Circular Cline Collapse...(sleeping awake) :07


生徒会へと戻ったマキナとアーチャーは、再度現状確認と方針について話し合う。持久戦となるため、万全の対策が必要となる。アーチャーは迷宮の精神汚染に対する悪影響を殆ど受けないようなので、マキナへの影響をどう防ぐかが課題だった。

第一次作戦会議を早々に終え、凛とラニが迷宮の解析。そうして桜が単独で精神汚染を防ぐための策を練る。通常時の状態とマキナが影響を受けた後の状態を比較し、防疫法を探るのだ。


「―――ゴメン、ちょっと散歩してきてもいい?」


一通りのデータを取り終えるとマキナは解放される。そうして女子たちが忙しくしている中、暢気とも思える問いを、申し訳なさそうに桜にするのだった。

データ解析に集中していた桜は、顔を上げてマキナと目を合わせると、その次の瞬間には、屈託のない満面の笑みを向けた。不満だとか、咎めるだとか、そういった感情は一切なく彼女は心の底から純粋にマキナへと笑いかけていた。


「ええ、構いませんよ!私の作業はもう少し掛かりそうですから……センパイは少し息抜き(リフレッシュ)してください。」


桜の笑顔は、どこか見ていて切ない気持ちになる。一層、身の縮む思いだが、仕方がない。
 ありがとう、と桜の肩に手を遣ると、マキナは歩いて生徒会室を後にした。






マキナは人知れず窮地に陥っていた。

酷い頭痛が続いている。それに比例するように眩暈も。しかも時間が経過するにつれ次第に強くなっており、今や頭蓋を金槌で力任せに叩かれているかのような痛みとなっていた。


「…………」


マキナがこれまでに経験したことのないレベルの頭痛だ。一人静かなところでソースコードを修復しようと思ったのだが…これでは思考が纏まらず集中できそうにない。自分の為に忙しい桜達に、これ以上の迷惑はかけられないと思ったのだが…最早頼る他なさそうだ。

マキナは、前のめりに倒れるのを堪え、背中を壁へと打ち付けた。そうしてそのままずるずるとしゃがみ込む。

全身の筋肉にも影響が及んでいるのか、視点が定まらない。身体の力も入らず、異常に重たい。

 宝具が使えていれば、こんな苦労はしないのに―――…


なんの解決にもならない無い物ねだりまでしてしまう。まともな思考どころか、生きることで精一杯な状態にまで悪化している。

マキナがただじっと痛みに耐えていると、その目前に金色が現れたのだった。『金色』―――視界はぼやけているが、一人しかいない。


「―――我が手を下すまでもなく、死にかけているな」


声を出すのは最早億劫だった。マキナはただこくりと頷いた。そして頷いたまま項垂れる。

この男は、マキナにとっての“死神”だという。逃げも隠れもできない状況で、そんな相手しか傍に居ない。彼曰く醜い存在であるマキナが、虫の息なのだ。止めを刺されるかもしれない―――…だが、自分は無力だ。助けを呼ばなければ。アーチャーに、令呪を使って…

なんとか左手を持ち上げ、前に出す。

だが、マキナが何をしようとしているか筒抜けだったに違いない。その手を取られ、重心を前へと移されることによって前へと倒される。力なくギルガメッシュの肩口へと擡げたマキナは、そのまま立ち上がったギルガメッシュによって抱え上げられた。


「心配するな、命までは取らん」


そう囁いてから、歩き出す。大人しくさせる効果はあり、マキナは力を抜き、痛みに向き合うことに専念する。

運ばれた先は、ギルガメッシュが根城にしているらしい教室だった。その玉座へとマキナを抱えたまま腰を下ろし、自動的にその膝に座ることとなる。

熱でぼんやりとしているマキナの額に手を宛てるギルガメッシュ。医療スキルはない筈だが、『言全知なるや全能の星(全てを見透かす目)』がある。魔術師(ウィザード)やAIのようにソースを覗かずともマキナの現状を把握することは容易いのだった。


「ほう……情報媒介汚染(ミーム)とやらか。まんまとBBの…否、貴様自身の術中に嵌るとは滑稽の極みだな?」


額から手を外すと、支えを失ったマキナの頭がぐらぐらと動く。何とか倒れないようにしながらも、マキナはまた頷いた。それが今マキナにできる精一杯の反応だった。


「…気の利いた返しの一つもできん程に憔悴しているとはな。このまま息絶えるのを待つのも詰まらん。どれ、ひとつ手を貸してやろう」


こんな状態のマキナを罵っても甲斐がないと。ギルガメッシュの背後に小さく開く黄金の波面(ゲート)。そこから、ギルガメッシュの左手の上に一つの小瓶が零れ落ちる。

中に入っているのは、青白く発光する流動体だった。見た目には、薬というよりは毒のような様相。故に飲むのには抵抗があったが…


「くれてやる、飲むがいい。それで痛みは消えるだろう」


神代の秘薬だ。現代の感覚で測ることはできないだろう。マキナの答えを聞く前に、ギルガメッシュは蓋を開け、顎を掴んで上向かせていた。そうして、その一滴を喉奥へと垂らす。甘苦くも、柑橘のように清涼な風味が広がる。その、ほんの僅かな妙薬は確実に身体に浸透していくようだった。


「―――ただし、代償として貴様は全ての感覚を失うだろうがな」


その言葉を聞いたマキナは慌てて吐き出す為、背を曲げようとするのだが、それを予見していたギルガメッシュは依然、マキナの顎を掴んだ侭。マキナは成すすべもなく、ただギルガメッシュの腕を引き剥がそうと掴むだけだ。

効き目は絶大で、言われた通りだった。痛みは消えたが、マキナは次第に何も感じなくなっていった。
腕に力が入らなくなり、だらんと撓垂れる。

顎を離されると、そのまま前方へと身体が倒れるが、ギルガメッシュの肩口に頬が当たった『触覚』がない。


「―――今の表情(カオ)は傑作だったぞ。」


そう囁かれた後、何の音も聴こえなくなった。『聴覚』が奪われた。口の中に広がっていた味を感じない。『味覚』が消えた。『嗅覚』は、先ほどから既に機能していない。

最後には、『視覚』が消えうせた。

それだけなら発狂していただろう。だが、すぐに『思考』も消えてしまう。間久部マキナの霊子体は活動を停止した。


[next]








「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -