moving mountains :05



「―――…」


玉鋼のような光沢の長い髪、蒼と紅が混濁した瞳。

妙に現実離れした容姿、だった。
それこそ別の世界から来た存在のような、違和感があった。それにしては彼女の精神(なかみ)はこの世界に溶け込んでいる。

外人は日本人より成長が早いというから、実際は年下かもしれないが、見た目は大体自分と同い年くらいの少女。

自分のおすすめの店を紹介したのだから、また会うこともあるだろう。もしかしたら、穂群原に転入してくることだって――あるかもしれない。

彼女の屈託のない笑顔が頭から離れない。彼女に握られた手の感触が、一夜経った今もまだ残っている。今まで衛宮士郎が出会ったことのないタイプの人間ではあるだろう。間久部マキナとの出会いは、士郎に強烈な印象を残していた。

―――さて、今日は土曜日だ。そろそろ起きて学校へ行く支度をしなければ。







「ね?どう??中々いいでしょ、一年中花が咲き乱れる庭園の完成です!」


早朝から忙しそうな言峰を無理やり中庭まで引っ張ってきたマキナは、昨夜の成果を早速見せびらかしたのだった。


「そこの蔓薔薇は…ナノマシンで遺伝子組み換えした青い薔薇なの。あ、生態環境には影響を及ぼさないように計算してるから安心して。この薔薇の花粉では他の植物は受粉できないようにしてあるよ」
「…………」


次々と中庭の説明をしながら、その都度言峰を引っ張っていくマキナ。どこかの絵画をそのまま現実化したような…或いは英国貴族の温室(コンサバトリー)。冬木はこの時期、そう寒くは無いのだが、それでも冬真っ只中だ。マキナの宝具の効果なのだろう。この中庭だけが俄に暖かい。言う通り、まるで常春の庭園だ。


「中庭に来た信徒さんにも喜んでもらえるんじゃないかな?」
「…………」
「アレ…?ダメだった?ちょっとぉこになってる??」
「―――まあ、敢えて言うまい。」


マキナと正反対に、無関心にも近いテンションの言峰に不安を覚え始める。日本人の美徳なのか何だか知らないが、寧ろ敢えて言って欲しい。だがまあ、黙認できる程度のものだったのだろう。元に戻せとは言われなかった。突然不安を覚えたマキナだったが、とりあえずは胸を撫で下ろしたのだった。


「―――それより、マキナ。少し話がある。このままついてきてくれ」


中庭に背を向け、元来た道を戻る言峰に、マキナはぴょこぴょこと付いて行く。向かった先は言峰の自室だった。言峰は先にマキナを中へと通す。扉を閉めた後、促し、あのソファの上へと腰を下ろさせ、言峰も対面する形で腰を下ろした。
何だか嫌な予感がする。


「昨夜、6人目が現れた」
「それはおめでとうございま―――…」
「解っているだろうが、“7人目”が必要だ」


それこそ、この話題は昨日の今日だが、案じていたことが既に現実問題と化していた。


「マキナ、お前が“7人目”だ。覚悟を決めろ。お前が7機目のサーヴァントを召喚することで聖杯戦争が始まるのだ」
「――――…」


困ったことになった。


「…これまでに召喚されたサーヴァントは、何ですか?」
「バーサーカー、キャスター、ランサー、アサシン、ライダー…そしてアーチャーだ」
「…残りはセイバーですか……」


ネロとか、呼んだらきてくれるだろうか。他に知り合いのセイバーと言ったら、ガウェインとか。恐らくギルガメッシュがそうなように、彼らを召喚してもマキナのことは知らないだろう。ネロに記憶がないのは残念だが、ガウェインにないのは好都合だ。勿論、召喚できるかどうかは別の話だが―――…彼ら二人なら触媒がなくても縁はあるから、他の英霊と比べれば可能性は少しくらい高いだろう。


「でも、別にエキストラクラスでもいいんですよね?ジェスターとかどうです?」
「―――と、私も最初は思ったのだがな。しかしお前は完全な実体のようだ。お前では、7機目として聖杯が認識できないだろう。例え勝ち残ったとしても、霊体でなければ聖杯に接続できんだろうしな。」
「…………。」


参加を免れられないのなら、今度こそ一人二役をやるのが一番と思ったのだが。中々上手くいかないようだ。朝から溜息が漏れてしまう。


「………もうちょっと考えてもいいですか?」
「あまり長くは待てんぞ、今日中に結論を出せ。」
「………はーい。」


こうなったら、組織に電話して相談してみよう。地下墓所の子供たちのこともある。マキナ一人で判断していいことではないだろうから、慎重に検討しなければ。

マキナはPDA端末を取り出し、早速ソファから立ち上がると部屋を出ようとするのだが…


「待て、もう一つある。これを渡しておこう」
「ん…?」


手渡された紙袋の中身を覗くと、そこにあったのは、意外なものだった。


「今日、明日とミサがあるからな。教会内に顔を出すなら、それを着ろ」
「わあ…修道服ですか……しかもロザリオまで。私信徒じゃないのにOKなの?」
「それ位は問題ない。私服で毎日うろつかれるより、余程な」
「りょうかーい、信徒さんが来る時間帯はこれ着ますね」


今度こそ部屋を出る。
扉を閉めた後も、改めて紙袋の中を覗き込む。マキナは当然信心深くないし、所謂無宗教主義者だ。というか寧ろ、英霊的な意味合いでは自分自身が神性を獲得してしまっている。キリスト教的に考えれば、所謂邪神ではなかろうか。

だが…教会と無関係だったわけではない。あれが聖堂教会だったかどうかは思い出せないが、世界各地、ミサに参加した回数は数え切れず。欧米に居た頃…そして母が生きていた時分は、教会でよく手作りのクッキーを買ったものだ。アーヴィングと一緒に食べて帰ったこともあった。そういえば、この教会ではクッキーは用意していないのだろうか?まあ…あの言峰が毎朝クッキーを焼くとは考えづらいが…折角だからマキナが焼いてみるのもいいのではないか?


「サーヴァントを探しているそうだな、道化」

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