from Mayhem :09



短銃と剣の一騎打ちの場合、またどちらも達人であった場合…間合いにもよるが、やはりその弾速と威力、人差し指ひとつという、必要最低限で済むモーションからも…ほとんどの場合は短銃の方が有利であろう。大筒ともなれば、剣一本では歯が立たない。

だが…もしもその剣が、或いは山をすら穿つ破格の威力を備え…尚且つその速度たるや銃弾に等しく音速を優に越え、あらゆるモーションすら必要とせず、頭の中で“そうあれ”と命じただけで放つことができる…それも無数に。そんな通常…否、異常でもそう有り得ない、笑うしかないような芸当を眉一つ動かさずにやってみせてくれるのだから、文明の利器も太刀打ちできない。

あらゆる戦場を、ある時は黄金の鹿号の上で、ある時は敵船で、陸地で共にしてきた無銘の“二挺拳銃(トゥーハンド)”。流石、共に真の意味で世界を一周してきただけのことはある。それ自体が大した戦果を上げていないにしろ、彼女の愛銃は当然宝具と化していた。

しかししかし、そうだとしても。
やはり王の宝物庫(ぼうりょく)を前にしては、ほとんど無意味に近い。だからこそ。

この圧倒的に不利な状況を前にしても折れることなく“持ち堪えている”その状況こそが何よりも、異常だった。そして、この少々厳しい防戦は嵐の到来までの間の時間稼ぎにしか過ぎない。

ところで、そんなことよりも。
敵方のサーヴァントの超常性も、自身のサーヴァントの奇跡のような立ち回りも全く意識もできない程、間桐慎二には容認し難い一つの現象があったようだ。



「おかしい、絶対におかしい!一体どんなチート使ってるんだよ!!使う端からすぐに充填されるMPなんて、どう考えてもありえない!」




“ありえない”
それこそ、ありえないことを可能にした女だった。この星の開拓者は。できる筈がないと一笑に付されたことを、実力と運とを以って実現してきた破格の英雄──嵐の航海者であり、その嵐すら統べた首領だった。

彼女、フランシス・ドレークにとって“沈まぬ太陽”にすら等しいこの黄金の英霊との戦争は、アルマダの再来。彼女と彼だけの戦いであれば、彼女は打ち勝っていたかもしれない。…だが、彼女には“彼”がいてそして、彼には“彼女”がいる──
あの、冷たくもマグマのように熱く揺ぎ無い瞳をした、彼女が。


一目見た時から彼女の瞳が気になっていた。少なくともスペイン野郎の中で、そんな瞳をしている奴はいなかった。…今思えば、生前戦ったすべての敵の中にもそんな瞳をした男も女も、フランシス・ドレークは見たことがなかったかもしれない。それなのに既視感のあるその瞳。その瞳を自分は一体、どこで見たというのか──



「…お嬢ちゃん、最初にアンタと会った時から感じてた違和感があるんだが──」



思い起こせばそれは、嗚呼、鏡に映った、かつての自分の瞳に似ていたのかもしれない。



「その違和感の理由が、今更わかった気がするよ」



同じく女で、特殊な立場にいたからだろうか。否、違う。あれは同じ場所に立ち、同じ場所を見続けている者の瞳なのだ。そして自分には、もうそんな目は出来ない。

そんな目をした彼女が彼のマスターだからこそ、ライダーは今度こそ太陽を打ち落とせないかもしれない。いつだって太陽を打ち落とすのは地上にいる者だ。だが…地下地中の最底辺の位置から足を引っ張る者がいるのならば地上の者の手は、どうやっても太陽に届かない。



「手遅れでなければいいですね」



霧が立ち込めはじめてからしばらくが経つ。
もう大分、視界が朧げになっている。
互いの表情が見えなくなるくらいには。
嵐の訪れはもうすぐ。
見えない彼女の表情。
そして彼女の言う、嵐の夜の露払い。
一体何をするつもりだというのか。



「…鬱陶しい霧だ」
「しばしご辛抱を。すぐに晴らしてご覧にいれます」



そろそろ悪魔の乗る火船を放つ頃合。霧に乗じて相手の退路を断つ。その瞬間を自分も、そして彼女も待っているのだ。
















「どうした、何があったのだ?奏者」
「これ…知ってる…」




目から無意識にあふれ出す涙。こちらも戦いの最中、銀髪の少女から借りた礼装は毒から自分とサーヴァントを完全に守っている。その安堵感に、覚えがあった。



「わたし、同じように守られたことがある…この布に…」



毒や銃弾、或いは…寒さから。

  “一緒に入ろう、白野。二人で入ればもっと暖かいよ”




「…白野?白野って誰――」



“これ、重すぎるだろうマキナ”
“重いからこそいいんですよー”
“厚手のショールに鋏に…後はロッキングチェアでもあれば君はお母さんみたいだ”
“こんな危険なお母さん、私はいやですけど…”
“ごめん、嘘だよマキナ。お母さんじゃない、そうだな…君は私の友達だ”

――私の最初で、多分、最後の――





「あ、ああ… ぅあ…ああああ…!」



“いいえ、もっとたくさん作りましょう。何人でも作ればいい。友達も恋人も好きなだけ作れる未来を、私が必ず約束します。”



「奏者!!」
「おいおい…大丈夫か? 防がれたように見えて実は効いてたか?」



涙は止まったものの、魂が抜けたように立ち尽くしているマスター。剣の英霊は今すぐにでも駆け寄りたいが戦いの最中。今は叫び掛けることしかできない。



「…事情は知らぬが手加減はせん。仕留めるぞ、アーチャー」
「あいよ、ダンナ!」
「しっかりするのだ、奏者!」



ずっと自分と手を繋いで、自分を引っ張ってくれた。あの戦争の終わりの日まで。この日この時と、その後の日々の為に手を引き続けてくれたのだ。自分ももう、あとしばらくの時を重ねれば…やっと彼女と同じ時間を歩むことができる。



「…ごめん、セイバー」



白野が目を閉じ、見開いてみると後にはもう未来への希望しか残っていなかった。



「全て思い出したんだ…もう大丈夫。この戦いに勝とう、私は聖杯戦争に参加するのは“二回目”なんだ。私は一度、聖杯戦争を生き抜いているんだ。だから──一回戦なんかで負けるわけにはいかない!」




戦いの心得は、一人目のサーヴァントから教わった。諦めないことを、二人目のサーヴァントから教わった。で、あれば──もう、やることは決まっている。



「セイバー、アイツを倒せ!」
「──任せよ、奏者(マスター)。聞きたいことは山程あるが…全ては勝利の美酒と共に、ゆるりとな。そして頑張った余の頭を好きなだけ撫でるがよいぞ!」






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