Circular Cline Collapse...(sleeping awake) :05


「第六問いきまーす。『センパイが好きな下着の色は?』」
「―――…」


相変わらず、どうしてこうも他人の秘密(プライベート)を抉るような設問なのか。だが文句を言っても仕方がない。これは『SG』なのだから。凛やラニも、この恥辱に耐えてきたのだ。


「えっと特に特定の色がっていうのないんだけど……服に合わせるかな。」


真実なのだろうが、当たり障りのない回答に、BBはそれで逃しはしなかった。


「さっすがセンパイおしゃれにも余念がないんですね。じゃあ、今は何色の下着をつけているんですか?ここまでが第六問ですよ〜☆」
「!」


それを今、答えろと―――…?


「どうします?さっきみたいにアーチャーさんや凛さんに手伝ってもらいますか?」
「い…今は上下黒だよ!遠坂と同じ!」
「ひわぁ!!おまっ…何で私を巻き添えにしてんのよ!!」
「見えてもあんまり恥ずかしくないから。ピンクとか白とか…如何にも下着って感じで恥ずかしいじゃん?」
「見せブラ、見せパンってヤツですね…奥が深い」
「どうですかBB、答えたから次に行ってください!」


いちいちコメントを挟もうとするレオを遮るように、BBに対してびしっと指を指すマキナ。簡単に答えられはしたものの、相変わらず余裕のないマキナに、BBはにやにやと笑っていたのだった。


「じゃあ、次です。第七問『余暇の過ごし方は?』」
「えっと………何してるかなー…ピアノ弾いたりお菓子作ったりしてるかな……」
「やだー、センパイ女の子みたーい!」
「そういうのじゃないよ……知ってると思うけど。」


相変わらず質問のチョイスは謎であるが、今のはボーナス問題だっただろう。羞恥心を抉るような質問ではなかった。


「第八問『センパイが今まで出会った中で一番印象深い人は?』」
「――――…」


羞恥心を抉られはしないが、中々考えさせられる問題だった。何故ならマキナが今まで出会った人間の数は膨大で、しかも多くがタダモノではない。刺激の強すぎる、強烈な人間ばかりだった。


「リリアナの『オールドキング』かな……会って割とすぐに死んじゃったけど……変わった人だったな。ともすれば私以上に大量殺戮者の素養があったかも」


“リリアナ”とは、世界の勢力を大別した場合、凛も属する『反動勢力(レジスタンス)側に分類される。しかし、その中でも過激派組織の一つで、同じ派閥であっても凛とは相容れない思想の集団だ。そして『オールドキング』とは、そのリリアナのリーダーであり、稀少なアーマードコアネクストの操縦者(リンクス)―――そのリンクスネームである。

その悪名は、それぞれ別の組織に所属する生徒会のメンバーだが、全員が知っている。流石に政治的な活動に関わっていないジナコや慎二は知らなかったようだが。


「4年前にマキナさんを誘拐した男ですね…レジスタンスとはいえ、マキナさんを無事に奪還した『マクシミリアン・テルミドール』には感謝していますよ」
「あのキチガイと一ヶ月も過ごしたんだっけ?」
「まあ……イカれた人だったけど、別に性的倒錯者じゃなかったからね…少なくとも私の見た限りでは。アレ以上長くは無理だったけど、横で観察している分には中々興味深かったよ。ホント」


今がクイズ番組の途中ということを忘れ、すっかり回顧に耽ってしまった。はっとしてBBの顔を見ると、“もういいですか?”とばかりに一度首を傾げられたのだった。慌ててうんうんと頷いてみせるマキナ。


「さーて、もう九問目です。行きますよ?『センパイの初恋の人』を、教えていただきましょうか」


そしてココで、地雷問題が投下されたのだった。やはりまた回答に詰まってしまうマキナ。言い憚られるということではなく、誰だったのかを考えているのだ。


「アーヴィング・グローバーじゃないの?彼、かなりのハイスペックよね。MITで機械工学の博士号を取りながら、ROTC(予備役将校訓練課程)からSEALs(特殊部隊)でしょ?しかもAMS適性まであったワケだし。かなりのイケメンだったしさ。」
「でもマキナさんを殺そうとした人ですよ?」
「あー、えっと……今も生きてたらわからないけど、当時年齢差ありすぎるし…」
「じゃあ誰なのよ」


凛の言う通り、アーヴィングはイイ線をついていると思うが、でも初恋の人かと問われると違うと思う。もっと印象的な相手は他にいる。


「ん―――…アレが初恋なのかはわからないけど、すごく心を許した男の子はいたよ」


これも少し、マキナ自身自信が持てないのだが、敢えて挙げるなら“彼”だろうと。凛は食らいつくようにしてマキナの答えを急かすのだった。


「誰よ…!?」
「…………名前は知らない。顔もみたことない」
「はあ…?どういう知り合いなのよ?ネット上で知り合った?」


何故、そんな風に情報の少ない相手を好きになれるというのか?凛だけでなく、皆肩透かしをくらいつつも、マキナの話を待つ。


「エジプトで半年間一緒に過ごした。アスピナ機関にいたころ。その時私は視力を失ってたから、その子の顔は見なかったんだ。彼はずっと私に付き添ってくれて、私のことを励ましてくれてたの。でも結局名前を教えてくれなかったし、私の視力が戻った時にはもういなくなってた。アスピナの記録からも抹消されてたし、今となっては探すこともできない。」


ここで、先ほどの失明の話が繋がったのだった。その事実はレオも凛も知らなかった。西欧財閥圏の外、尚且つ反動勢力側のテリトリーでもない中立国での出来事。唯一、同エジプト内にあるアトラス院に所属していたラニだけが知っていた。アトラス院とアスピナ機関は、一部の方面において協力関係にあるのだ。以前ラニ自身がマキナに話したとおり、アスピナ機関にいた間の記録を“聖杯戦争参加の可能性がある魔術師”の情報開示という形でラニは知っていたのだ。

ここまで、意外なマキナの情報も知ることはできたのだが―――…ついに最後の問題である。


「さあ、センパイ。ついに十問目です。心の準備はいいですね?」
「応、ここまで来たら答えてやりましょうぞ」
「じゃあ『センパイの好きな男性は?』―――これは、今のセンパイの好みを人名を特定して答えてください。」
「えっ…………………」


 えっ という表情になったのはマキナだけではなかった。最後の最後に来たのはド直球・ド本命の質問だった。


「えっ………!?!」


思わずもう一度聞き返してしまうマキナ。優しい人、とか背が高い人―――だとか、そういうタイプではなく、人物を特定しろと。気のせいか、今までより観客達の注目度が上がっているような…。


「……『いません』じゃ…ダメ…?」
「ちょっと待ってくださいBB、何故“好きな女性について”の質問がないのですか!」


コレといって好きな男性が思い当たらなかったマキナは、そうおずおずと答えるのだが、それをかき消すように、まさかのラニが挙手をしての大抗議したのだった。


「!―――…そうですよね、それも大事な質問でした。一緒に答えてくださいね?」
「お……おおっ…?!」


………困ったことになった。殺気が先ほどと比べて倍…否、三倍になった気がする。時間をかければかけるほど、答え辛くなっていく。


「『みんな好き』っていうのもダメ…?」
「それ、最悪の回答ですねぇセンパイ。エロゲの主人公のつもりですか?そんな優柔不断な答えじゃ、ヤンデレに刺し殺されてBADEND―――な未来しかありませんよ?」


何故かBBは、半ば殺気交じりにアーチャーに向けてウインクしたのだった。

まあ、例えはアレだが言いたいことはわかる気がする。とはいえ―――…基本他人に執着しないマキナのこと。
男性も女性も、そう特別な感情は抱いていないのだ。迷いながらも覚悟を決める。マキナはとうとう答えを口にした。


「じゃあ、男性は『須江部真文』で、女性は『岸波白野』で!ちなみに!断っておくけど性的なイミじゃなくて、友達的な意味だから!別にBBは『性的な意味で。』て限定してないから、この答えは正解だからねっ」


そう、堂々と答えつつ、そして誰からのツッコミが入る前にマキナは補足した。チッと舌打ちをしつつも、BBはモニターに今までで一番豪華な正解(Congratulations!)の立体映像を表示した。不満の声は脇から上がってはいるが、何はともあれ全問正解だ。だが、BBは首を振っている。何やらイヤな予感がする―――


「回答お疲れ様でした。では早速固有スキルを一つ返して―――あげたいところですが。ちょっと間違えすぎでしたよね?だからおまけであともう一問!答えてもらいます。『この中の男性に限れば誰が一番好みですか?(性的な意味で!)』最後にこれだけ答えてくださーい」
「実際十三問目なんですけど!」
「もー、文句ばっかり言わないでください。豪華商品いらないんですか?」
「………で、コレは中身?それとも外見?どっちを指してますか?」
「両方答えてください。それぞれ別の人でもいいですよ?」


最早、ここまで来ると恥ずかしいも何もない。疲れたこともあってか、マキナは動揺することもなく、冷静に考えて答えた。


「外見は………敢えて選ぶなら……ギルガメッシュ……」
「ちょっと待ってください!?センパイ、顔で選んでたんですか!?」
「なにが!?」
「まさかセンパイが外見を基準にサーヴァントを選んでたなんて…」
「私そもそも召喚してないし!!それに、敢えて選ぶなら、だってば!」


何故かマキナの回答を聞いて一番うろたえたのはBB本人だった。いくらマキナが言い繕っても、勝手に何かを納得されてしまっているし。そういえば、と今まで何となく目を合わせられなかったギルガメッシュを見遣ると、だから何だと、まるでそういわれるのも当然かのような顔をしていて、溜息が出た。


「中身は……ユリウスかな……」


言った後で気付く。そういえばこの場に今ユリウスはいないんだった。そして今度この回答に衝撃を受けた様子を見せたのはレオだ。


「まさか……兄さんが…!?マキナさんの好みは僕じゃなくて兄さんだったんですね…!?これは忌々しき問題です……僕がマキナさんと夫婦になっても兄さんに寝取られる可能性が…!?」
「いや、だからそういう意味じゃなくて!暗殺さえされなければ一番安心できるっていうか!寡黙だし!静かだから落ち着くじゃん!一番私に干渉しなさそうだから選んだの!!」


どうしても答えろというから答えたのに。これでは、もうこの生徒会室に顔が出せないではないか。宝具が使えるんだったら、今すぐに全員の記憶を操作するというのに―――…すると、誰よりも混乱した表情でいた桜が、理解に苦しんだ様子で言った。


「今のセンパイの話で行くと…外見はギルガメッシュさん、中身はユリウスさんってことですよね…!?―――――…ごめんなさいセンパイ、なんだか私…センパイのことがわからなくなってしまいました…」


桜の苦悩も、正直マキナ自身頷けるものだ。実際にその姿を想像すると…ユリウス特製ハーウェイカレーと同レベルの混沌の極地を具現化したような産物だった。


「桜の言いたいことはわかるよ……確かに合体すると…ショウジキナイワーだよね」


だが、仕方がない。
ギルガメッシュは見た目が良くても、マキナにとって死神に等しい暴君のようだし、ユリウスはユリウスで、見た目が嫌いということはないが、特段好みというワケでもない。


「おめでとうございます、センパイ。これで今度こそBBちゃんのクイズは終了です。約束通り、固有スキルも一つ返してあげましょう。でも―――…これで痛いほど理解したんじゃないですか?自分のSGが晒されることが…―――どんなに苦痛かということが。これからが本番ですからね?果たしてセンパイが耐え切れるのか…楽しみにしています」


そう言い、教鞭をマキナの方へと向けると、BBちゃんねる特設会場がガラスを粉々に砕いたかのように飛散し、やがて光となって消滅。その破片に紛れるようにして、BBの姿も消えていたたのだった。

最後に見せたBBの辛辣な視線が気になりはしたものの、その真意を考えても始まらない。マキナは携帯端末からサーヴァントマトリクスを確認する。

返された固有スキルは予想通り―――『金の卵を産む鶏(ガッルス・ガッルス・ドメスティクス)』だった。

(…)

(2014/06/22)
 





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