from Mayhem :03






翌朝6時。
六分の一の自室から出ると、金ピカのベッドの天蓋は閉じられていた。まだ寝ているようだ。
本当なら今からアリーナへ行って一人スキルポイント集めに勤しみたいのだが…朝食を作らないまま消えたら怒るかもしれない。そう思い、モルタデッラハムとチーズ、レタス、トマト、たまご、スモークサーモンなどの具のサンドイッチに、自分の好きなフルーツサンドを添えてテーブルの上においておく。空のコップの下にメモを挟む。
『ちょっとお散歩してきます』と。

『ちょっと敵性プログラム虐殺してきます』とは書けない。恥ずかしい。
飲み物は冷蔵庫の中のものを好きに飲んでもらえばいいだろう。


さっさと仕度をして部屋を出る。一直線に向かうはアリーナ。朝の運動だ。哀れな敵性プログラムよ、我にスキルポイントを寄越すが良いぞ。

いつものように、レーダーで誰もいないことを確認したら虐殺タイムの始まりだ。かわいそう…

正直狩りすぎてもう『いちげきひっさつ!』である。戦車砲とかぶっ放してるからってのもあるが。責めてあと2レベル分は稼いでおかなければ。ルーチンワークをこなしながら、どうでもいいことを考える。

テーブルの上にはワインのボトルが二本空いていた。そして飲みかけのウイスキーのボトル。
…飲みすぎだろ。もしかして飲みすぎて起きてこないとか?いや…それはないな。高貴なる王様だ。酒に呑まれるような醜態は晒さないだろう。

まあ、模様替えの時に酒蔵作れって言われた時点で呑むだろうことはわかっていたが。

そういえば、言峰には報告した方がいいのだろうか。もしも会ったら言うことにしよう。
本当なら向こうから話してくれるまで待ちたいのだが黙っていて勝手に何かされたりしたら困る。

朝起きたらすっかり体調が元通りだったのは助かった。昨日はあの後風呂にも入り、そして寝た。本当はあの豪華な浴槽に入りたかったのだが何故か中々金ピカが出てこなかったので、
しょうがないので自室の部分に臨時浴槽を作って入った。

やはり、私の部屋で寝るのが一番良い。私の部屋は割と殺風景なのだが、清潔感のある内装にしてある。朝の目覚めが気持ちいいように。何しろ天気が良ければ起きた後に朝食を食べるのも楽しい気分になる。朝ご飯を食べずに着てしまったので、これが終わったら帰って朝ご飯を食べることにしよう。長居して間桐慎二が現れてしまうのも困る。











きっかりレベルを2上げてからリターンクリスタルでマイルームに戻る。すると…金ピカが優雅にサンドイッチを食べているところだった。



「我の朝餉を作り置きとは良い身分だな?マキナ」
「…別にいいじゃないですか、飼い主の食事を用意して
 尚且つ自分で散歩に行くペットなんて殊勝すぎて涙出ちゃいますよ」



それにしても、何やかやと言いつつも食べてくれる金ピカ。流石王様、心が広い。そういえば、もうあの金ピカ鎧だが、寝る時はどうしてるんだろうな…まあいいや、今度覗いてみよう。そして私も朝食にしよう。

今からサンドイッチを作るのが面倒なので具を食パンの上に好きなだけ載せて食べてしまう。



「そんなことより王様、今日はお願いがあります」
「何だ、申してみよ」
「そうですね…教会とアリーナについてきて欲しいです」



言峰に報告に行ったり、図書館で調べ物をするのは一人でもできるからいいだろう。



「…教会?」
「えー…ちょっと魂の改竄とか…したいなーみたいな…」
「どちらのステータスを改竄するのだ?」



あ、改竄って何か知ってるんだ。
というかその笑み嫌だなあ…



「…今日はギルガメッシュサマのステータス…です…」
「フン…お前が未熟な所為で我のステータスは酷いものよな?」
「ええ、ハイ、そーです、私のせーです、スミマセン」



やっぱり気にしてたのか。
まあ、話が早くて助かるといえば助かるけど。嫌だなあ…変な脅しのネタにされないといいけど。ああ、いやだいやだ。話題を変えよう。



「ま、まー教会はそんなカンジで、もう一つのアリーナですが」
「話を逸らしたか」
「何の事ですか?えーと、アリーナは…私がまた宝具を大規模に展開するので、もしものことがあって私が倒れたりしたら連れて帰ってほ…」



言っていて思考停止。
金ピカ王を固まった表情で、口を開けたまま凝視してしまう。ある一つの疑問。それを口にしてしまうのはとても怖い気がしたが──だが、人として等閑にもできなかった。そう、人には死地とわかっていても飛び込んで行かねばならぬ時がある。



「あ…あの、ギルガメッシュ様…?」
「何だ」
「も、も、もしか…して…」
「……」
「昨日…わっ 私を連れて帰ってくれたのって…?」
「他でもない、我だ」
「……」



…マジですか。
顔がメチャクチャ熱い。また顔が赤い気がするので顔を上げられない。昨日目覚めた時点では、そんなこと在り得ないと思っていた。きっと倒れた私を放置して帰るような男だろうと。だが、ギルガメッシュと少しでも過ごした今は既にそういう可能性もあると考えられるのだった。

恐ろしい。
まだ、脚を掴んで引きずって帰ったとかなら救いがあるのだが。ただ、全身打撲になっていない限りそれはないのかな…



「雑種の分際でこの我に抱かかえられ帰った気分はどうだ?」



また、フフンと偉そうに、ドヤ顔だ。
そんな体験ができるなど極めて貴重なことだといわんばかりに。そうか…抱きかかえて帰ったか…全然覚えてないけど。だけどそういえば、意識を失う直前に感じた安堵感…体重が軽くなった気がしたのはこの男に抱かかえられた感覚…だったのか…?

もうやだ、帰りたい。
考えたくも無い。恥ずかしすぎて。絵面を想像したら死にたくなった。ただ、ただ!この事実が明確になってしまった限り私には言わなければならないことがある。



「あ、あの…ギルガメッシュ」
「何だ」
「……………あ、…ありがとう…」



言ってしまった。
この一言がこんなにも言い辛いと感じたのは生まれて初めてだ…一瞬、少しだけ意外そうな表情を見せた英雄王だったが…何故また満足げに笑って目を閉じたし。



「良い響きだ。もう一度言うがよい」



…え!?



「ありがとう…」
「苦しゅうない」
「……ありがとう」
「もう一度だ」



……



「しつこい!!からかってるでしょ!?」



どーゆー羞恥プレイだよ!こんな仕打ち初めてだよ!
高貴なる王の考えることがさっぱりわかんねーよ!
もうやだ、誰か助けて…
そして英雄王、何その顔。



「何、お前らしからぬその言葉と響きが妙に心地良かったのだ。何度でも言うがいいぞ」
「……」



ワカラン。
ワケガワカラナイヨ。
耐え切れなくなった私はまた自分の部屋(せかい)に逃げた。





 






「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -