from Mayhem(Reboot):05


「我の膝上で他の男の夢を見るとは度し難いな」


眼の前に、金髪の赤い瞳の男が、いる。そしてその男が、私の伸ばした手を握っている。誰、だ――――昔どこかで、こんな人を見たことが―――あるような…

―――あ、え…?


「ギルガ…メッシュ…?……」
「ああ、」


どうして迷ったのか。
髪を下ろしているから印象が違ったのだ。焦点が合うようになると、その自信に満ち溢れたような顔は疑うべくもなかったのに。


「わ、わたし……生きて…る?」


死を覚悟した。夢だということをすっかり忘れるほどに、現実的(リアル)な死の感触(イメージ)だった。身体が、過剰なまでに肩で息をして酸素を取り込もうとしている。それなのに、冷水に浸かっていたかのように自分の身体は冷たかった。

握られた手がこんなに暖かくて…血の流れを感じる。ああ、生きてる―――


「いたっ、いたたた!!」
「どうだ? 生きているか?」
「生ひへう!生ひへまう!!」


本日通算二度目。またしてもギルガメッシュに頬を抓られた。いらぬことを言ったばかりに、余計な暴力を受けてしまった。ギルガメッシュはにやにや笑いながら私を見下ろしている。
暴君め…。


「じゃあ―――…、―――ここ…どこ………?」
「マイルームだ。正確にはマイルームの我の寝台の上の、我の膝の上だな」


マイルームの、我の寝台の上の………


「ふわっ!? なんで私ギルガメッシュの膝で寝てるんですか!?」


反射的に飛び上がろうとしたのだが、この状態だとギルガメッシュに頭突きしてしまう。一度ぐっと持ち上げた頭を、不本意ながらまた膝の上に戻す。というか、まだ手が握られているから、動けない……。


「固い床で寝る方がよかったか?」
「しょ、正直そのほうが…」
「疲労困憊のマスターを甲斐甲斐しく介抱していたサーヴァントに礼もなしか。剰え王の膝より床の方が寝心地がよいなどと、酷い侮辱だとは思わんか?」
「え、あ、そういう意味じゃないんだけど…!……と、とりあえずありがとう!」


ああ、もう兎に角この体勢はダメだ!歯医者の診察台(まないた)に乗せられた患者(サカナ)のような無力感に近いものがある。やっぱり話は、同じ地平に立ってするものだなのだ。

頭突きしないように気をつけながら、無理やり(なんとか)起き上がろうとする。しかし何故か手を放してくれず、おかしなことに。やっとのことで座り姿勢にはなれたのだが、それも束の間。私とは逆に上体を倒したギルガメッシュに巻き込まれ、またしてもベッドの一部と化してしまったのだった。


「え、……いや…?」
「貴様の看病に疲れた。ただでさえ貴様の魔力供給が乏しいところに、我の魔力を貴様にくれてやったからな。道化の分際で王の精気を毟り取りおって。―――今度は貴様が我を介抱する番だぞ。」


そういってやっとギルガメッシュは私の手を放すと、非常に寛いだ格好で、私を“見下ろした”のだった。

どうやって介抱しろと―――?
酒でも持って来いと、そういうことなのだろうか…?別に見た目だけなら、そんなに重症そうなところはないんだけど…。

それにしても、魔力を私にくれてやったって、どうやったんだろう。あの宝物庫(バビロン)の中に、そういう便利グッズもあるのだろうか。


「それはそうと―――道化、時間はいいのか?」
「――――あっ!」


何よりも大事な事を、すっかり忘却しきっていた―――!夢の中で夢を見るとか、色々ありすぎてもう、何が夢で何が現実かが、混同し過ぎている。だけど、今は間違いなく現実なのだ。携帯端末を取り出して、電源ボタンを一度押す。時刻は23:49を表示していた。あと10分しかない!


「あ、あのっ こんな所で、しかもお疲れのところ、なんなんですけど…!」


申し訳ないとは思うが、たとえギルガメッシュが疲れていても、ひんし状態であろうと、老体に鞭打ってでも、何が何でも契約してもらわなければ―――。


「お願いします。私と―――…」


ギルガメッシュは、寝転んだまま、その 大きな手で私の口を塞いだ。思いもよらない行動に、目を何度も瞬いてしまう。


「契約はしてやろう。だが、条件がある。」


口を塞いだ手が離れ、その人差し指が私の鼻先に向けられる。つまり、その条件は一つということだろうか?困惑はあるが、ギルガメッシュの赤い瞳を見つめ返して提示を待つ。


「“契約”するということは、貴様は我の臣下になると同義。以後、我のことは“王”と呼ぶがいい」
「………?」


そんな条件…?
別に呼び方を変えるくらい、なんでもないけど、だから逆に何かウラがあるんじゃないかと気になるのだが……。あと10分を切った今、そんなことを確認しているヒマはない。


「わかった、よ………王様…?」


私の言ったその言葉に、ギルガメッシュは鼻で笑ったのだった。といっても馬鹿にしたような様子ではなく、なぜか。どこか懐かしむような顔をして、


「それを聞くのも久しぶりよな。」
「…?」
「―――――“マキナ”。」


何かの拍子に、つい口から出た風に言うことはあっても こうして、恐らく意図的に呼ばれたのは初めてで、妙な緊張感があった。また、“久しぶり”とか、会って間もない私におかしなことを言ってるけど今は、そんな揚げ足を取っていい状況ではない。どうせ答えてもくれないだろうし。条件も飲んだことだし、もう一度先ほどの言葉の続きを言おうと口を開いたのだが、ギルガメッシュの方が早かった。


「汝が我を招きしマスターか?」


それは鋭い視線でも、威圧感に溢れていたわけでもなかったが、逸らすことのできない瞳だった。私の頭の中の雑念を取り払って、ギルガメッシュのみに集中させるに充分だった。息を呑み、深呼吸をする。

――――ついにこの科白を聞くことができた。

返す言葉を選んでいる場合ではない。浮かぶ言葉をそのままに、その気が変わらない内に、応えよう。


「私が、貴方を召喚したマスターです。呼ぶつもりも無く呼んじゃったし…その、心の準備もできてなくて……家具しか持ってないサーヴァントとか侮っちゃったり、不甲斐ないところも一杯あると思うけど……どうか私の…サーヴァントになってください。」


――――。―――…
ちょっと、余計なことを、言ったかも、しれない。

俯き、恐る恐る上目遣いで顔色を窺うが…ギルガメッシュが怒った様子はなかった。その、疲れているからかもしれないけど…。

自分の言った言葉に動揺していると、ギルガメッシュの伸ばしていた手がそっと私の頬を包む。その暖かさが、今は妙に安心した気持ちにさせる。もう一度深呼吸をし、恐る恐るではなく、正面からギルガメッシュを見つめた。


「…よかろう、サーヴァント『アーチャー』召喚に従い参上した。これより我が『弓』は汝と共にあり、汝の運命は我と共にある。 ―――――ここに契約は成立した。」


組織(USTMiC)で聞いていたとおり、教科書(マニュアル)通りの儀式(うけこたえ)。だからこそ安堵する。
ああ、これで憂患が一つ消えた。
一瞬、軽く感電でもしたかのような衝撃が体中に走る。が、きっとそういうものなんだろう。使い魔との契約なんて初めてだし、魔術回路(サーキット)の接続とか…あ、あれ………?


「―――――…」


気が抜けたのか、身体が前のめりに緩やかに倒れる。確かに盛りだくさんな一日だったし、そういうこともあるだろう。だけど―――…


「寝台の上でよかったであろう?」


身体、が、動かない―――意識はあるけど、身体が動かせない…微動だにしない…?先程の衝撃…あれが予想以上に強かったのか。改めて自身の状態を確認すると“感電”と感じたのもその筈、魔術回路がショートしていた。こんな話は組織から聞いていない…!もしかして、当初やる筈のなかった、サーヴァントとの“二重契約”が原因なのか?急に不安になってしまう。このまま動かなかったら、どうしようと―――――!


「案ずるな。一刻もすれば元通りになる。それより眠るぞ。お前は飽きるほど寝ただろうが…我に付き合え。」


そう言って、ギルガメッシュは脇に倒れていた私を片腕で抱き寄せ、腕置きにした。

………、―――――…
…重い………。

というか、アレ?ナンダコレ?
模様替えする時に添い寝を拒否してるのに、どさくさに紛れてこの状況は一体…でも、今日は色々迷惑をかけているみたいだし、我侭も言えない。

それにしても、恥ずかしい。
本当に、ギルガメッシュやトワイスの言う通り、今日の私は寝てばっかりだ……。これではジナコさんみたいなニートになってしまう。

……だけど。
身体は石化でもしたような有様だし、一応深夜になったのだし。ここは大人しく寝ておこう。確かにまだまだ身体に魂にと酷使し過ぎて、未だ疲れは残っているのだ。

――――既に、ギルガメッシュの寝息らしきものも聞こえているし。つられて眠ることにしよう。


『おつかれさま、王様。』


声にはならなかったが、なんとか唇を動かす。私以上に頑張ってくれたであろう、サーヴァントを労わなければ。聞こえなかったと思うのに、ギルガメッシュは、掴んでいた私の肩に、少し力をいれたのだった。


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