Circular Cline Collapse...(sleeping awake) :06


次の区画は、“茶色い”海だった。障壁内には何も存在しない。只々その周りを覆う海が、赤錆びた―――…?


『ヤバイッス!!早く次の部屋に進むか前に戻るッスよ!』


よく目を凝らしてみれば、それは茶色い海ではなく、海中に沈んだ、錆び切った巨大な機械だった。多くの歯車や滑車、ベルトなどが一見無秩序に連なった、使用の意図のわからない機械群だ。

マキナを見ると、悠長な様子でその広大な機械を眺めている。だがここは、ジナコの言葉に従うべきだろう。アーチャーは最早マキナの脇下辺りを掴んで持ち上げると、数秒も掛からず次の扉へと手を掛けた。誰も扉を振り返っている暇はなかったが、この茶色い部屋にはうっすらと『882』という数字が記されていた。



次の区画は、まるで託児所かのような場所だった。子供を飽きさせないための玩具が、方々に散らばっている。
ここも先程の休憩室のように無害な区画なのだろうか?

ただ、前の部屋のようにジナコの警告もない。恐らく差し迫った危険はないチャンバーなのだろう。ふらふらと区画内を探索するマキナを視界の隅にいれたまま、アーチャーは小声で虚空に話しかけ始める。


「聞こえているか、生徒会。」
『ええ、勿論です。どうしましたか?』
「……このまま先へと進むべきか、一旦帰還するべきか検討したいのだが」


マキナは何か面白いものを見つけたらしい。黄色とオレンジの、二台の涙型の生物と遊び始めていた。それを眉根を傾げて凝視し始めたアーチャーに、ジナコが助言を。


『……アレはアイポッド、害のないSCPだから大丈夫ッス』


そうか、と溜息を吐くアーチャー。とりあえず次の区画に一人で行くことのないよう、監視は怠らず マキナは蚊帳の外で作戦会議を進める。


『撤退するにはまだ早すぎるんじゃないの?もう少し進んでデータを集めたらどう?二人とも魔力を消費したわけでもないし、怪我をしたわけでもないんだから。その内あのバカも遊び飽きるでしょ。』


そのリンの見解に、ジナコは難しい顔をしていた。


『っていうかさあ……アイツ、ミーム汚染されてるんじゃないの?幾らアイツだからって流石に様子がおかしすぎるよ。』


見るに見かねて…なのか。シンジも堂々とチャットに割り込んでくる。そしてジナコもその意見に頷いた。

この迷宮に於いては、二人の意見は貴重だ。余計なツッコミはせず、生徒会とアーチャーは二人の会話を見守る。


『撤退……ボクはするべきだと思うッス。汚染の兆候があるなら早く桜さんに調べて貰った方がいいんじゃないスか?ここまではせいぜい“セーフ”か“ユークリッド”しか出てないけど』
『“ケテル”クラスが来たらヤバすぎるよね。それにシャイガイもユークリッドだけどヤバすぎるし…』
『アベルとか来たら……うーん…ちょっとアーチャーさんとの対決は見てみたい気がするけど』
『682とかさあ!』
『英雄とドラゴンの対決ッスか。いやー胸熱ッスね〜』


だが…二人も結局は、脱線し始めるのだった。やはりこの混沌としてしまった場を取り纏めることが出来るのはレオだけだろう。


『正直…SCPについては僕は詳しく知りません。ですが…お二人が言うことも一理あるように思えます。一度探索は中断して桜に見て貰った方がいい。そして対策できるならば、その後に探索を再開しましょう。―――それに、一つ確かめたいことがあるんです。二人とも外に出て、“もう一度迷宮に入りなおして”いただけませんか?』


妙な提案だ。
だが、レオの勘は概して当たっていることが多い。
方針は決定した。

アーチャーは、瞬時にマキナの所へと移動すると、有無も言わさず横抱きにした。そして元来た道を、“サーヴァントの速度”で駆け抜けていく。15秒と掛からずに、アーチャーはあの暗い階段まで辿りつき、そうして入り口から脱出した。


余りの速さに、着地したアーチャーの周りに砂塵が舞う。そしてその砂から主人を守るように外套で覆い隠すのだった。やがてそれが収まると、アーチャーはマキナを地面へと降ろし、砂だらけの自身の服を、パンパンと払う。


「………無事か?マキナ」


マキナは2、3度瞬きをしていた。
放心しているようにも見えるので、
少々心配になって顔を覗き込む。


「しっかりしろ、意識はちゃんとあるのか?先に桜君のところへ行くか…!?」
「…………SCP…?」


肩を掴まれ、揺すられていたマキナは、眉根を傾げてアーチャーを見た。


「……なんで私の迷宮にSCPが…?」
「私にもわからないが……とにかく君は今正気なのか?」
「どうだろう、元々正気の沙汰ではないと思うけど…」


目を逸らして言うマキナに、アーチャーは深くため息を吐いた。


「そんなことを言えるようでは、君の平常運転に戻ったようだな。―――よし、では会長。今からもう一度迷宮に突入するのだな?」


本当におかしい者は、自身のことを正常だという。故にマキナは現在その“ミーム汚染”とやらの状況下にはないと。特に、普段のマキナを知るアーチャーには解るのだ。マキナのことは“昔から”よく知っている。


『ええ、階段を抜けた最初の空間までで構いません。そしてその後すぐに帰還してください。それで一つの答えが出るでしょう。』


縄や鎖で繋ぐわけにもいかないので、
アーチャーはマキナの手を確り握る。

それこそ…人の多い場所に出るときの母と子のように。

マキナは釈然としない顔をしていたが、自身が迷惑をかけていたことから文句は言わず、アーチャーに引っ張られていく。




レオの言う通りに、再度扉を潜る。

またあの仄暗い階段を降り、
そうして今度はマキナが扉を開いたのだった。


「………………」


そして、扉の向こうに広がっていた世界に二人は絶句していた。


『どういうことよ…?コレ……』
『予想した通りです。お二人とも、ご苦労様でした。帰還してください』


マキナは思わずもう一歩、足を踏み入れようとしたが、堪えて一歩後退した。そうしてまたアーチャーの先導で、階段を昇り始める。

扉の向こうにあったのは、サメだらけの水槽ではない。

多くの人でごった返している、
ニューヨークの『タイムズスクエア』
そのものであった。

当のマキナでさえ、意味が全く解らない。だが―――…レオの“予想”は、マキナにも予測がつく。


『ええ、この迷宮はどうやら入る度に姿を変えるようです。法則はわかりませんが…兄さんが入った際の迷宮も全く異なるものでした』


多くの者が、沈黙に支配される。
会話はレオとマキナの間で続く。


「……つまり、マッピングデータが役に立たない。」
『その通りです。この迷宮は、今までのように少しずつ攻略することはできない。ただの一度きりで踏破しなければならないんです。』


レオが悩ましげに首を振る。そして、必死にマキナの身體情報と影響の誤差を解析し続けている桜にちらりと視線を遣った。


『しかも…マキナさんは迷宮に居れば居るほど、影響を受けてしまう…作戦の練り直しが必要です』


思いも寄らない、問題の発生だった。
BBが言っていた言葉が思い出される。
この迷宮で、マキナはたっぷり苦しめられると。
その言葉は、偽りではなかったのだ。


『残念ですが、対策を立てない状態での再突入は無意味でしょう。一度生徒会に戻ってきてください。そして…できれば、ジナコさん、間桐さんにもご協力していただきたい。』


すっかり意気消沈してしまった面々の中、マキナは申し訳ない気持ちで一杯だった。

なんとか―――しなければ―――。

目を閉じると、BBが嘲笑する姿が浮かんだ。



・SPC(Shark Punching Center)
・SCP-173 - The Sculpture - The Original
・SCP-458 - The Never-Ending Pizza Box
・SCP-294 - The Coffee Machine
・SCP-447 - Ball of Green Slime
・SCP-261 - Pan-Dimensional Vending
・SCP-882 - A Machine
・SCP-131 - The "Eye Pods"
(Thanks a lot.)
(2014/07/16)






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