from Mayhem :12



「双子のマスター?」
「服の色は白黒で違うんだけど、瓜二つも瓜二つ。上がり眉毛と下がり眉毛の違いくらいしかない」



指で眉尻を吊り上げてみたり吊り下げてみたりして表現してくれる白野を、何だか愛くるしく思いながらも、そうかそうかとマキナは頷いてやる。白米も炊き、大鍋の中には辛味を抑えたグリーンカレーが出来上がっていた。



「ゴメン、ある意味サーヴァントが二人いる私が言えたことじゃないけど、二人のマスターで一人のサーヴァントなんてありえるの?」
「わからない…」
「うーむ」



マスターの名はありす。
ロリータファッションに身を包んだ、マキナ同様プラチナブロンドの少女である。瓜二つという黒い方は今のところ見かけていないが…白いドレスに身を包んだ少女の方には見覚えがある。どころか、実は少しだけ心当たりがある。確信は無いので無闇に口にはしないが。



「サーヴァントはバーサーカー…なのかな。とにかく大きくてソイツのお陰でトリガーが取得できないんだ」
「え、ちょっと待って。そのバーサーカーはずっとトリガーの前に陣取ってるの?」
「うん。ありすの話によれば、そのバーサーカーの真名は『ジャバウォック』」
「ジャバウォック…ねえ…」



サーヴァントをアリーナに放置してマスターはマイルームに帰っている?――双子のマスターというのも不可解だが、大事なサーヴァントを置き去りというのも斬新である。子供故の発想と芸当だろうか。ギルガメッシュをアリーナに放置して帰るなど…マキナにはとても出来ない。まあ、勿論そんな命令をしても従う筈もないのだが。



「やっぱヘンだよ、それバーサーカーってかサーヴァントじゃないんじゃない?」
「!」
「ありすは、善知鳥が“おともだち”を倒すことを期待してるようなカンジだよね。その上、もっと善知鳥と遊びたいとも言ってる。“おともだち”がサーヴァントなら倒したらありすは消滅するし、流石にありすがそれを理解してないとも思えないしさ」
「…うん…」
「“おともだち”がサーヴァントならまあ、それでもいいけど…どっちにしろ戦闘に入っちゃえばわかるんじゃない。セラフの介入があればサーヴァントだし、なければ違う。」



そしてそれ以前に。昨日マキナ達のアリーナに白野とセイバーは居た。互いが遭遇したのは、マキナがギルガメッシュとアリーナを一周した帰りだったのだが…一周してきたマキナはトリガーの前でそんなモノは見かけていない。それについては、マキナとギルガメッシュがマイルームに帰った後に白野とセイバーが探索を続け、そこにありす達が現れたと考えるのが妥当か。しかし…問題は、今日アリーナに入ってもマキナと白野は同じアリーナに入るのだろうか?そして若しも二人で入って“おともだち”にマキナも会えるなら、要するにアリーナで、ありす達にも遭遇する可能性がある。白野と遭遇したとしてもそれは、ギルガメッシュを除けば大した問題にはならないが…ありすと遭遇した場合は、少々脅威になる可能性もある。マキナの心当たりが外れていなければ。



「…とりあえずもうすぐお昼だし、私一度マイルームに帰るね」



大鍋から、普通サイズの鍋にある程度グリーンカレーを移し、お櫃にある程度コメを盛り、マキナは帰り支度を整える。



「…アーチャーのところに戻るのか?」
「そりゃ、まあ」



少し頬を膨らませて不機嫌そうにする白野に、マキナは苦笑する。



「色々心配してくれてありがと、岸波。でも大丈夫」
「…本当?」
「私は此処に恋愛しに来てるんじゃなくて聖杯戦争しにきてるんだから」



そう言っても白野は表情を変えなかった。マキナは苦笑したまま一度溜息を吐き、話を元に戻した。



「調べたい事も幾つかあるから…そうだな、二時にアリーナの前で待ち合わせよう。それでそのジャバウォックとやらを見に行こう」
「え…一緒に行ってくれるの?」
「百聞は一見に如かずってゆーしね、興味もあるし」



今クロックムッシュを食べたばかりなので、二人にはまだこのグリーンカレーはいらないだろうが…食器類のみは用意し、後は温めて食べるだけにしておく。自分とギルガメッシュの分を持って、マキナは白野のマイルームを後にした。



「……」



出て行く直前にも、にこりと笑って行ったマキナだが。白野はやはりどうしても、ありすのことよりもマキナが気になる。そして釈然としない。

“尊く目映くも愛しい…私の王”

思い出すのはジェスターとしてのマキナの言葉の数々。

“君の王は、結局ギルガメッシュだったんだろう?”
“私は、君が壊れちゃうんじゃないかって心配だよ”

口にこそしないものの、そう、心の中で呟く。確かにマキナが先程見せた表情は、酷く冷たい感じがした。それこそジェスターからは見れなかった類の拒絶…否、孤独感。今、例えマキナがギルガメッシュに対して一線を引いているとしても、否、だからこそ危うさを脆さを感じる。何故なら今の彼女のその先に、あの未来のジェスターがいるのだから。“私の王”を愛する彼女が。


“我とマキナの聖杯戦争に、貴様の存在は甚だ蛇足だ”

その言葉にも、思うところがあった。人のどんな行動が未来に如何なる影響を与えるか判らない。昨日のアリーナでは、つい冷静さを欠いてマキナをアーチャーから引き離そうとしたが、果たしてそれは…近い将来ならぬ、遠い将来にてどういう影響となって表れるのか――正直なところ、白野には予想がつかない。白野なりに考え、第四次聖杯戦争についても詳細は余り話さないように務めた。マキナに訊かれなければ言うまいと考えている。そしてマキナは、少なくとも今日は訊いてこなかった。

しばしの逡巡の末、ここでやっと白野もはあ、と一度溜息を吐くのだった。











「どこへ行っていた」
「え…」



2−Bの教室を出て、2−Bに戻るマキナ。出て、認証鍵を通して入るだけの3秒足らずの動作。予想していなかったワケではないが、そこには、丁度入り口の正面側、窓側の中央に位置する玉座(らしきもの)に座し…入ってきたマキナを睥睨しているギルガメッシュが。一瞬マキナは動きが止まったものの、中へ入って戸を閉める。



「あの小娘に逢っていたのではなかろうな?」
「逢いましたけど…礼装返してもらっただけです」



 あ、あとキッチン借りてご飯作ってました。と。マキナの手には、鍋とおひつと、そして重い布が掛かっていた。割と正直に答えたものの、当然か。ギルガメッシュの視線が何やら妙に、じりじりと痛い。



「そろそろお昼だし、ご飯にしませんか?」
「またも主人を疎かにし…我が昼餉を喫する間、お前は一人遊蕩にふける算段か?」
「え、今日のお昼はご一緒するつもりでしたけど…」



正直、今の言葉に驚きを隠せないマキナ。まさか、自分と一緒にご飯を食べたいということなのだろうか?否そんなことはないとマキナはすぐに思い直す。ギルガメッシュの言葉通りのはずだ。メシを作りおきで、さっさと出て行かれるのが等閑な感じがするだけだろう。しかし、そんなこんなで色々とこの王に付き合っていてはキリがないのでは。朝などギルガメッシュが起きるのを待っていては時間が勿体無い。時は金なりというのだから、『金』が好きなギルガメッシュにはそこのところご理解いただきたいものである。



「それに王様とあんまり一緒に居ると、色々メンドーなこと言われそうだし」
「何だと?」
「いえ、ただの独り言です」



といいつつも、聞こえるように言っているマキナ。涼しい顔をしながら、手に持った鍋をガス台にかける。



「でもお昼食べたらまた少し出かけてきます」
「…また逢うつもりか?」
「今度会いに行くのは遠坂です。色々訊きたい事あるんで」
「ならん」
「…」



案の定、許可が降りない。
白野はギルガメッシュと付き合わせることにいい顔はしないし、ギルガメッシュは白野や凛に逢うことに、いい顔はしない。何故こうも色々と他者から禁じられるハメになっているのだろうか。またしても苦笑しながら、そして今度は──白野に見せたのと同様、割り切った表情でギルガメッシュに異議開始。



「誤解があるかもしれませんが、私結構冷たい女ですから。根底ではこの聖杯戦争をどう勝ち抜くか、そんなことばかり考えてます」



冷たい女は、温かい飯を皿に載せながら続ける。



「もうすぐ善知鳥のサーヴァントの正体もわかりそうだし、善知鳥の相手サーヴァントの正体も手掛かりが得られそうですしね。折角余裕ができたこの一周間に色々調べておかないと。それにそもそも、このムーンセルのこと自体も調べなきゃ本末転倒だし」



 だから許してください、とばかりにマキナはまた綺麗過ぎる笑顔をギルガメッシュに向けた。ギルガメッシュは眉根を顰めたままである。



「王に虚言を申すは重大な罪咎であるということを、心得ておろうな?」
「嘘じゃないと思うんですけど…」



少なくともマキナ本人にとっては、正直な告白のつもりだった。

しかし、実際は。
それこそが誤解なのである。
一番判っていないのは本人なのだ。
白野がマキナの言葉と表情に釈然としないものを感じると同様――…ギルガメッシュも、マキナ以上にその深層を理解しているが故に彼の表情は険しいままだ。

だが、この思春期の少女は
否、マキナという特異な娘は。
慎重に扱わねばあらぬ方向に突き進んで行ってしまうだろう。

ギルガメッシュは暫くマキナを見据えたものの、しかしそれ以上は何も言わないのだった。


 


(…)
(2011/11/22)






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