from Mayhem :04



「いらっしゃい、キミも改竄しに来たの?」
「ええ、もう是非にも今すぐにでもお願いします」
「妙に切実だね…相当酷いステータスにでもなっちゃった?」
「ええ…もうヤバいです。ヤバイ限りです」
「どれどれ…」



教会に陣取る魔女(イレギュラー)の二人姉妹。蒼崎橙子と蒼崎青子。橙子が青髪ショートカットの姉、青子が赤髪ロングヘアーの妹。魂の改竄をやってくれるのは青子の方だ。このムーンセルにイレギュラーな侵入を試みた二人。それぞれどういう目的でココに来ているのか、魂の改竄を請け負っているかはわからない。

橙子の方は電子煙草を咥えたまま本を読みふけっており、青子が離れた場所から教会の扉を閉じるコードキャストを読む。プライバシーを守ってくれるらしい。


「しっかし…この聖杯戦争には本当に有名人ばっかり参加してるみたいだねー、『億死の工廠』さん?」
「そう…みたいですね……」
「さて、『億死の工廠』サマのサーヴァントとステータスはどんなもんかなー」
「……」



ギルガメッシュに「私のことを知らない者はいない」と言った手前有名じゃないとは謙遜できない。気だるそうに実体化したギルガメッシュと、ステータス等の情報を見た青子氏が私を…なんとも形容しがたい変な目で見ていた。



「キミ、馬鹿でしょ?」
「否定はしませんけど、何故ですか?」
「…何?このスキルポイント…」
「えっ…何と言われても…」
「三日目にして60ポイント以上貯めた馬鹿はキミが初めてだよ…」
「そうですか?備えあれば憂い無しっていうじゃないですか」
「…しかもどれほど酷いステータスかと思えば、そんなでもないし…」



一体キミはこのチートサーヴァントをどうしたいのよ、と。どうやら青子氏もギルガメッシュがどういうサーヴァントなのか既に理解しているらしい。魂の改竄をするくらいだから当然か…



「まあいいや、で?どういう配分にするの?」
「とりあえず、全ステータスをAに揃えたいです」
「……とりあえず、こっちに来て」



ちょいちょいと手招きする青子氏。
小走りに近寄ると、彼女が既に操作をしている映像だけのモニターを見せてくれる。



「キミが彼をどういうステータスにしようと私の関知する所じゃないけど…この性能の高さじゃ、その目的は余裕で達成できるかもね」



ステータスの割り振りはココで確認して、と操作方法を教わり配分を決める。
どのスキルにどの程度ポイントを割り振ればレベルが上がるかが解る。
どうやら44ポイントあれば、オールAにできるようだ。



「余りは筋力や耐久に割り振っておいたら?」
「…いえ、今日はもう十分です」
「そう?じゃあ改竄するよ」
「余りのスキルポイントで私のステータスを改竄してください」
「…は?」



自信満々に言い放つと、思い切り怪訝そうにされた。



「悪いけど、マスターのステータスは改竄できないの」
「大丈夫です、私はサーヴァントですから」



この言葉に、我関さずと本を読んでいた橙子氏が顔を上げ、私に痛い子を見るような目を向けてきている。



「言葉を違えるか?マキナ、全てのポイントを我の改竄に使え」
「いやいやいや、オールAもあれば十分じゃないですか」
「戯け、お前の改竄は我のステータスが全てExになった後ならば赦そう」
「えっ何言ってるのこの人!責めて幸運だけもう少しあげさせてくださいよ…大切なステータスなんですから!『E-』なんてきっと毒もスタンも一撃必殺技も絶対回避できない!」
「えーと…痴話喧嘩中悪いけど、どういう事?何の話?」



先ほどと違い、英雄王の応対でか少し信憑性を感じているらしい蒼崎姉妹。しかしそれは、私が強ちただの痛い子ではないという証明ができただけで新たな疑問が生まれているような表情だった。



「ここだけの話、私はムーンセルと契約してサーヴァントと認められています」



百聞は一見にしかず。情報端末の私のサーヴァントマトリクスを二人に見せる。魔術師としても優秀で勘も良い二人は、一で百近くまで理解してくれてしまったらしい。私が自分をマスター兼サーヴァントとして聖杯戦争に参加しようとしたこと──それなのに、何故か自身のほかにサーヴァントが召喚されるという事態が起きた可能性…



「…なるほど。確かにオマエ程突拍子も無い人間なら、いずれ英雄扱いされても可笑しくは無いかもな」
「まあ、過去に『未来の英霊』が召喚された聖杯戦争もあるみたいだし…『過去』『未来』の英霊を呼び出すことが可能なら『現代』も…ってコト?」



正に、そう思って私は聖杯戦争に参加したのだった。納得してくれたところで、私の改竄もしてくれるよね?と青子氏を見ると…



「でも残念だけど、キミの改竄はできないよ」
「えっ」
「少なくとも今日は。キミが正規のサーヴァントじゃないか、情報が足りないのか…しばらく調べてみる必要がありそう」
「…そうですか」












教会に用は無くなってしまったので、次の目的の地であるアリーナへと赴く。個人的には少々ガッカリしたとはいえ、でも当初の目的は達成…寧ろ超えているわけで

筋力[B] 耐久[C] 敏捷[C] 魔力[B] 幸運[A] から
筋力[A+] 耐久[A+] 敏捷[A] 魔力[A] 幸運[Ex]
とチートに磨きのかかった英雄王は、少しだけ満足そうで、まあいいんだけど。

青子氏…改め青子さんに「例え改竄ができるようになっても、幸運:Exはまずムリ」と太鼓判を押されてしまいました。本当にありがとうございました。

全てのステータスが、優秀が故にトントン拍子でレベルアップした英雄王と違い、私は雑種で幸も薄いので、特に幸運に関しては至難の業らしく…寧ろ「捨てステにしたら?」というレベルらしい。



「そう仏頂面をするな」
「仏頂面なんてしてません」
「この我がいる限りお前が戦う機会などないわ」
「…」



そういえば、今更だけど戦闘方針を決めていなかったな…個人的にはどちらがといえば、敵の相性で臨機応変に対応するつもりだったので、誰がメインに戦うとか、そもそも考えていなかった。でも、若しかして今の発言は…私を気遣ってくれてるのかな。あの嫌味金ぴか王が気を遣ってくれるなんて殊勝な事してくれてるんだから私もいつまでも拗ねているわけにはいかないようだ。



「…ありがとうございます。流石王様は頼りになりますね」
「そのような言葉、当然に過ぎて賞賛の言葉には値せんぞ」
「…率直な感想ですよ…」
「お!盗み聞きの間久部じゃないか」



アリーナ出口近くに向けて二人で少し歩いた所でだ。既に聞き飽きた感もある、ギルガメッシュとはまた違う――鼻に付く声。小物臭すら感じさせるワカメ声。間桐慎二と…初めて見る間桐のサーヴァントが入口の前に現れた。ギルガメッシュと共に振り向く。



「お前…遠坂との会話盗み聞きしてたんだって?ライダーが教えてくれたよ、さっき感じた気配と同じだってね」



『ライダー』か…。まあ、可哀想だから聞かなかったことにしよう。しかし、『彼女』の呼称に違わず、女性のサーヴァント。海の人であるのは違いないが、その豪快な着こなしは
海軍というよりは海賊然としている。赤毛の傷面(スカーフェイス)の美女――



「…胸でかっ!」



私は思わず口走っていた。
だって…自分基準で考えると桁違いのボインだ。ヤバイな、何故か無条件に負ける気がしてきた。きっとこの女性サーヴァントもギルガメッシュと同様カリスマ:『A+』とか持ってるんだろう。違いない。



「は…話を胸に逸らすなよ!」
「いや、率直な感想…」
「クッハハハハ!!面白いお嬢ちゃんだねぇ。男じゃあるまいし真っ先に胸に目が行くなんてコンプレックスでも持ってんのかい?」
「いえ!?誰でもそんな大渓谷見せられたら意識せざるをえないってゆーか」
「なぁに、お嬢ちゃんだってあと5年か10年もすりゃ…」
「そ、そんなにはムリ…」
「育ててもらえばいーんだよ、男に」



気付くと私は後ろを振り返っていた。



「ふむ、お前が望むならやってやらんことも…」
「お断りします」



危ないところだった。前々断っておかないと後でどういう不幸(アクシデント)が待っているか解ったものではない。私とは思考回路が異次元に違う王様のことだ。自意識過剰とか言っていられないのだ。先手を打っておかなければ。毎度のことだが、王様が怒り気味なのは見なかったことにしよう。



「だぁから!お前まで乗るなってば!」
「カタいこと言うなよシンジぃ」
「お前また酒呑んでるだろ?!」



僕は釣られないからな!と私の方を指差して高らかに宣言する間桐。どうやらお子様には刺激の強い話だったらしい。



「とにかく!この話はやめだ!!間久部、今度はお前のサーヴァントの正体を暴く番だからな!」
「今度はって…私まだ間桐のサーヴァント暴いてないけど」



イングランド側の誰かだとは思うけど。何しろ、女性というのがわからない。



「はぁ!?アレだけ聞いておいて判らないって!?」
「うん」
「……ふっ…ふ…はははははは!!やっぱりそうか!間久部は僕と違って凡人だもんな!」
「おー」
「あんまり女を甘く見るもんじゃないよ、シンジ」



ワカメを踊らせ…泳がせておこうと思ったものの流石は英霊。否、間桐と同基準で『流石』なんて言ったら失礼か。ライダーは、私の目を通して中身を見透かすように、食えない笑顔をしてこちらを見ている。



「このお嬢ちゃんは賢い目をしてる。同時に…冬の北海みたいに冷たい目だ。今から女を見る目を養っとかないといずれ痛い目みるよ」
「べ、別にそんなもの…!」
「しかし…“そういう目”をした奴は私も何人も見てきたが…流石にお嬢ちゃんのような年若い奴は初めてだ。可哀想に。幸福な子供時代を送ってこれなかったみたいだねぇ」



驚いた。まあ大体合ってる
まあ、確かにこの英霊にでなくとも年齢相応の表情(カオ)をしていないと常日頃言われてはいる。



「私なんて幸せな方ですよ、今の時代」
「…うちのマスターも、あんたとこのマスターもまだ子供だってのに嫌な時代だねぇ、そうは思わないかい?黄金の英霊さんよ」



そろそろ興味をなくしてよもやマイルームに帰ろうかという程気だるそうに此方すら見ていなかったギルガメッシュへの突然の振り。さも下らないといった表情でライダーを一瞥。そして思わぬ一言。



「貴様のマスターはどうか知らんが──此奴は童ではない。ただの1人の戦士(つわもの)よ」
「…!」



胃がざわめく。
私はいつもいつも失礼なことばかり言っているというのに…中々、大体にしてこの男は思ったことをストレートに口にする。否、確かに罵られることもあるのだが…時折こうして小恥ずかしいことを言ってくれるので反応に困る。

だが…よくよく考えてみれば
私は一度ギルガメッシュと戦い、その力を認められたわけであり、それを謙遜(ひてい)するのは、ギルガメッシュへの侮辱と同義。故に私はまた何も言えずに真っ赤で固まった。



「へぇ……お嬢ちゃん。あんたこの気位の高そうな英霊によくもここまで認められたもんだ」
「あははは…ありがたいことですね…」
「そんなことどーでもいいだろ!もうさ、御託はいいからこいつら蜂の巣にしてやってよ!!」



今すぐに!とライダーを煽る間桐。
女ライダーの表情は変わらず笑みを湛えたまま。最早不快感を露に──ギルガメッシュの敵二人を瞥見するその瞳は…私が昨日、この男と出会った時の眼によく似て温度が無い。でも何故だろう。私は昨日と違い、酷い焦燥を覚えている。



「そうさ、シンジ──こいつらはとても手強い。今ここでこそ、倒しておかなければならない…!」



不味い、向こうはヤる気マンマンだ。
そして恐らくこちらも──



「──我に刃を向ける不調法者には死を以って遇するぞ」



…コワッ
どうやら戦う意志のないのは私だけのようだ



「フン!お前も…お前にしては強そうなサーヴァントを引き当ててるじゃないか!だけど僕たちには敵わない!何たって彼女は──“太陽を落とした女”なんだ!」
「ふーん…スペイン陥落(おと)しちゃったか」



私は、無意識の内に、ギルガメッシュの胸…というよりは腰辺りに抱きついていた。そして見せびらかすようにそのまま二人を振り向いて哂う。いやらしい顔をして。



「でも私のサーヴァントはもっと凄いの。何人たりとも彼には敵わない──至高にして原初の王様」



敢えて情報を明かすような言葉を口にする。私の頭の中は、嫌になるほど打算で埋め尽くされていた。まずは、間桐に対抗して、幼稚なサーヴァント自慢をする。普段こういう事をまず口にしないであろう私がわざわざオーバーリアクションも交えてギルガメッシュを立てることはどうしても必要だと感じた。私を一人前扱いしてくれたというのに、その私が、この真実に素晴らしい英霊を自慢しないワケにはいかない。

しかし…
私が英雄王に抱きつくワケには、友人に父親自慢をする娘──のような感覚のほかに
寧ろ、『私がコイツを抑えておくから今のうちに逃げてー!』なんて気持ちがあることを、きっと誰も理解しないだろう。理解できるワケがないな、無駄な行動だ…。間に私がいれば一応人間の盾だし、何より英雄王の動きを低下できる──…よくよく無駄の極みだな。仕方ない、ざっくばらんに話してみようか。私が抱きついたままだったギルガメッシュから腕を放し、彼らに向き直ろうとしたところだった。

篭手越しの無遠慮な手が顎を掴んだかと思えば力強く上を向かされた。目に入ったのは“そんな顔は敵に向けてください”と言いたいほど嗜虐心に満ちた不敵な笑みだった。



「──マキナよ、言ったであろう。“そのような言葉”は我を賞賛するに値せぬとな。お前はその程度の賛辞しか口にできぬのか?もっと甘美な言葉を寄越すがいい」
「いや…その…」



顔近いんですけど!!
ウルクの王、顔近い!そして顔を背けることも敵わず英雄王の双眸を見つめさせられることになる。赤い瞳の瞳孔は、実は人間のものと違い、獣か蛇かのように長細い。それこそ文字通り蛇に睨まれたよう、萎縮してしまった。金属越しの親指に唇を優しく撫でられれば鳥肌が立った。

──が、こんなことをしている場合ではない。そう思ったのはワカメも一緒だった。



「こっ…公衆の面前で何してんだよ!?サーヴァントとイチャついてんじゃない!」
「別に…イチャついてはいませんけど、何となくごもっとも」



急いでギルガメッシュから離れ、今度こそ二人に向き直る。



「さて、気を取り直して間桐慎二。ここは撤退を奨める」
「はァ?!何言ってるんだよ!」
「君は彼と私に絶対勝てない。君はこの一回戦を勝ち残れない。だから死に急ぐな。あと四日間、よく考えて有意義に過ごせ」
「何を…!間久部のクセして舐めたこといいやがって…!!調子に乗るなよ!」



さて…無駄かもしれないが、一応念を押しておこう。



「君はまだこの戦争をゲームと勘違いしているようだが…この戦いには生死が懸ってる。負けた者は例外なくこのムーンセル・オートマトンから削除(デリート)される。我々魔術師(ウィザード)は魂を霊子化しムーンセルに転送(アップデート)しているが、ムーンセルからの転送(ダウンロード)はただ一つの方法を除いて不可能。その一つの方法とは聖杯戦争に勝ち残ること。お前はそれを理解していない」
「偉そうに…それ位知ってるよ!そういう『設定』だってこと位…!!」
「……」
「それに…勝ち抜けばいいことじゃないか!たった七組にさ!僕はアジアのゲームチャンプだぞ!?負けるはずがないじゃないか!判ってないのは間久部の方だろ。ハッ!こんなゲームを現実と混同してさぁ!それこそゲーム脳ってヤツ?現実見た方がいいんじゃないの!」



本当は全部判っていて、現実逃避しているのであればまだ救いがあるのかもしれないのだが…。まあ、これ以上はよそう。どうせ、どうにでもなることだ。



「結構…切実な忠告だったんだけどな。」
「そんなこと言って逃げ延びようったって無駄だからな!ライダー!ボーッとしてないで早くやれよ!!」
「うん、もうおしまいかい?もったいないねぇ、中々聞き応えがあったのに」



女ライダーの、どこからともなく取り出したフリントロック式の二挺拳銃。宝具の一部だろうか。だが…第一印象、艦砲射撃とは程遠い。恐らくそれは、ギルガメッシュのエア同様、切り札的な存在だろうか?



「…王様、」
「大人しく下がっていろよ、マキナ」
「…はい」



仕方ない。後は野となれ山となれ…とは行かないところが面倒だが…しばらく様子をみる他なさそうだ。私の“予定”が狂う事にもなるが、最悪ここで間桐が消えてしまってももう仕方が無い。不可抗力だ。

互い、前に一歩二歩と出て初めて対峙する二人のサーヴァント。『ライダー』と『アーチャー』



「アンタからはとびきり上質で山のような財宝の匂いがするねぇ」
「この世の財は総じて例外なく我の物だからな」
「ハハッ!この世の財宝すべてと来たか!いいねぇ…この私でも使いきれるかどうかわからないが──…責めて奪い切ってやるよ!」
「賊徒風情が身の程を弁えよ、罪過には刎頚こそが相応しかろう」



戦闘開始――
その意思が明確となった現時点を以ってセラフはそのルール違反を認識。アリーナ周辺がアラートを示す電子音と共に赤く明滅を始めた。



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 セラフより警告>>アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています。
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