moving mountains :07


「ありがとうランサー!すっごく面白かった!!」


聖堂を覆っていた黒い造形物はみるみる消え去っていく。これもマキナの言う改造なのかもしれない。教会の保全を担っているマキナにとって、戦闘で傷つくのは許容できないのだ。そうでなくとも、この旧く美しい建造物を無闇に壊すのはいただけない。

夕飯の支度をしなければならない、という理由で中断した試合。半ば言峰に強制される形で始まった戦いだが、何故かマキナは最初から乗り気だったし、こうして終わってみても…否、正直今まで見た中で最も嬉しそうな笑顔を浮かべているのだ。


「はあ……流石クー・フーリン…光の御子。未だ多くの信仰を集め続けるアイルランドの大英雄!こうしてじっくり手合わせして貰えるなんて、夢のようでした。やっぱり…真の大英雄は次元が違いますね……お手並みに、ただただ感服です。」


マキナは胸に手を宛て、深々と頭を下げる。そして、まるでアイドルに遭遇したミーハーなファンかのように興奮を抑えきれない様子で、オーバーなハンドジェスチャーと共にランサーにまくし立てていた。


「なんていうか、こう……惚れ惚れする槍捌きでした!!さすが、槍使いといえばクー・フーリン!世界中で三指に入る槍使いですね」


今までの態度は何だったのかという位の褒め殺し。良いと思ったものには最大限の賛辞を贈るのがマキナの信条だ。その裏には当然下心もないし、お世辞なんかでもない。マキナの本心なのだ。

―――何やら懐かしい感覚だ。こうして年少のものから純粋な尊敬の眼差しを受けるのは、当然のこと悪い気はしない。


「俺も中々楽しませてもらったぜ。―――まあ、雑だったが中々面白い戦い方するな」


まるでちぎれんばかりに尻尾を振る子犬のように自分を見上げてくるマキナを、ランサーはたまらず、その頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてやる。嬉しさに頬を上気させて喜ぶ姿は―――…やっぱり犬だ。どうみても子犬だ。今まで散々、ランサーを犬だのホットドックを食わせるだのと暴言を吐いていた張本人がこの有様だ。

―――まあ、かわいいから最早どうでもいいのだが。


「また機会があったら手合わせしてくださいね!」


鼻息荒く、それでもなんとか興奮を抑えようと努力しているらしい。ふー、と息を深く吐くと、マキナは気持ちを切り替えたようで表情が変わる。ランサーは強く思う。“また機会があったら”ではなく―――…


「なあ、ちょっと提案なんだが―――どうだ嬢ちゃん。なんなら俺の弟子にしてやろうか」


そんな何気ない提案に、マキナは暫し驚愕の表情のまま凍りついていた。が―――…ランサーの首へと飛び付き、xoxo(ハグ・アンド・キス)したのだった。
勿論頬に、だが。


「うれしい、すごくうれしい!!」


相変わらず、調子の良すぎる女だが仕方がない。三つ子の魂百までも――…恐らく、この女はこれからもずっとこうだ。


「何かあげたほうがいい?えっと…お月謝とか」
「身体で――…と言いたいところだが、よしとく。」


  別に何もいらねえよ、とランサーは再度マキナの頭を撫でる。


「―――ところでよ、嬢ちゃん。」
「はい?」
「本来はこういう白兵戦するタイプじゃないんだろ?宝具の破壊力も相当なモンだって聞いたが…何のために強さを求める?」


そう言われたマキナは、質問に意外そうな表情をしたものの、表情を曇らせることはなく、思案しながら応える。


「…何のため?………単純に強くなりたいから?もしくは―――ヒトを殺す為?」


それ以外の答えは見つからなかったらしい。何にせよ、つまらないし肩透かしな回答だった。


「これからは強く逞しく生きていかなきゃならないから…」


そう、肩を竦めて見せるとマキナはキッチンへと向かっていった。何ともしっくり来ないその答えが、実際にマキナの本音であると悟ったランサーは
痒くもないのに後頭部を掻きつ思案した後、自身も聖堂を後にしたのだった。



「随分と気の多い女だな。」


マキナの歩みは、先ほどまでの見世物を見物していた男によって阻まれる。先ほどとはうって変わってしかめっ面を浮かべるマキナ。道を塞ぐディフェンスを破ろうと、端を狙い始める。


「ランサーは英雄として尊敬してるんであって、別に男のヒトとして好きなワケじゃないし」



 私が愛してるのは王様だけです、“未来の”。と最後を強調しつつ、隙を見つけたマキナはギルガメッシュの脇を抜けて走って行った。ギルガメッシュもそれを追いかけようとは思わない。



どうも納得がいかない。そして 正直な話、驚かされた。まさかマキナの戦い方の中で“親友”の影を見るとは思ってもいなかったからだ。

10年前の聖杯戦争で、ジェスターの様々な戦闘を目にしたものの、今日のような印象は一度も受けなかった。

マキナの内面が未だ未成熟なのと同様に、その戦闘方法は荒削りだ。“聖杯戦争を勝ち抜いた”と豪語しているものの、白兵戦においてはまだ経験が浅いのは明らかだ。

華奢な身体より繰り出される強烈な一撃もそうだが、戦いに対するその姿勢。勿論同一ではないし、違和感も感じるが…時折“あの男”の姿が重なって見える。

それは恐らく―――マキナの学習姿勢に“模倣(トレース)”が含まれていることがある。ランサーとの戦いの最中もそうだったのだが、学習―そして実践の段階で、一部に相手の動きが混じることがある。模倣し、咀嚼し、自身のものへと最適化させる。それを戦闘中に繰り返す結果、戦闘開始時点と、終了時点では、そのスタイルに大きな変化が見られる。

どうもこの女は、尋常ではない記憶力を有しているようで…少なくとも自身が構成する宝具の構造や設計を全て記憶しているらしいのだ。その記憶力は、敵の動きも同様に記録しているのだろう。

これらを元に推測すると、マキナがこの冬木に現れる前。一番最後に師事したのが―――『エルキドゥ』に違いなかった。しかし、ごく僅かな期間だろう。その全てを学習したとは思えない。

ギルガメッシュが間久部マキナのサーヴァントだったというのは信じ難い話だが、何故“彼”がマキナを鍛えようとしたのか―――…ソレは矢張り、自分がマキナのサーヴァントだったからこそではないのか?不可解な疑問は増えるばかりだ。


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