moving mountains :07


その戦闘技法は、
槍術というよりは
棒術のそれに近いだろう。
否、
そんなお行儀の良い真当な型ではない。
言ってしまえば滅茶苦茶だ。

何より槍の基本である
“刺す”
“薙ぐ”
“伐る”
“穿つ”―――は皆無。

“殴る”
“叩き潰す”
“抉る”―――そんな攻撃が主体なのだ。

質量にモノを言わせた単純な殴打(マス・ブレード)。
技法においては素人に毛が生えた程度のものだ。
だが、決して独学ではないのだろうということは見て取れる。
それ故に不可解な戦闘法だ。

勘に任せて攻め守る、野獣の如き戦い方。だというのに、緻密な計算で相手の動きを読み、すぐ様次の動きへと取り入れ、反映させていく高度な学習能力。

マキナは度々無駄で変則的な動きをする。通常これは隙以外の何でもなく、特に相手が赤枝の筆頭騎士なのだから―――首を刈られ、心臓を貫かれているだろうタイミングは既に何度もあった。だが―――…その無謀な機動で渡り合う為の破格の動力(パワー)がある。

一弾指、反応の遅れたマキナの頚椎を狙ったランサーの槍先は、後ろを向いたままマキナの鎗の柄で防がれる。そうしてその無理な体勢から弾き返す力たるや、相当なものだ。

当然ランサーは真名解放などしないし、手も抜いている。だが…時には真剣に対応せざるを得ない状況にもなる。


筋力:EX、耐久:EX、敏捷:EX―――…何の間違いで、これ程不釣合いで恣意的なステータスが形成されているのか見当もつかないが…とにかくこの驚異的な動力が、実際問題で脅威となっているのは確かだ。そして、振るう獲物の形容がまた不気味なのである。

全容を煤のような塗膜で覆われた黄金色で
光を吸い込むような黒色の隙間から
木漏れ日のような鈍い光を放つ。
形態は、まるで怪物の臓物を巻き付け
押し固めたかのような異形の鎗。
槍とメイスと剣を重合したような、
奇怪な槍身(からだ)をしていた。


その槍の名は、『怪物の鑓(スピア・オン・グガランナ)』


使い手によっては、最大ダメージ数値A++を叩き出す、それこそ怪物である。勿論、今のマキナには『怪物の鑓(けもののやり)』を使いこなすことはできない。

そしてそもそも、この槍はマキナの造形物ではない。とある理由で自身の宝具として扱うことができているのだ。友人が、友人のために構築した兵器。それを借り受け、使役する。

極めて厄介な相手だ。
槍を交え始めた時点では超高性能(スーパーハイスペック)な素人。それが時間が経つにつれ巧妙になってくる。この破格で無尽蔵な動力さえなければ、勝負は2秒と掛からずついていただろうに。しかもランサーにとってはこれが初の手合わせだが、マキナにとっては“再戦”―――既に手の内を知られているのも災いしている。


「嬢ちゃん、――――師は誰だ?」


双方の獲物が交わらない間合いを保ったまま、互いに口だけを動かす。紐が千切れたブーツを、金の留具のついた黒いベルトで巻きつけてある左足の爪先が、アンカーのように動きを押し留めている。左耳の青い光子結晶が、微動だにせず光を静かに反射している。


「ともだち。」


そう応えながら、その爪先をツー、と外側に滑らせ、重心を少しずつ落とす。攻めか守りか、否どちらにも転じられる構えだ。

その殺気で満ちた黒い聖堂の脇で、見世物を眺める二人の男。うち一人はひどく剣呑な表情をして様子を見定めている。

平らな側面で振りすぎを抑え、薄い側面で抵抗無く自在に振り回す。

赤い槍が空を切る音は
甲高い悲鳴のようで、
黒金の槍は、
大男の如く唸り声を上げる。

各々、使い手に対し、
獲物と戦術がまるで正反対。
屈強な男は、只一人の相手の心を確実に穿つための洗練された槍捌き。
華奢な女は、周囲を巻き込んで相手もろとも叩き潰す粗暴な戦技。

―――まあ、なんでもいい。
とにかく今この場において最も大事なのは、互いに心底楽しんでいることだ。そう言うと、バトルジャンキー同士がコンバット・ハイにでもなっているかのようだが…確かにそれに近い状態ではあるだろう。

マキナの表情が、段々と生き生きしたものになってくる。勿論ランサー自身もなのだが、いつもと違った種の高揚があった。この荒削りな若造を指導でもしているかのようで、楽しいのだ。

特有の癖はあるものの、飲み込みの早さは打てば響くようで教え甲斐も感じる。マキナも聖杯戦争に参加するとなった以上、複雑な状況ではあるが、マキナはサーヴァントでもある。言峰の令呪による命令が例外なく適用される。故に、教会を傷つけないよう億死の工廠で覆った上で始まった手合わせなのだが
初めは気乗りしなかったものの、今や召喚されてから今までで一番、楽しんでいた。


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