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マキナの作る料理は、“男の料理”に近かった。緻密さ、繊細さに欠けるワケではない。
しかし、それらは必要最低限に抑えられており、基本的には大雑把…とも違う豪快さ、アバウトさは俺には真似が出来ない。その料理には“勢い”がある。

面白いことに料理一つとってみても、その人となりが透けて見える。選んだ食材、品数、調理法──そしてマキナの年齢。

間違いなく、マキナの一人暮らし歴は長い。誰かの為に作る食事ではなく、自身の為だけの食事。しかし、彼女にとって食事は単なる栄養摂取の手段ではなく、明らかに楽しみの一つではあったようだ。確かに彼女の言う“精神衛生の為”とは、改めて考えてみれば
心の潤いの為、味覚を刺激し精神を豊かにする為…そういうことだったのだろう。

最終的に日本料理では俺達にとても及ばない…ということで、ほとんどがイタリア料理のラインナップとなった。とはいえ…商店街の店で本格的な食材を揃えるのも難しく…材料自体は大体馴染みのあるものでの調理となったのだが…作り手と調理法が違うとこうまで違った味わいになるのかと驚かされた。豪快な中にも、恐らく日本人特有の繊細な味覚も隠れている。特別優れた料理の手腕を持っているわけではない。だけどその調理姿から料理の味までが…まるで彼女の生き方の一部をそのまま味わっているようで、俺や桜は勿論、セイバーも…そして藤ねえも大いに満足したのだった。

デザートに出されたクリームブリュレは、何の変哲のないクリームブリュレのようで、表面をびっしりと惜しげも無く覆ったほろ苦いキャラメリゼと中の濃厚なようで意外とさっぱりとしたクリームの共演が素晴らしい。あんなに目をキラキラと輝かせたセイバーは久し振りに見た。



金ピカの言う“愛”は俺にはよくわからなかったが…秘めた“情熱(パッション)”だけは大いに感じ取った。そして恐れていた藤ねえと金銀主従の邂逅だが…苦し紛れに『どちらもセイバーの従兄妹』だと言ってみたところ、意外とあっさりと疑いもせずに信じきってくれてしまったのだった。…一体どんだけセイバーの親族が来日してるんだ。

そして藤ねえが帰宅、居間での一服と風呂の時間帯。──それはまた始まったのだった。







「セイバーさん!!!」



トタトタトタ…と廊下を走る音が段々と近づき、居間へと突入したのは、泣きそうな顔のマキナで。“私ですか?”と目を丸くして自身を指差したセイバーに、そのまま勢い良く、熱烈なハグ。マキナの身長はセイバーより少し高いのだが…ぎゅううと抱きつくマキナは、なんだかとても小さく頼りなげに見えた。



「なっ…なんですか…!マキナ…!!」



いくら相手が女とはいえ、唐突の抱擁にみるみる頬を赤らめるセイバー。そんなセイバーの胸辺りに(羨ましくも)顔を埋めていたマキナは顔を上げる。その縋る小動物のような…か弱い民のような懇願の瞳。それに射貫かれたようにセイバーは一瞬固まってしまう。



「お願いします…私と一緒にお風呂入ってください…!!」
「は……!?」
「色々考えたんですけど…貴女がいいんです…貴女が一番いい気がします…」
「一体何を…」
「お願いします…私を助けると思って…!!」



…何事だ。この百合の園は。そして、目の前で繰り広げられる胸熱な光景に目を奪われ、
俺達は新たなる来訪者に気付かなかったのだった。



「何をしている、疾く湯浴みの用意をせぬか」



…成る程。全て事情はわかった。コレから逃げていたのか…マキナは。…なんか思いっきりセイバーを盾にして隠れてるし。全然隠れ切れてないし…



「…入浴前に新たな遊戯に興じるというなら付き合ってやらんこともないぞ」
「いえ、遊びどころか、今私、真剣そのものですし、お断りしますし」



ブルブルと顔を横に振るマキナの表情は、確かに遊びの色など微塵もない。一歩一歩と近づく金ピカに盾を放棄して、ずるずる、ずるずると地虫のような動きで床を座りながら移動するマキナ。



「ってゆーか要するに、常識的に考えて、一人で入浴してください」
「何を今更恥らうことがある?」
「いや、だって!よく考えたら私…“この身体”では一度も──…!!だって今まで霊子体だったし──…まだ今からでも遅くないんです、きっと…!!」



途中、途切れ途切れになってしまう言葉が今一要領を得ないが、“この身体” “霊子体” これは未来の聖杯戦争に関するキーワードだろうか?そしてついに部屋の隅に追い詰められたマキナの前で正体の掴めない笑みを浮かべたまま片膝をつく金ピカ。

そして、手を伸ばす。
マキナは反射的に身体を強張らせる。慢心王が手に取ったのはマキナの髪の一房で──



「お前は我が宝物、錆びぬよう…その輝きを保つ為には――この我が手ずから、その爪先に始まり髪の一本一本…そして内側に到るまで、丹念に磨いてやらねばならぬであろう?」



金ピカが手に取った髪束に口付けながら笑う。



「…! ……!!」



最早、昼間のように口も達者に言い返す余裕を無くし、マキナは、大地震の震源地かのようにガクガク震え始めた。っていうかオマエが彼女を洗うのかよ…

最早茹蛸のように顔を真っ赤にして震えていたマキナは、ついに頭をかかえてしまった。可哀想に…

限界を越えた羞恥に屈服するかと思われた次の瞬間──



「お断りします!!」



ゴッ



「男子を足蹴に…!!」
「豆腐の角に頭をぶつけて死ね、変態!!」



突然立ち上がったマキナは、強烈過ぎる脛蹴りを金ピカにお見舞いした後、痛みからか姿勢を崩したギルガメッシュを見もせずに――セイバーを脇に抱えてダッシュで風呂場へと逃げて行った。…見かけによらず、結構力持ちなんだな。




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