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Moving Mountains.Anchor
「キレー、キレー!!」


教会の中を探し回っていたのだろう。地下の祭壇にひょこっと顔を出したマキナは、大きな声で言峰綺礼を呼びかけていた。


「騒々しいな、礼拝客が居たら迷惑になるだろう。」
「ゴメン、今いないから許して。パパ」
「…普通、娘は父のことを名前で呼び捨てにはしないと思うがな」
「ごめんなさーい神父サマー」


なんだか人をイラッとさせる口調で、まるで悪びれた素振りもない。だが、言峰がマキナに手を上げることは勿論ない。時間の無駄だ。無視をするに限る。


「で、何の用だ?」


―――勿論、後々この女が面食らって狼狽するような仕打ち位はしてやろうと着々と算段自体はつけ始めているのだが。言峰は、そういう素振りは一切見せる事も無く、至極穏やかに、いつもの調子で祭壇の上の蝋燭を一つずつ取り替えては、火を灯していた。


「大したことじゃないんだけど、出掛けるから伝えておこうと思って」


マキナもいつまでも不山戯てはいない。ウィンブルを外し、それを腕に掛けながら近寄っていくと言峰の背後に立って、話を続ける。


「教会のコトは全部済ませたよ。クッキーも焼いて籠にいれといたから、信徒さんに買ってもらってね」
「何処へ行く?」
「衛宮のおうち。和食を教えてもらうんだー」


 楽しみにするがいい、と偉そうに言いつつ、満面の笑みを浮かべるマキナ。そんなマキナの顔を、一度は表情変えずに見つめたが、やがて再度作業に戻る言峰。…ところで、マキナは教会のことを“クッキーを買うところ”と認識しているようで(子供の頃、親に何度も買ってもらった記憶があるらしい)誰に頼まれもしないのに、毎朝自主的に焼いているのだった。


「随分と仲が良いようだな?」
「凄く親切なんだよね、衛宮。藤ねえもいい人だし、なんか楽しくて」


敢えて言峰に対して“楽しい”というのは矢張り、挑発的な意味合いがあるらしいが…言峰は勿論、眉一つ動かすこともない。


「あ、何か買って帰るものがあったら携帯に電話してね。」


特に制止もなかったし、晴れて衛宮邸へと赴くとしよう。修道服を着替えなければ。まだ時間があるから(武装付き)自転車で行くのもいいだろう。少し強いかもしれないが、大橋を渡って風を切るのも気持ちがよさそうだ。


「そうですね、今日はバスにしておきましょう」
「まあ、定期あるからそれでもいいけ……」


 ど…?
スキップまじりに階段を登り、中庭に出たところだった。


「この身長(カラダ)じゃ、流石に大型二輪(ギルギルマシン)は運転できませんからね。」
「え、はあ…………はい?」
「今日のボクは、一日マキナの弟です。姉さんなら弟の面倒はちゃんと見ないとね」
「えっ? えっ??」
「言峰とだけ家族ごっこしてずるいじゃないですか」


むすーっと子供らしく頬を膨らませて憤慨してみせる子ギルサマ。マキナの衛宮邸突撃についてくると、そういうことらしい。本気、なのだろうか―――…?


「いや、ごっこっていうか書類上親子になっちゃったからさ……」
「じゃ、ボクも書類上弟にしてもらおうかな。」
「ほわ……」
「マキナ、兄弟姉妹(きょうだい)が一人もいなかったから嬉しいでしょ?」


大人形態の、しかもこの時代のギルガメッシュなら殺し合いをしてでも拒否するのだが(衛宮家同伴を)、相手が幼年体だと扱いづらい。しかもこうして、年上、年下を意識させられると…それこそ兄弟がいないマキナはどう対処していいかわからず、とりあえず年下の者の願いを無下にはできないだろう、と。


「お………おう…」


しかも善意からの提案らしいので、迷いながらも受けることにしたのだった。


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