moving mountains :04


「………これがベリーベリーストロングーなのか」
「うん、多分運がよければステータス増加とかの効果が得られるんじゃないかな」


 でも、低確率だから期待はしないでね。などと適当なことを言いながら、マキナはランサーにストロベリーアイスクリームを奢っていた。…………アイルランドにも苺は…あったと思うのだが。まあいいや。マキナ自身はレモンジェラートを食べながら、幼少の頃を思い出したりしていた。本当に昔、父の実家のあるヴェネチアで両親と食べた思い出だ。両親のことは、今思い出してみると何か別世界の話か映画でも見ているかのような現実との乖離感を強く感じる。しかも今は“過去”にいるのだから、余計に遠いのだろう。

マキナは今日、ヴェルデの売り上げにかなり貢献をした。だがその大量の荷物は今マキナの周りにもランサーの腕中にもない。造兵廠(そうこ)の中に全て仕舞ってしまったのだ。ムーンセルから出るとき、億死の工廠の能力に少しだけ手を加えた。ギルガメッシュの宝物庫(バビロン)があまりにも便利に思えたので、自身の宝具にも収納機能をつけたのだ。そしてそれが早速効力を発揮した。いまやバケットホイールエクスカベーターを購入したとしても、一人でらくらくと持ち帰られるのだ。


「これ、中々美味いモンなんだな」
「アイスおいしいよね。ランサーの時代ってなかったんだっけ?」
「ああ。――――で、こっちは?」
「!」


ベンチが空いているというのに、敢えて手すりの上に二人して座っていた。懲りずに色々な思案を巡らせていたマキナがアイスを消費する速度は非常にゆっくりで溶けそうなところをスプーンで掬いながら少しずつ口に運んでいた。

だが、はぐ。と。
ランサーはコーンを持つマキナの腕を掴んで引き寄せると、その本体をランサーは大口で切り崩したのだった。マキナの思考は、停止した。


「……すっぱくねーか、コレ」
「ランサー……」
「ん?」
「口大きくあーんして、あーん」


にこりと笑ってランサーに促すマキナ。なんだ?と思いつつも、言われた通りランサーが口を大きく開けるとそこに…


「おば…!!」
「今更だけど、ダブルにしてあげますね。」


マキナは持っていたアイスをコーンごと突っ込んだのだった。あまりの冷たさに顔を歪めたランサーは、突っ込まれたコーンを引きずり出して憤慨。


「殺す気かっ!!」
「ぉこなのは私の方なんですけど!女の子ならまだ許せるけど、王様以外にして欲しくないです!」


あのまま食べ続けたらランサーと間接キスすることになってしまう。まあ、既にマキナが食べていたものをランサーが食べた時点で…なのだが以降はありえない。全く悪気のなさそうな様子を見ると、特に味見したい以外の他意はなかったのだろう。だが、ここはちゃんと教育(しつけ)をしておかなければ。そしてランサーも早速、マキナの凶悪さを認識し始めたことだろう。


「ちょっと過剰反応過ぎるだろ?こんなんで拒絶するんじゃ、嬢ちゃん。どうやって俺に魔力供給してくれる気だ?契約もしてねえのによ。」


一応食べ物を無駄にはせずに、コーンの先までボリボリと完食した上でランサーがぼやく。“目下の者から勧められた食事を断らない”ゲッシュを守っていたのかもしれない。

通常、主従契約を結んでいればサーヴァントには自動的に魔力が送られる。だが、マキナとランサーの間に、その通り主従契約は結ばれていない。となると、一般的には強制的に回路(パス)を繋ぐなどして供給するしかないのだが…。


「その点は心配いらないですよ。えい」
「ん!?」


くい、とランサーの結んだ髪を引っ張るマキナ。5秒ほどだろうか、そのままランサーに空を仰がせた後にマキナはランサーの髪と頭を解放した。


「ランサーの充電完了しましたー」


高速で流し込んだから、ランサーはピリピリと痺れを感じているかもしれない。自分も大分手馴れてきたものだ。とマキナは自己満足する。これもギルガメッシュや白野のお陰だ。今やマキナは「永久機関(偽)」を自在に操ることができるようになったのだ。勿論、流し込んだ分マキナの貯蓄はその分減ってしまったので、すぐさま周囲のエネルギーを積極的に取り込んでいく。


「……何だ今のは…」
「魔力供給。問題なかったでしょ?」


面食らった様子のランサーが面白い。この調子でギルガメッシュも驚かせてやりたいものだ。

マキナは軽快な調子で手すりから飛び降り、くるりと半回転。用事は全て済んだことだし、帰ろうとランサーに促す。やれやれとランサーが立ち上がる間、くるくると舞うように半ば浮かれて広場を進んでいたのだが――――…


    
“死ね(おいで)”


「――…!」


誰かに、呼ばれた。
マキナは足を止め、注意深く気配を探る。
不可視で宝具も作動し、他のサーヴァントの襲来などがないかを虱潰すのだが…。


「―――…?」
「どうした、嬢ちゃん」


幻聴、なのか。
サーヴァントの気配など、自分とランサー以外には存在しない。魔術師の魔力の残滓、例えば使い魔の微弱な魔力放射もない。気になろうとも、これ以上調べようもなかった。


「………なんでもない。」


振り向いたまま宙を睨んでいたマキナだが、振り返る。警戒は解かずに、ランサーについて帰っていったのだった。

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