moving mountains :06


――――2月2日、夕刻。
言峰からの密命を受け、ランサーは穂群原の屋上にて客の到来を待っていた。アーチャーとの戦闘だ。倒すこともできないが、一度目の戦闘では必ず生還せねばならない。校舎には既に他のサーヴァントの手が加わっている。まあ、もう聖杯戦争が始まるのだ。きな臭くなってきたのも当然だ。しかしアーチャーともう一機を同時に相手取るのは流石に拙い。

ランサーの召喚の触媒となったピアスにマキナから魔力を充電してもらっているとはいえ、敵は皆、自身と同じく世界中で勇名を轟かせた豪傑ばかりの筈だ。油断も隙も与えるわけにはいかない。

ただ、結界の主はこの学園にはいないようだった。結界のランクはBといったところで、対魔力の高いランサーには無いも同然の代物だ。だから今はアーチャーとマスターの到来を待つ。言峰の情報では、アーチャーのマスターはこの学舎に関わり深い人物であり、この場に現れる可能性が高いというのだ。

今日は一日、朝から走り回っている…というか走り回らされている、というべきか。セイバーの召喚も秒読みだろう。そうすればまた、セイバーにも戦闘を仕掛けなければ。

戦闘自体は嫌いじゃない、どころか好きな部類だ。だが、全力で殺し合いをできない事が忌々しい。ただの 茶番でしかない。


「…………」


今日は一日、マキナの食事を食べ損ねた。魔力の供給も充分だし、本来は食べる必要はないのだが…なんだかんだと律儀に一生懸命食事を作るマキナを可愛く思っているし、実際その料理の内容も悪くはない。食事中にマキナをからかうのも。楽しみ(いきぬき)を逃してしまったが、これからはこんな日々の連続だろう。

寒さのせいではない、ランサーは身震いした後、自身でも無意識のうちに笑っていることに気付いた。

懐かしい感覚だ。
役者が揃い、戦争が始まる。
この瞬間を待っていた。

誰かが死に、自分が死に、混沌の戦場で多くの声が 勝鬨をあげては断末魔の叫びをあげては騒乱に掻き消えていく。その切なくも狂おしい、少女の恋心にも似た、抗いようのない渇望。そんな感情に酔いつつも、呑まれることはない。

ほぼ同時に、眼下に赤い装いの少女が目に入ったことで状況が動き出す。
彼女が目標に違いない。

静かにゆっくりと、両目を閉じて深呼吸を。アサシンの気配遮断に近い形で空間に存在を紛らわす。幸い、学園には先客の結界が張ってあるので難しいことではない。あとはここで、ひたすら獲物がやってくるのを待つ。

狩りの始まりだった。

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