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『その醜悪さたるや正視に耐えん。 残滓も残さずに消え失せるがいい』
『そう、私は醜い。貴方がそう言うのだから真実に。私の美醜善悪を決めるのはいつだってあなた方だ。もとより私はただの“鉄”──そもそもが、美しくありようがないのだし』



阿鼻叫喚とした、怨嗟と憤怒の戦争の中――



『マキナ、アイツを倒せ!』
『──承知した、マスター。”死の商人の娘”たる貴女はまさしく私の運用者(マスター)に相応しいなれば私は最高の“技術(すべ)”を以って敵を討ち倒そう──!』



――その道化は『喜劇』そのものの体現者



『刮目せよ、そして心ゆくまで堪能せよ――”王と平民(ひとびと)”を愉しませることこそが我が務め』



その存在そのものが さしたる意味もなく――時にその醜怪さで、時にその絢爛さで人の目を虜にする



『お前を喜劇のうちに消費して(殺して)やれないのが残念だ…ただの“1”として』



あの高揚の刹那の連続――
――あの暴虐の嵐の夜、無垢無色の暴力。彼女とは途中から各々違う道を歩み、相見えることはなくなってしまった。聖杯戦争終結の時、彼女がどこで何をしていたのか、セイバーは知らない。



『道化風情が我に刃を向けるか…!!』
『語るに及ばん、ゆめゆめ死なんように気を配れよ──英雄王!!』



しかし…あの水と油、天と地――と形容するのも憚られるほどに、決して交わる事のないと思われた正反対の者同士がどうして――?理解が及ばぬ…

セイバーは自室で正座姿勢のまま、静かに十年前の戦争の光景を回顧する。恐らくは、第四次聖杯戦争での『宮廷道化師(ジェスター)』は、この時代に現れたマキナよりもまだ未来のマキナ。見た目こそ全く違わないが、発言を含めあらゆる要素を検証する限り間違いない。

何故あの二人が――否
何故あの二つの存在が──因果をどう捻じ曲げて交錯したのか…


何故。


ああ、愚問かもしれない。
否、愚問だった。



『燦然なる騎士王よ、どうか―― の ――に――、貴女のお力をお貸しいただけませんか…?』



――解らなくはない。

小さな器と、強大に過ぎる力
その甘美なか弱さと、絶対的圧倒的暴力はどちらも強い毒のように、或いは悪魔の誘惑のように──どうしようもなく、我々『王』を魅了するのだ。

自分とて陥落(おち)てしまうだろう。縋るような瞳は紛うことなく非力な民草のもので…しかしその瞳の奥の奥の揺ぎ無き暴威は王どころかヒトの手にすら負えない。そんな矛盾を抱えた存在なのだ。アレは

正しすぎる王にとって、その野放図気ままの矛盾は、身も心も焦がしてしまう程に妬ましく いとおしい。

光の英雄には、影の反英雄が必要なように。









「セイバーさん、セイバーさん」
「!!」



カッと目を見開き弾かれたように声の主を探る。そこには、部屋の戸を少し開いて、こちらに手を振る…マキナの姿。



「…ジェスター!いえ…マキナ、どうしました?」
「すみません、何度かお呼びしたんですけど反応がなかったんでちょっと開けちゃいました」
「いえ、こちらこそ申し訳ない。考え事をしていて気付かなかった」



立ち上がる。
そして数歩前に出て、マキナの正面に立つ。改めてその様子をまじまじと眺めるが、記憶にあるジェスターよりもかなり柔和で人間味がある。しかし、何用だろうか。こうして改まって一人で自分に会いにくるとは…



「どういった用件ですか?マキナ」
「今日の夕飯何食べたいですか?」
「えっ」



2、3度と瞬く。
痒くもないだろうに顎を掻く仕草をするマキナ。セイバーにも見覚えのある仕草だった。



「いや、衛宮士郎に同じ質問をしたら、”俺は何でも構わない、セイバーに聞いてやってくれ”って言われたんで」






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