from Zero :04



倉庫街に身を潜め、事の顛末を見守るのは何も切嗣達やケイネスだけではない。



「殺すんだバーサーカー! あのアーチャーを殺し潰せッ!!」



雁夜は見逃さなかった。例え一瞬であろうと見間違えよう筈もなかった。ジェスターを攻撃した際に黄金に輝いたアーチャーの背後。アレは昨夜遠坂邸をアサシンから守護したサーヴァント…

6体のサーヴァントが終結するその小さな戦場へ乱入する新たなサーヴァントは、場の者達を多かれ少なかれ驚かせることになるだろうが…まさか、逆に自分自身が驚かされることに──予想外の展開が待ち受けていようとは、この時激情に身も心も支配されていた雁夜は夢にも思わなかった。






from Zero,to the MAYHEM...





――――82億。

夥しい、途方もない数の死。
現時点での人類の数が60億程度だというのにそれをも上回る死。一度で殺し尽くしてしまおうと思えば人類は晴れて滅亡。

『五分の二』に何の意味合いがあるかは分からないが…それができるならば鏖殺もまた無理からぬことだろう。そして古今東西、どんな暴君であろうと、独裁者であろうとも。
それ程の数の人間を殺した者はいない。

白野もそれには、何と反応していいものかと呆気に取られてしまった。それは白野のみに対しての発言だったとはいえ、場にいる全ての者の耳に入っており、また信憑性も定かではないが、含羞んで言ったジェスターのブラフとも思えず…気高く高邁な精神を備えた者――或いは世界の管理者を自負する者など聞き逃せる者などいなかった。



「こりゃまた…とんでもないことをやってのけたもんだなぁ…?」
「何故そんなことを…一体何の為に?」
「…狂気の沙汰だ。貴様には血も涙もないのか……?」



征服王にフィアナの騎士と、騎士王とにほぼ同時に言われ、マキナは痒くもないのに頬を掻くのだった。



「何故かはこの場でお答えしかねます。そして大変遺憾ながら血も涙もあります」



相手の代わりに…なのか、残念そうに溜息を吐いてみせるマキナ。すると残り一人の英霊からも、感想を賜った。



「度し難い程に鳥滸がましいな、道化。誰の許しを得てそのような蛮行に及んだ」
「!」



黄金に輝く唯一王のその言葉に、ここまで芝居がかった素振りばかり見せていたマキナはきょとんと目を瞬く。一気にただの少女に戻ってしまったのだった。それも数秒程度のこと。マキナは目を閉じ感慨深げな顔をして言った。



「世界を統べる王に許可を頂きました。敢えてその御名は申しませんが…。王の中の王、尊く目映くも愛しい…私の王に。ま、事後承諾に近いんですけど」



悪戯っぽく、或いは少し恥ずかしそうにマキナは笑う。その『王』とは誰を指すのか、それは場に居る誰にも判らない。白野にさえも。“世界を統べる王”――それは正しく自分のことであるが、しかしそんな許可を出した覚えなど当然無い。眉根を傾げた英雄王が口を開く前に、自身の問いに対するマキナの答えに全く満足の行かないセイバーが畳み掛ける。



「貴女の話を鑑みるに、恐らく貴女は未来の英霊だろう。だが…いつの時代であろうとも、それ程大勢の人間を殺していい道理などあるものか!貴女は世界を滅ぼすつもりだったのか…!?」



少々話が逸れたとはいえ、そして自身の時代からは遠く離れた未来のコトであろうとも、この宮廷道化師(ジェスター)の英霊の所業は決して看過出来なかった。



「道理はなくとも、“そこにただ、そういう事実がある”」
「なに…?」
「まあ、やめましょーよこの話。先達への文句は吐こうと思えば那由他とありますが、自分の時代のコトだから自分でケリをつけたまでです。それ以上でも以下でもなく」
「…答えになっていないぞ、ジェスター」



思わせ振りに含みを持たせた…しかし割り切った感のあるマキナの答え。暗に“過去の人間達に恨み言がある”と。過去と言ってもあまりに漠然と幅広いが、自分もそれに該当するセイバーは後代の人間であるマキナのその言葉を、やはり聞き流せない。

マキナはそんな騎士王の真摯な瞳をしばし見つめてから口を開いた。



「世の中には知るべきことと、知るべきではないことが存在します。余計な詮索はせず貴方々英雄はただ燦然と輝いていてください。それが務めだ。醜悪で汚れた部分は、それが似合いの我々反英雄にお任せくだされば良いのです。ここまで申し上げれば充分でしょう?後はご察し下さいますよう」



しかし、それでも。
マキナは英雄王や征服王にしてみせたのと同じように騎士王に対して、深々と一礼して見せたのだった。そしてそんなマキナの発言に最も早く異議を唱えたのは──



「今の発言を撤回しろ、ジェスター!」
「ま…ますたー?」



そして最も憤慨したのは、マキナのマスターである白野だった。



「君が醜い?汚れてる?――デタラメ言うな、君は美しい!」



胸を張って堂々と言い放たれたその言葉にまた場は静まり返ったのだった。ウェイバーはウェイバーでこの殺し合いの場には不似合いな程稚拙だが…この白野も白野でまた、破天荒に過ぎた。微塵の遊びの気持ちも無くこの聖杯戦争に参加している大人達にとっては腹立たしさなど通り過ぎて呆れるしかなかった。宮廷道化師の英霊の、どことない不真面目さにもだが。



「どうあれ君は私の自慢のサーヴァントだ、不必要に自分を貶すんじゃない!」
「マスター…」



マキナはまた胸を射抜かれたような…感極まった表情を。そして、少し頬を紅潮させて憤慨していた白野を抱きしめてから、ぐりぐりと頬擦りしたのだった。



「もう、カワイイなーマスターはー!流石『漢:A+』、イケメン魂!ジェスターばりばり頑張っちゃうぞー!」



 おい…やめろよ人前だぞ、などと口走るマスターも含め、キャッキャと騒ぐ女子二人は最早その空間だけ別世界である。なまじ不可視の防壁などを備えているようなので隙を突いて奇襲をかけることも侭ならず、扱いに困る闖入者達である。




この如何ともし難い空気を謀らずとも変えることとなったのは遂にこの聖杯戦争の表舞台に放たれた禍々しい狂気の塊だった。





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