。もっと能動的に、お前から何かしてやろうとしなくちゃ」



…また失言、というか言葉が足りなかったかもしれない。何をしていいか解らない奴に「何かしろ」なんて、またとんでもない事をやらかしてマキナの心の離反を招く結果に…
なりかねない、と瞬時に思い至り、ギルガメッシュが何かを言う前に付け加える。



「例えば…そうだな、買い物に付き合ってちょっとしたものをプレゼントしたり…一緒に服を選んだり、遊園地に行ったり…ああ、『わくわくざぶーん』なんかに連れて行っても喜んでたな。」



セイバーに始まりイリヤ、桜、ライダー…彼女達との思い出を辿り、嬉しそうにしていたこと、楽しそうにしていたことをあれこれ思い起こす。



「ふむ…そのようなことで良いのか?」
「ああ、女子にとっては何気ないことが嬉しいことなんだ」
「成程―― どれ、家の一つや二つでも買い与えてやるか」



皿を落としかけること、二度目。



「違ーう! 全然“ちょっとして”も“何気なく”もないだろソレ!」
「では宝飾品か?店ごと買い占めてやろうではないか」
「…だからそういう金に物を言わせるのが間違いなんだってば。金じゃなくて気持ちが大事なんだよ…」



実は将来的に、方向性としてはどっちも間違ってない。しかし段階ってモノを踏まなきゃだろう。



「ぬいぐるみなんてどうだ?セイバーも結構気に入ってくれたぞ」
「……ぬいぐるみ…とな?」
「女の子は大抵ああいう可愛いものが好きなんだからさ」



これならまず間違いない筈だ。
そうでなくても、こうして素朴なデートでもして、金ピカの何気ない気遣いでも目の当たりにしたら…マキナの頑なな気持ちも少しは軟化する筈――…
……
…?











「マキナ、ちょっとギルガメッシュと買い物に行ってきてくれないか?」



洗濯物を干し終わった二人が戻ってきて早々、士郎は買出しリストのメモを渡しながらマキナに言う。マキナは2秒ほど固まった。その後――



「わかりました、ですがこの程度の買出し一人で充分です」
「なっ――」



思わぬ伏兵、思わぬ障害。まさか此奴(こやつ)こちらの思惑に気付いて――?



「いやいや、米とか工具とか…どう考えても一人じゃ無理だよ」
「そんな庶民的なモノ王様に持たせるワケにはいきません、それに士郎は私を見縊りすぎです。私ほど荷物持ちに特化したサーヴァントはいないんですから」
「な、なんだと…!」



フッと偉そうに言ってみせたマキナ。なんで一々ドヤ顔をするんだ。



「…確かに昨晩セイバーを軽々抱えたりしてたけどさ…」
「ええ、身体改造してますから力もありますし…私の宝具を使って手段も選ばなければ正直持てないのは東京タワーとか国会議事堂とかそういうの位です。いや、それも状態の保全を考慮しなければ持てるかも」
「そんなの持たんでよろしい!そして手段は選びなさい!」



一体どんな宝具を持っているというのか。いや…しかしこうして問答していても埒があかない。これはもう家主の権限で強制的に行って貰うしかあるまい。ちょいちょいと手を振ってマキナを呼び寄せる。



「買い物に行ってる間アイツをどうする気だ?アンタが面倒見てくれないと、とてもじゃないけど俺たちの手には負えない」
「……」
「2人で行ってきてくれ、これは家主としての命令」 
「…ガクガク、ブルブル」



何擬音(オノマトペ)を口走ってるのこの子…実際ちょっと泣きそうな顔をしている。スマン、でも多分これもアンタ達の為だ。











行き先は近くの商店街ではなく、新都。わざわざその為に、今すぐに入用でないものまで買出しを頼んだ。新都までの行き方を簡単に説明するとすぐにマキナは理解してくれた。まあ…金ピカは十年近く冬木を徘徊していたワケだから、道に迷うということはまず無いと思うが…。



「心配だな…」
「…心配ですか?」



何だろう、よくわからないけどとりあえず一応、とんでもないHAKAISHAを二匹、野に放ってしまったワケだし。…今からでも遅くない。



「セイバー、出かけよう」
「二人を追うのですね?」
「…よく考えなくてもあの二人、未来から来たばっかだしな。ただでさえ目立つのに…何かあったらフォローできるようにしておかないと」
「わかりました、すぐに支度します」



居間を出て、足早に自室へと戻るセイバー。俺も着替えないと。…ってコレ、よく考えたら俺達もデートするってことなんじゃ…味気も色気もない、尾行“時々”デートだけど
 



(…)
(2011/09/20)






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