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色々とあって夜。夕方はとうに過ぎ去った。私はかなり趣きの変わったマイルームで、夕飯を作っている。それでなくとも身体がズタボロだったというのに金ピカとやりあって、部屋をカスタムしてクタクタだというのに夕食までいそいそと作るとか、私は働き者だ。
主義には反するが、気持ちとしてはカップラーメンを投げつけたい意気込みだ。購買の焼きそばパンでもカレーパンでもいいが。自分一人であれば、これほど疲れていれば一食くらい抜いてしまうのだが…金ピカが「夕餉の用意をせぬか」などと抜かすので、仕方なく食わせてやることにしたのだ。
食材はどこから仕入れているのか?答えは簡単、これだって自分の作成したデータが元だ。だからどんな食材だって手に入るし、料理を直に作成することも可能。それを態々調理する理由に付いては──ご察しください。といった感じだ。私の父はイタリア人で母は日本人。そう聞くとイタリア料理と日本料理が得意そうに思うが…まあ確かにその二つは基本を抑えているつもりだが世界各地を点々としているため、実際はもう少しレパートリーがある。
とはいえ古代メソポタミア人の食事などさっぱり検討がつかないので自分の食べたい料理を作っている。サルシッチャとトマト、ナス、ズッキーニのパスタ。ほんのりサワークリーム風味。上に少々パルミジャーノ・レッジャーノを乗せる。重くなく、野菜もそれなりに摂れ、尚且つサルシッチャで肉分は満足。何より一品で終わらせられるのが素晴らしい。とはいえ、これで金ピカが満足するかどうかは検討がつかないが。まあ、今のところは文句もつけずに大人しく待っているようなので早々に完成させてしまおう。
闘論の末、金箔張りは回避されることとなったが、マキナは複数の宮殿のデータを参考に、部屋を一つ一つ改修。壁紙、カーテン、絨毯、シャンデリア、風呂…可能な限りマキナの好みに合うデザインで、王侯貴族の部屋に勝るとも劣らない豪華絢爛さ。マキナはやればやる程阿呆らしさを感じるのだが最早ふっきれた部分もあり、とにかく徹底的に飾る。何しろ、元が教室なので、ミスマッチなこと限りなしだ。
ともあれ、ギルガメッシュは割に満足を。しかし庶民的な憩いのスペースは絶対に外せないマキナは分厚いカーテンで仕切り、自分のベッドと洗面所、作業用テーブルだけは
以前の趣を維持したまま、全体の6分の1のスペースに残した。ダイニングキッチンを含むその他の共用利用の要素に加え一部マキナしか使わない要素を貴族部屋に配置したのだがそれについてギルガメッシュは何も言わなかった。
曰く、ギルガメッシュが許容できなかったのは庶民的な空間であり、マキナは彼の『持ち物』か『ペット』の位置付けらしく。そんなマキナのスペースなども『インテリア』程度の感覚。その広い心で受け入れている(邪魔に思わない)らしい。
現実世界でも、あまり『人』扱いされていないマキナは、そんな発言に反発するのも今更だと思い、何より疲れていたので完全に発言をスルーした。やっと長い模様替え(カスタマイズ)が終わるのだ。すぐそこにある休息を手に入れる為、仕上げに入ろうとしていたマキナだが――
マキナを『人』扱いしないギルガメッシュの次の言葉に、また闘論(たたかい)の火蓋(二枚目)が切って落とされたのだった。
「小娘、寝台をもう少し広くするがいい」
「…どんだけ寝相悪いんですか、貴方」
天蓋付きの豪勢な寝台、キングサイズ。プライスレス。
器械体操でもする気かこのヤロー。自分ならこの二分の一の面積でも充分過ぎると考えていたマキナは次の言葉にフリーズした。
「我の寝相が悪いものか。だが…貴様の寝相が悪いというのなら広くして然るべきだろうな」
「……」
私の寝相が悪いわけあるかこの金ピカ野郎…!などというのは恐らく少し的外れな怒りだろう。相変わらず男は偉そうで、しかも何故かドヤ顔だ。
「…は?私がここで寝るんですか?」
「王が女を侍らせるのは当然のこと。臥所でも然り、な」
「…私さっき『愛玩動物(ペット)』扱いされてた気がするんですが」
「大差なかろう」
「……」
ギルガメッシュは、寧ろ自分と寝所を共にできるのはありがたいことで
マキナは喜んで然るべき、謹んで受け入れるべきとすら思っている。
だから、マキナがさっぱり喜んでいないことを寧ろ不審に感じた程だ。
対するマキナはまだじゅうろくさいだ。別にイヤラシイ妄想をしたわけではない。しているわけではないが…そう、常識的に考えて、思春期の女子が男と添い寝などあらゆる意味でアウトオブアウトだ。マキナは恐らく人生で初めて…一目瞭然なまでに赤面。耳まで赤くして、わなわなと震えながら叫んだ。そして、たった今作成したばかりのシルクのクッションを顔面目掛けて投げつけた。
「テメーはフリードリヒ大王かこのヤロー!!」
犬(ペット)と一緒に寝るとかお前はかのフリードリヒ二世かと言いたかったらしい。
そんな捨て台詞と共に、マキナはカーテンの向こう
6分の1の自分の世界へと一旦引き篭もった。
そして何故かすぐに出戻って闘論しながらも
模様替えの続きを再開、根性で完成させ今に至るのだ。