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「マキナ、手を繋いで帰りましょうよ」


―――帰り道。
茜色に染まった空の中、衛宮邸の広い外壁の側道をてくてくと進む。そう言って差し出された手を、マキナは握り返し、持っていたおみやげを、億死の工廠(武器庫)内へと移動した。


「今日のは……新手の嫌がらせか何かですか…?」


今度行く時は、誰にも見つからないようにコッソリと行こう。光学迷彩をした上で、伝言もメモなどで残すようにしよう。衛宮に酷い気を遣わせてしまった。小さく溜息を吐くと、ギルガメッシュは眉根を傾げて不平そうな顔をしたのだった。


「嫌がらせなんてしてませんよ、未来のお嫁さんに悪い虫がつかない様にしているだけです」


…………なんだろうか。最近、この時代のギルガメッシュのことがよくわからない。その発言をどう受け取ればいいのだろうと。


「お、お嫁さん……ねえ…」


大人形態のギルガメッシュと性格は正反対だが、月の聖杯戦争での記憶がない状態だということに、幼年体の彼も変わりはない。真意もよく読めないから、話半分にマキナは聞いていた。

その様子を見たギルガメッシュはまた、一層不機嫌そうになる。だが、何かを思い直したのか、ギルガメッシュの方も溜息を吐き、少し調子を落としてマキナに語りかける。


「確かに大きなボクはマキナに心配ばかりかけてるし、ボク自身殴ってやりたいのは山々なんだけど…」


でも、同時に大人と幼年体が存在することはできないのだ。ギルガメッシュは立ち止まり、そしてつられてマキナも。どうしたのかと振り返ると、予想以上に真剣な表情をしていたギルガメッシュに
マキナは僅かに動揺する。


「でも、僕のこと……どうか信じていてください。」


夕陽を受けて、より鮮烈な赤色を呈する瞳には、相変わらず力がある。マキナも応えるように、真面目になってギルガメッシュを見つめ返した。


「僕は、ずっと待ってますから」
「………!」


なにを、と言う前に…ギルガメッシュは握っているマキナの手の甲にキスをした。


「君と出会う日を。」


………なんて子供だろうか。
マキナは狼狽して挙動不審になってしまう。こんな子供相手に赤面して恥ずかしい?否、そんなのは本質じゃない。少しだけ泣きたくなる様な気分にもさせられて、頭の中がまっしろになったものの…どうにか気持ちを落ち着かせて、マキナは応えたのだった。


「あ、あのね……なんか、私も心配かけちゃったみたいだから…その、ゴメン。もしも衛宮のことで心配してるなら、無用だよ。衛宮のことは友達だとしか思ってないから安心してください。」


その、今日は随分と…カタチだけかもしれないが、嫉妬してくれていたものだから。一応謝っておく必要があるだろう。どう言おうかと数秒悩んだマキナだが、一つだけ。


「だって私、ギルガメッシュ以外の男の人に興味ないから。私は一生―――ギルガメッシュ以外の男の人を好きになることはないよ。」


一つだけ、それだけは真実だ。たとえギルガメッシュがマキナのことを嫌いになろうとも、その事実は揺るがない。

“子供のギルガメッシュ”相手ではなく、マキナがよく知るムーンセルで出会ったギルガメッシュにするように屈託のない笑みを浮かべる。

二人は手を繋いで、帰路を辿る。こんなに晴れやかな気持ちになったのは、この街に着てから初めてかもしれなかった。








「おい、嬢ちゃん。飯作りに行ってたんだって?言ってくれりゃあ俺も附いていったのによ」


教会に戻ると、ランサーがお出迎えを。水臭いぜ、と溜息を吐く姿に少しの申し訳なさは感じるのだが…


「いや…ランサーまでいいよ……」


ランサーだけは衛宮邸につれていくワケにはいかない。まあ…暇を持て余しているのだろうが、仕方がないことなのだ。


「向こうにはセイバーがいたんだろ?やっぱサーヴァントとしてはマスターを守らねーと…」
「僕とマキナがいれば対応は充分ですよ。番犬は家でお留守番です」


ギルガメッシュの翳りのない笑顔が相変わらず鋭い。結局この姿でも、二人が相容れないことに変わりはないのだろうか。


「あ、そういえば……」


ランサーのことは既に意識外に。ギルガメッシュは言峰の方へと小走りで近寄っていく。


「この際、ボクも二人と戸籍を一緒にして貰ったほうが動きやすいと思うんだけど…どうです?」
「お前がマキナの弟になるってコトか?じゃあ俺は兄貴だな!」
「ランサーは戸籍に登録の必要のないペット(犬)でしょ。自重してください。」
「だぁ―――!テメェだけズリィだろ!!ちったぁ俺を人間扱いしろ!」
「あ、でも私お兄ちゃん欲しかったの!いいじゃん、お兄ちゃんならランサー歓迎!」
「なっ…!?じゃあ、ボクも兄で登録してください」
「どう考えてもテメェがお兄ちゃんは無理あるだろ…」


わいわいと勝手に盛り上がる三人をよそに、陰鬱な一言。


「……必要のない戸籍操作はしないぞ。」


どうも、マキナが来てからというもの、この教会は賑やかだ。
やれやれと溜息を吐くのも、言峰の日課になっていた。



(しづ様に捧げる…のは少しおこがましいけれど。リクエストを戴きましてありがとうございます!
こんなよくわからない話でいつもすみません…)

(2014/06/21)






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