from Mayhem :03


「マキナよ」
「…はい?」
「湯浴みをする。我の背中を流すがいい」
「……」



一日は長い。
夕食の片づけはデータ書き換えでやってしまうので手間は掛からない。手間をかけるのは食事を作るとか、風呂に入るとか…精神衛生を保つ為、ある程度手間のかかることも敢えてやる。精神に負担になりそうな時は省くが、かといって省き過ぎると楽かもしれないが余りに現実とかけ離れた生活を送ることになり、知らず知らずに精神に異常を来たしかねない。と、いうことでそろそろお風呂に入ろうと思っていたのだが。考えがバッティングしたようだ。



「自分で体が満足に洗えない程年老いてるわけじゃあるまいし、背中に届かない程手が短いわけじゃあるまいし、自分で洗って下さい」



鼻でフッと嘲笑する。
ギルガメッシュ様々がまた不機嫌そうだ。わかってるよ、王様だから湯女が洗ってくれたりしたんだろ?でも私湯女じゃねーから。キミの小姓とかでもないからね。



「ってゆーか私ペットなんですよね?ペットが飼い主の体洗うんじゃなくてフツーは飼い主がペットの体を洗うも…」



気付くと私は失言をしていた。
ほお…と何故か嗜虐心を含んだ笑顔の金ピカ。
そこはスルーしとけよ…しとこうよ…



「成る程、お前の言う通りだ。主(あるじ)が飼い犬の世話をするものよな?」
「いえ、私が間違ってました。」
「この我が手ずから、貴様の身体を隅から隅まで洗い尽くしてやろう」
「不要です、お断りします、いらぬお世話でございます」



もうやだ、こんな生活耐えられない。
この人いやらしくないんだよ、邪念がないの、本気(マジ)なんだよ。そもそも時代が違うからジェネレーションギャップがハンパじゃないし、何より王様と平民だから感覚が全然噛み合わない。よく身分違いの恋とか、主人とメイドの恋とかあるけど…相当根性ないと成就しないんじゃないだろうか?愛の力でどうにかなっちゃうって感じ?まあ、どうでもいいけど…等と脱線していると腕を捉まれる。



「行くぞ」
「行きませんよ!」



ぐいぐい引っ張んないで!引っ張るんじゃねー!……そうだ。私は凄い物を忘れていた。
『令呪』だ、令呪を使ってヤメロって命令すればいいんだ!丁度掴まれている手首近くに刻まれている紋様。三度限りのサーヴァントに対する絶対命令権。しかし三つ使うとその時点で死亡なので、実際使えるのは二つ。

でも…アレ?ちょっと待てよ…
この令呪は一体“どっち”の令呪なんだ…?私に対して使える令呪なのか…ギルガメッシュに対してのものか?若しくは二人合わせて三つ?



「あの、私今日は本当に疲れてるんです。もう一人でゆっくりさせてください」
「ならん、王の決定は絶対だ」
「…といっても、ギルガメッシュは私の国の王様じゃないですから」



そう言うと、ギルガメッシュは一度立ち止まる。



「私の今の所属は日本ですから、私の王様は天皇陛下です」
「我以外の王を戴くなどいい度胸だな」
「だって私メソポタミア人じゃないし、そもそも私は流れ者だから本当の意味での王様なんていませんから…」
「非力な民には教え導く王が不可欠。お前のような未熟者には特にな」
「どーですかね…この13年間色んな国を渡り歩いて…ロクな思いしませんでしたけど」



王──というよりは権力者か。
西欧財閥内でさえ、各国…または派閥で方針が違う。対立など いたるところにあるし、散々っぱら振り回されてきた。NERO加盟国内でも当然にあれば、非加盟国など論外だ。今私が身を置く日本が今のところ一番居心地が良い。状況次第だが、できるなら此処にしばらくは落ち着きたい。この国には天皇(エンペラー)がいるが、その存在はあくまで『象徴』であり、それ以上でも以下でもない。教え導くものではないが、その生き様が尊敬できる皇帝である。この混乱の時代で、アジアに在っても日本が相変わらずの地位を維持できている理由の一つに確実に『天皇』の存在があるだろう。



「この時代には王気(オーラ)を備えた器はおらぬのだな」
「え?王気(オーラ)って読むの?何それカッコイイ」
「昧者が強大な力を手にすれば必ずや道を誤ろう。矢張り
 お前は世界の王である我が管理せねばならぬようだな」
「…私は管理なんてされたくないです」



王気を備えた器ならば、いないことはないだろう。この聖杯戦争にも参加している西欧財閥の次期当主…レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。彼こそは確実に、王として創られ王として生まれ、王として育った人間。その顔を思い出して、同時に少し嫌なこと──頭の痛いことを思い出してしまった。やっぱりどうしても休息が必要だ。これは切実な気持ちだ。私は、左腕を掴むギルガメッシュの手を、右手で丁寧に剥がす。



「…ごめんなさい、もう今日は本当にここまでにしてください」



張り詰めた気を溶かしてしまうと、本当に疲れがどっと押し寄せてきた。剥がした右手をこれまたそっと元の位置に戻す。



「ペットにあまりストレスを与えるものではありません、飼い主様」
「フン…確かにまた倒れられても困るからな。今夜はゆるりと休むがよい」
「恐悦至極にございます」





 疲れていない時なら、幾らでも背中くらい流して差し上げますから…と付け加えてから踵を反した。背中『だけ』なら別に何てことない。背中でしょ?とりあえずは自室に行こう。寝ないまでも、ゆっくりしたい。寝る前に、改めて考え直さなければならないことがいくつかあるのだ。








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猶予期間(モラトリアム)でのサーヴァント同士の戦闘は禁止されている。しかし今回のギルガメッシュとの戦いではムーンセルからの警告は全く受けなかった。聞くところによると、通常戦闘を開始したと同時に警告があるらしいのだが…。

私にサーヴァントとしての資格があることはギルガメッシュも認めた所。そして何より私にはサーヴァントとしてのマトリクスがある。配られた情報端末でも、取得したギルガメッシュのマトリクスと同様に閲覧できた。何故警告を受けなかったのか、理由は想像する他ないが。

…そういえば、敵サーヴァントのマトリクスを全く取得していない。正直何も取得しなくてもどうにでもなってしまう気がしなくもないが、それを慢心と言うので、明日から地道に情報集めはしよう。

当面自分の取得すべきマトリクスは間桐慎二のサーヴァントのもの。面倒なのであまり関りたくないと思っていたが少し積極的に近付いてみよう。


取得したマトリクスを再確認。自身のマトリクスは当然Ex。しかしギルガメッシュのマトリクスはLv.1といったところ。先ほどの会話で新しく取得できたマトリクスもあるので確認する。しかし、ステータスや宝具名、真名などは解放されているのだが肝心の説明文が見れない…。何でだろう。

と こ ろ で
筋力:A 耐久:B 敏捷:A+ 魔力:E- 幸運:E-
筋力:B 耐久:C 敏捷:C  魔力:B  幸運:A

これは結構ヤバイ。
わからない、本人がどう思っているかわからないが、私にしてみれば相当ヤバイ。私の高いステータスは全て身体改造による結果。ギルガメッシュのステータスを見るにある程度は身体改造や場合によっては私のスキルも加味されこの結果となったのだろう。オールEでないのが救いだが、私より低いステータスがあるというのがヤバイ。アーチャーに敏捷がA+まで要るかわからないけど、せめて他は全てAくらいには揃えなければ申し訳なさ過ぎる。何しろ、『最古の英雄王』だ。しかも『慢心王』。それが低ステとか目が当てられない。慢心しながら弱いとか、悲劇を通り越して喜劇だ。

この聖杯戦争では、イレギュラー要素ではあるものの『魂の改竄』と呼ばれるステータスの復元処理ができるらしい。レベルがあがる度にスキルポイントが取得でき、それを元に取得した分だけ改竄が可能との話だ。ということで、私はE-の幸運をExまで上げてやろうかとスキルポイントを貯めておいたのだが…これはまずギルガメッシュの為に使うことになりそうだ。マスターレベルはちゃんと連動しているらしい。ステータスも連動すればいいのに…私のバッドステータスが連動したら困るけど。

それにしても…金ピカ様の幸運の高さは何だろう…。幸運の星の元生まれついたってヤツだろうか。私の薄幸補正をものともせず『A』とは恐れ入る。畜生、幸せ者め。爆発しろ。もしも『悪運』というステータスがあれば、私もAになれる自信があるのだが。

ギルガメッシュのステータスといえばアーチャークラスの能力として対魔力が『C』…はアーチャーとして一般的だろうか。しかし、単独行動が『A+』とか誰得……忠義心のあるアーチャーなら兎も角、ギルガメッシュの『A+』とか完全にギル得じゃん。

因みに私の対魔力は『D』で単独行動スキルは『Ex』…他人のこと言えないな。まあ、Exの理由は他ならぬ、『永久機関(偽)(エネルギー・インテーク)』の所為だけど。

そして固有スキル。
黄金律:『A』、カリスマ:『A+』、神性:『B』フム。金ピカの名に違わず嫌味な固有スキルだ。でも黄金律って何だ?1.618――…それは黄金比か。あ、固有スキルの説明文は見れるんだ。



『黄金律…人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。一生金には困らない』


……生まれついての金持ちかよ、畜生、爆発しろ。


『カリスマ…大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。』


…何ソレこわい。


『神性…最大の神霊適性(A+)を持つのだが、ギルガメッシュ本人が神を嫌っているのでランクダウンしている』


…やっぱり嫌ってるんだ。面白いというか、ちょっと可愛い気もしてきた。それにしても嫌ってランクダウンするものなんだな…




ところで、『黄金律』と『金の卵を産む鶏』は似て非なる。というか、マスターからすると被ってるんだけどサーヴァントからすると大違い。言うまでも無く、黄金律はサーヴァント本人が金持ちで金の卵を産む鶏はマスターが金持ちになる。これは、私の現実世界での立ち位置を反映しているようだ。まあ、現実世界でも私が金儲けに重点を置けば自分自身が幾らでも金持ちになれるんだろうけど。面倒だし、そういうのは向いてないし実質現状でも資金は潤沢にある。ただ、私の運用者に比べれば少ないというだけで。

かつて、世界に魔法(マギ)が存在した頃にはサーヴァントは電脳世界でなく、現実世界に召喚されたと聞くけど現実世界でギルガメッシュを召喚したら…この黄金律はどうやって再現されるんだろう。しかし、やけに『金の卵を産む鶏』補正だけにしては敵性プログラムを倒した時に貰える金額が多いと思ったけどギルガメッシュの『黄金律』補正も働いていたんだろうな。

『カリスマ』はどういうトコロに反映されてるんだろう。確かに金ピカだけど。偉そうだけど。「キャー ギルガメッシュ様ーー!!」って気にならないしな…よくわからない。軍団をつけてあげればいいのかな。ああ、でも『エア』を握った時のギルガメッシュに一度無条件降伏してしまいたくなるような王気(オーラ)?を感じたから、そーゆーのもカリスマの内に入るのかな。






次に、ギルガメッシュとの戦闘における私の身体の疲弊を考える。何故、『重力子放射線射出装置(偽)』を使った際にあれ程疲弊してしまったのか。確かにあれ程の入出力は初めてだったが…扱うエネルギー量の大きさによって疲弊が違うのか?少ないエネルギーでも疲弊し、そしてそれは蓄積するのだろうか?だとすれば、それは克服ないし改善が可能なものだろうか?
若しくは全く別の要因…

例えば魔術回路の不備。そういえば…マスターとサーヴァントを繋ぐ魔術回路。私の場合はギルガメッシュも含めると一体どういう回路になってるんだろうか…。他の参加者達と比べれば多少は複雑だろう。

ただ、ギルガメッシュとの戦闘は、その相手であるギルガメッシュ自身の魔力提供をしているのも私なので倍に疲弊した…ということはあるかもしれない。

マトリクス集めやスキルポイント入手もそうだが間桐慎二がいない時を見計らって再度私の宝具を大規模展開する必要がありそうだ。そこでこの問題が解決可能なものかどうかが判るだろう。




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