Circular Cline Collapse...(sleeping awake) :06

Circular Cline Collapse...(sleeping awake)
ギルガメッシュから最低5mの距離を保ちつつ生徒会室を後にしたマキナ。アーチャーと共に、今度こそ迷宮探索を始める。“金の卵を産む鶏(ガッルス・ガッルス・ドメスティクス)”が戻った今、迷宮で敵性プログラム(エネミー)を倒せば、二倍のサクラメントが手に入るはずだ。はずだ………?


「―――…どう思う?」
「こればかりは、実際に倒してみないと何とも言えんな。一つでもスキルが戻った以上、君はマスターであり、サーヴァントでもあると思うが…」


小さな校庭を歩き、大きな桜の木を目指す。


「兎に角、これでもう私の存在意義はご飯を作るだけじゃない。私に新たに加わった意義。―――それは『金』。これでアーチャーの傷を治すためのアイテムを備蓄することができる。アーチャーに服を買ってあげることだってできる。よかったね」


また存在意義の話だ。随分と根に持たれているらしい。というか、本人がアーチャーの意図した以上に気にしているというか。見ていて若干哀れである。他のスキルも出来る限り早く取り戻した方がいいだろう。


「ホラ、学生服売ってるじゃん、あれ買ってあげようか?」
「……君は貴重な金でいくつ制服を買う気だ?桜君のは理解できるが…特殊効果がある訳でもないし、そんな無駄なものに金を注ぎ込まないでくれ」


購買では、回復アイテムや礼装の他に、よくわからないものが置いてある。上記の学生服とか、眼鏡とか、ガーターベルトとか。マキナには、10万もする月見原のセーラー服を買った前科がある。一人だけ仲間はずれだった桜を不憫に思い、預金の殆どを使って購入したのだ。何しろ、言峰が今日限定販売などとわけのわからないことを言っていたので、他のアイテムを差し置いて買う他なかったのだ。

だというのに、珍しくアーチャーが苦言を呈さなかった衝動買いだった。


「クールアンドワイルド気に入ってるから、学生服あっても着ない?」
「そ、そういうワケではないが……もっと優先すべき物が他にあるだろうという話だ」
「でもまあ、回復アイテムをバンバン使うような戦い方もどうかと思うんだよね。損傷を抑えて、賢く回復してお金いっぱい貯めて、無駄遣いしよう?」
「前半は同意だが…君は相変わらず金遣いが荒いな……あの男の影響なのか?」
「…現実世界では貯蓄だってそれなりにあるし。ある程度使わないと経済回らないし。」


アーチャーの盛大な溜息に、また言い訳がましい反論をするマキナ。そこで更に悩ましげな溜息を吐いたのは、生徒会室のレオだった。


『現時点の個人資産なら、僕を遥かに上回っていますからね…マキナさんの日本亡命より早い段階で、資産を日本とスイスに移していたのは賢いやり方でしたね。アメリカの金融がやや弱体化した一方、二つの中立国はうまく立ち回った。」
「……やっぱ凍結自体は試みてるんですね」
『当然です。僕が総主になった暁には、更に政治的圧力を強めて実現するつもりですから覚悟を。もちろんマキナさんが僕の妻になったらその限りではありません。―――資産は全てアメリカに遷してもらいますけどね!」


邪気のなさそうな満面の笑みに背筋が凍るマキナ。というか、夫婦になってその後暗殺されでもしたら、その資産はレオのものになるではないか。ユリウスに殺られる確率も、マキナが懸念していたよりも実はもっと高かったのでは…?

やはり是が非でも勝ち上がり、そうして日本やスイスを一層支援しよう。今までは面倒に思っていたが、気合をいれて政治家と仲良くならなければ。

ある意味で喝を入れられたマキナの目に、一層真剣味が増す。こんな迷宮、早く攻略して先へ進まなければ―――!

そう、勢いよく桜の木の扉(ポータル)に足を踏み入れようとした時だった。


「―――ああ、今から探索か?気を付けて行ってきてくれ」


ちょうど、入れ替わりにユリウスが迷宮から出てきたのだった。マキナはユリウスがそういい終わる前に、その姿をアーチャーの後ろに隠したのだった。がっしりとアーチャーの背中に張り付いた上で、その隙間からじっとユリウスを凝視するマキナは不審極まりない。アーチャーは呆れてまた溜息を吐いたのだった。


「…?―――…?? …何故隠れる?」


事情を知らないユリウスは、半ば動揺して説明を求める。マキナは依然と半雲隠れしたまま、ユリウスに宣言するのだった。


「億が一、いや兆が一私が総主の妻になった場合ですけど、私を殺そうとしたら、あらゆる権限を使ってホワイトアフリカに[削除済み]しますから、その危険性を常に念頭において、慎重に行動してください!どうぞよろしくお願いします!」


マキナの説明は、やはりユリウスにとって意味がよくわからなかった。否、わからなくはないのだが、何故今こんなことを宣言されるのか理解ができない。が―――あまり詮索しても無駄なような気がした。


「……とりあえず、憶えておく。」
「ありがとうございます。大事なことなので忘れないでください」


言う通り、兆が一の確率とはいえ未来の義兄になるかもしれない相手に予め脅迫をする辺り、マキナもある意味でレオのことを悪く言えないだろう。アーチャーも勿論そう思い、改めて呆れるのだが―――…そして同時に複雑なことに、ここまでマキナに頼りにされたのはこれが初めてだった。

本気なのか半分冗談なのか、判別がつかないのだが、マキナはしっかりとアーチャーの背中に掴まって震えている。傍から見れば、単に人間の盾にされているだけなのだが、どうにもそれを引き剥がそうという気は起きないのだった。


「ところで―――…さっき遠坂リンより聞いたんだが…」


やっとアーチャーを解放したマキナは、あの血色の悪いユリウスがほんの俄かに頬を紅潮させ、言いにくそうにしているのに何を訊いたのかと眉と首を傾げる。


「……お前は、俺のことを好いていたそうだな…?」
「げっほ、ごほッ!?」


それを聞いたマキナは案の定、気管支に唾液を詰まらせたのだった。
そして湧き上がる、殺意。


「勿論、生徒会メンバーの中において消去法の結果だろうことは知っている。だが―――…それでも事実に変わりはないのだろう?……………その、俺とお前では年が離れすぎているし…何よりお前はレオの婚約者だ。だから――、すまない。お前の気持ちに答えてやるわけにはいかない。だ、だが、決してお前のことを嫌っているというワケではない!……もしも、もしも俺たちが違った形で出会っていたなら……別の答えもあったのかもしれないが。」


苦悩し、真剣に考えながら口にしたであろうユリウスの告白に、マキナは胸を詰まらせたのだった。ヤツへの殺意は消えないが、それでもその姿は胸に響くものがあった。


「…ユリウス……」
「な、なんだ…?」
「年上の人にこんなコト言うのもどうかと思うけど…」
「…………ああ、…?」
「君はなんて純情(ピュア)で可愛い男(ヒト)なんだ…!やっぱり私は間違ってなかった。貴方はとてもいいヒトだよ、私なんかとはぜんぜん違ってね。現実世界に戻れたら、貴方がいいお嫁さんを見つけられることを祈ってるよ。―――で、この話は終わりました!過去のことは忘れて先に進みましょう。ユリウス・ハーウェイ、斥候活動お疲れ様でした。後は我々に任せてゆっくりしていてください」


マキナお得意の強引な話題逸らしだが、ユリウスも頷いて道を譲る。“朝食が冷める前に是非食べてください”と、急き立て校庭を後にさせたのだった。そうして、はあと溜息を吐くマキナ。

次にやるべきことは決まっている。


「遠坂!おい訊いているのか遠坂!!」


それは、迷宮に突入することではなく、犯罪者の糾弾だった。


『あら、なによ。みんな知ってるのに本人だけ知らないのを不憫に思っただけよ。一人だけ話題についていけないなんて、可哀想でしょ?』


しれっとして、悪びれたそぶりのない遠坂リン。だがマキナは知っている。そんな事コイツが思っている筈が無い。この状況を楽しみたかったが為だけに、言わなくてもいいことを敢えて吹聴したのだ。


「この痴女愉快犯カラシニコフ守銭奴系女子!現実(おもて)に戻ったら覚悟するんだな!私のコネを総動員して、おまえの資産こそ凍結してやるからな―――!!」
『ぎゃあ!?そ、そんなコトさせるワケないでしょ!?』
「“億死の工廠”を…“破滅の救世主”を…“夜の帳を降ろすもの”を…“最後の丘の裁定者”を舐めるなよ。“無垢なる暴力”が無尽強大な力をもってして、お前に無慈悲な鉄槌を食らわせ焦土化してやろう!」
『なんですって!?こっちだって“遺憾の意”を発射して対抗してやるわよ!それにカラシニコフはジャムらない良銃よ!だから一世紀以上愛用されてるんだっつーの!!』
「その点は同意だが、カラシニコフはお前の形容詞になった時のみ罵倒語と化すのだ!」
「おい、もうやめるんだマスター!聞いているこっちが恥ずかしくなってきたぞ!?」


 あと二人とも各方面に謝れ!と叱咤するアーチャー。その様子をレオは目尻に涙を滲ませつつ、楽しそうに鑑賞しているのだが…白銀の騎士は悩ましそうな顔を浮かべるのだった。


「婦女の戦いがかくも苛烈なものとは……」
「今時の女性は強いですからね…この時代、こうでないと生き残れないんですよ」
「―――なるほど、だからこそ一刻も早くレオが覇権を握り、世界の安定化を図らなければならないのですね……深く納得しました。」


そして結局そこに帰結するのだった。相変わらず、マキナを冷めさせる達人である。この男たちは。

―――さて、今度こそ臥藤でも飛び出してこない限り迷宮突入だ。


マキナはアーチャーを伴い、一歩。
その中へと踏み出したのだった。


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