from Mayhem :04



「アリーナはどうだった?なかなか面白いとこだったと思わないかい?」



コードキャストで直接教会に飛んでもよかったのだが、道すがら間桐慎二にでも出くわせば、何かその話に聞き耳を立てたり若しくはカマをかけてみたりだとか…



「ファンタジックなものかと思ってたけど、わりとプリミティブなアプローチだったね。神話再現的な静かの海ってところかな。さっき、アームストロングをサーヴァントにしてるマスターも見かけたしねぇ…いや、洒落てるよ。海ってのは本当にいいテーマだ。このゲーム、結構よくできてるじゃないか」



まさか本当に出くわしてしまうとは。
本当に私の幸運は『E-』なのか?
もしかして、ギルガメッシュの、私の薄幸補正をものともしない強運が働いているのか?いや…若しかしたら間桐慎二が私をも上回る運の無さなのかもしれない。しかし、間桐慎二。悪いコだ。どこでそんな文句を覚えてきたのだお前は。

間桐慎二が一生懸命話しかけているのは私も知っている人物。現実世界での容姿と少し違うが、大体は同じ姿。ただの知り合いというには、もう少し縁があり…友人というには少し渇きすぎている。利害関係ですらないが、なんとなくお互いにシンパシーを感じている部分がある。恐らく置かれている立場が少しだけ似ているからかもしれない。

彼女、遠坂凛とは。



『何を隠れている』


非実体化したままのギルガメッシュの声に一抹の不安。



「え?面白い話が聞けるかもしれないから盗み聞きですよ」
『…性に合わんな』
「ごめんなさい、不出来なマスターの為と思ってもう少し我慢してください」



それはそうだろう、王様が…ギルガメッシュがこんなコソコソとした真似なんて、私が考えても似合わないと思う。



『敵の情報集めか?どんな相手であろうとこの我が不覚を取る筈がなかろう』



わかる!私も一度はそう思った!けどお願いもう少し…



「あら、その分じゃいいサーヴァントを引いたみたいね。アジア圏有数のクラッカー、間桐慎二くん?」
「僕と彼女の"艦隊"はまさに無敵。いくら君が逆立ちしても、今回ばかりは届かない存在さ」



艦隊が無敵とか無敵艦隊(アルマダ)を想起させずにはいられないんだけど…でも彼女って。女の艦長とかいたかな



「へぇ、サーヴァントの情報を敵にしゃべっちゃうなんて 間桐くんったら、随分余裕なんだ。」
「う……そ、そうさ!あんまり一方的だとつまらないから『ハンデ』ってやつさ!で、でも大したハンデじゃないか、な?ほら、僕のブラフかもしれないし、参考にする価値はないかもだよ」



まあ、ブラフでもなくてもどっちでもいいというか。今の段階じゃどうせ真偽の確かめようもないし。まあ、でもなんだ。間桐慎二…そう焦らなくても君は一回戦で私に消されるんだから遠坂にバレたって大した問題にはならないから安心するといいぞ。果てしなく無駄な憂患だ。



「そうね。さっきの迂闊な発言からじゃ、真名は想像の粋を出ない。ま、それでも艦隊を操るクラスなら、候補は絞られてくるようなものだし、どうせ攻撃も艦なんでしょ?艦砲射撃だとか、或いは…突撃でもしてくるのかしらね。どのみち、物理攻撃な気がするけど。」
「う………」



クラスが絞られてくる…としたら『ライダー』と即答したいところなのだが『アーチャー』である自分が艦砲射撃も戦艦も繰り出せるのが悩ましいところだ。しかし、この世界(聖杯戦争)については私より格段に詳しい遠坂の意見が聞けるとは在り難い。せめてもう少し、耳を傾けていたいところだ。



「ま、今の私に出来るのは、物理防御を大量に用意しておくぐらいかしら。」



…なんだろう。
まるで誰か第三者に向かって話しているような口振りだな、遠坂。もしかしなくても私に気付いているかな?サーヴァントはサーヴァントの気配を感じ取ることができるから、恐らく死角にいる私やギルガメッシュの気配を遠坂のサーヴァントが察知して遠坂に囁いていたとしても驚きはない。それは間桐のサーヴァントも同様なのだが…。もしも、私じゃないにしても誰かに聞かれていると認識した上でのこの演技だとしたら相当な食わせワカメだな。



「あ、一つ忠告しておくけど。私の分析が正しいなら『無敵艦隊』はどうなのかしらね。それは寧ろ彼女の“敵側”のあだ名だし?折角のサーヴァントも気を悪くしちゃうわよ」



カマ掛けも上手い遠坂。感心するものの、彼女の優秀さをこうして見れば見るほどイコール私にとっても脅威であるということを認識せざるを得ない。…恐らく、もう遠坂が私を認識していると仮定しての話だが…遠坂の、私に対する遠まわしの牽制でもあるのだろう。



「ふ、ふん……まあいいさ。知識だけあっても実践できなきゃ意味ないし。君と僕が必ず戦うとも限らないしね」



しかも真面目に図星だったとは…なんだか阿呆らしくなってきたそして背後から欠伸が聞こえた気がするけど気のせいだろうか。哀れなワカメ君が「ちくしょうちくしょう!」とは言わないものの、走り去っていく音がした。さあて、見なかったことにして、気を取り直して教会へ行こうかな…

とは行かなかった。



「『最後(メギド)の丘の裁定者』が盗み聞きなんてマネしていいのかしら」



角を曲がり、気だるそうに壁に寄りかかっていた私の前に現れる美少女・遠坂。その名前に違わず、凛として立ちはだかる。



「…その恥ずかしい名前で呼ぶのはやめてください…遠坂」
「『無垢なる暴力(フローレス・バイオレンス)』『破滅の救世主』『人の形を借りた災厄』とも名高い貴方がねえ…」
「そこまでにしておけよ痴女坂…」
「!!」



遠坂が調子に乗って私の羞恥心を煽るので、こちらも遠坂の古傷…否新傷を抉る。私に仕返しされるとは思っていなかったのだろうか?青磁の頬がさっと食紅を吹き掛けたように赤らむ。



「……誰が痴女よ…誰が」
「本選初日に私をNPCと勘違いして私の身体中を触りまくったかと思いきや服を…」
「それはー!デフォルトアバターでボーッと屋上に突っ立ってたアンタにだって非が…」
「ほぉ?モブ顔ならホイホイ脱がしちゃう女(レディ)なのか、キミは」
「私は単にNPC調査の一環としてどこまで精密に再現されているか知りたく…」
「知ってどうするのかなあ?何するつもりなのかなー?」
「…なーにをカマトトぶってんのよ、アンタだって私と同じ人種でしょーが!」



同じ人種…同じ科学者気質と言いたいのだろう。だが、残念だったな遠坂。私を痴女の仲間入りさせたいのだろうが無駄だ。言い返してやろうと鼻息荒くした私の頭が急に何者か、強い力で捕まれる。



『雛鳥共がピーチクパーチクと囀りおって…我をいつまで待たせる気だ?』
「ご…ごめ…面目次第も御座いません…」



ギルガメッシュの姿は相変わらず不可視だが、頭を掴まれて体勢を崩した自分の様子…そしてその表情や言葉からサーヴァントとの関係性を察したらしい遠坂は、フッと私のことを鼻で笑った。



「使役する筈のサーヴァントに頭が上がらないようじゃ…先が思いやられるわね」
「……遠坂だってサーヴァントに痴女言われてたじゃん」



それこそ、私の服を脱がしかけた事件で。「誰が痴女か!」と振り向いて憤慨していたあの様子を見ると遠坂だって支配してるというよりは、 サーヴァントに遊ばれている感じだ。



「ま、別にサーヴァント相手じゃなくても私はいつだって小心者ですから」
「…それ、偉そうに言うことじゃないからね」



フフンと偉そうに胸を張って言ったら、案の定突っ込まれた。



「じゃあね、遠坂。私今急いでるからまた今度」
「やれやれ…私だって本来はアンタと無駄話してる暇はないんだってーの」



阿呆らしい、とばかりに溜息を吐いて私をハイハイと手も振らずに見送る遠坂。ふーむ、相変わらずイイ女だ。表面上は冷たいようでも、中身はお母さんみたいだ。



「──知己か」
「そこまで仲良いわけじゃなくて、精々知人程度です」
「ふむ…? 女子とはいつの時代も不可解な存在よな」
「そーでもないですよ」



なんか意外な言葉だ。
世界を総べる王のそんな身近に不可解なものがあるとは。まあ、あまり気分を害していないようでよかった。今度こそ早く教会へ行こう。




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